なぜ、優良企業ほどコミュニティを導入するのか
2023年6月に設立され、コミュニティに特化した企業支援を行うJINEN株式会社。今回は代表取締役CEOの藤田 崇志氏に、JINENの事業概要や藤田氏が起業した背景、企業や社会へ提供したい価値を伺いました。
企業のコスト削減やオープンイノベーションを実現
― JINENの事業概要を教えてください。
2023年6月に設立したJINENは、2024年9月現在、3つの事業を展開または準備を進めています。1つ目に、企業や自治体向けにコミュニティ形成のコンサルティング事業を行っており、「社内コミュニティ」の構築を通じて社員のエンゲージメントを高め、離職率の低下を支援しています。また「エンドユーザーコミュニティ」を立ち上げることで、自社製品やサービスに対する声を拾い、ロイヤルティを向上させています。
2つ目に、法人向けコミュニティマネジメント支援事業では、コミュニティの設計や運営、マネージャーの教育に必要なノウハウを研修プログラムを通じて提供しています。3つ目として、企業がコミュニティを効果的に運営し、コミュニティマネージャーの生産性を上げるためにSaaSも開発しています。このサービスでは、コミュニティマネージャーの適性を診断する機能やコミュニティのKPIを管理するダッシュボードを実装する予定です。
― JINENのメイン事業であるコンサルティングでは、法人のお客様にどのような価値を提供していますか?
人的コストの削減やオープンイノベーションの促進、社員の離職率の低下など、企業のニーズに合わせてコミュニティを設計しています。まず、社内でコミュニティを発足して社員の横の繋がりを強化し、部署間のスキル共有を促進することで「コスト削減」を実現しています。特に大企業では、社内の人的リソースを活用すれば外注に頼ることなく課題を解決できるところ、お互いの認知不足により外部委託に無駄なコストをかけているケースが見られます。社員が日頃からコミュニティを介して部署ごとに人材の顔ぶれやスキルを把握しておけば、困った時に社内で連携して解決策を見出したり、業務を迅速に進めたりできるようになります。
2つ目に、各部署の管理職やリーダーを対象としたイベントを企画・開催することによってコミュニケーションが活発化し、自分だけでは思いつかないアイデアが生まれ、創造力が強化されて「オープンイノベーション」を促進します。実際に、マーケティング部やプロダクト開発部といった部長同士が顔見知りになり、お互いの人材や知識、技術を認識しながら両部署が協力し合って新規事業を立ち上げたり業務改善をしたりするケースもあります。
3つ目に、社内コミュニティが活性化することで企業に「一体感」が生まれ、普段はライバルとして成果を競い合う間柄でも、仕事で困難に直面した仲間を支援しようとする文化が構築されます。このような環境は、社員の業務パフォーマンスの向上や、心理的安全性とエンゲージメントの強化に寄与し、社員の離職率の低下にも繋がります。一方、リモートワークによる社員の孤立やお互いの認識の欠如は、誰かが立ち止まっても手を差し伸べられないため個人やチームの生産性低下を招き、企業全体の損失に至ることもあります。
コミュニティ成功のカギは「初段階からの設計」
― JINENを立ち上げた経緯をお聞かせください。
私は小学4年生の頃、世の中のリーマンショックや身内の不幸が重なり、家庭も困難に直面しました。そんな環境から内向的な性格になり、学校ではいじめに遭いました。中学時代は、球技が得意な人や明るくて面白い人、勉強ができる人が人気者。その世界観にも違和感を抱き、逃げるように陸上に専念しましたね。体育会系の環境で成長し、大学はスポーツ推薦で進学して競技中心の生活を送りました。社会人としてのキャリアを考えていた頃、競技の世界では当たり前だった「忍耐力」や「巻き込み力」が評価されたことがあったんです。自分が他者から認められ、組織で重要なポジションを任せられた時「個性や才能は、少し場所を変えるだけでこんなに輝けるんだ」と痛感しました。
これらの原体験から、大学時代からコミュニティに関わる仕事に就きたいと考えていました。新卒で入社した石川県の商社からカオナビに転職した社会人3年目の頃、立ち上げから携わったコミュニティが安定的に走り始めた成功体験から、この設計・運営のノウハウを世の中に広めたいと思うようになりました。最初に設計図を描かなかったら50階建てのビルが完成しないのと同様に、コミュニティも初段階から綿密に設計しないと、途中でいくらPDCAを回しても、いくら優秀なコミュニティマネージャーが集まっても、いいコミュニティは生まれないからです。
― JINENを設立するまで、どのような試行錯誤を重ねましたか?
一般的に、新規事業の考え方には、市場に寄り添いながら必要とされている製品やサービスを提供するマーケットインと、作り手の理論を優先するプロダクトアウトの2つがありますが、私は後者でコミュニティの重要性を確信していました。当時はまだ賛同していただける方がいませんでしたが、コミュニティの機能や効果を研究しながら複数のコミュニティでトライアンドエラーを重ねるにつれ、世の中がコミュニティマネージャーをプロフェッショナルな職種として認めるようになり、Wantedlyでもコミュニティマネージャーの求人が1年で6倍に増えて社会的需要を実感しました。私自身も積極的に求人に応募しながら、各企業がコミュニティで抱えるペイン(顧客の抱える悩みや問題)をヒアリングし、課題への打ち手や独自の設計ノウハウを編み出していきました。
― JINENの現在のご状況についてお聞かせください。
業務委託のメンバーが集まり始め、これから資金調達を目指すプレシードフェーズにいます。自分が抱えていた大量の業務をいかにメンバー一人ひとりに任せて事業を拡大しようかと考えているところですね。JINENには、輝かしい経歴を持つメンバーや、確実に営業成績を上げるメンバー、多様なスキルを発揮するメンバーがいます。全員に共通するのは、コミュニティ運営の経験を持つプロフェッショナルであることと、コミュニティへの愛が深いことです。
― お客様によってコミュニティに求める機能や効果は異なりますが、JINENの基盤となるお考えをお聞かせください。
ハーバード大学の研究によると、75年間の人生を最も幸せに過ごした人に共通する特徴は、良好な人間関係を築いたこと。現代の資本主義社会では金銭的成功が重視されがちですが、長期的に見ると人間関係の良い人が最も幸せになるんです。真の幸福を得るには、人間関係の向上に努めることが近道であり、それをコミュニティで体現したいんですよね。一方、現代社会では無限の成長や成功を追い求めており、それが人間関係を損なう行動、 例えば、他者をないがしろにしたり、他者から奪って己の利益にしたりすることに繋がっています。これでは人間が理想とする世界と逆行しているのではないかと警鐘を鳴らしたいんです。
利益を継続的に生む企業コミュニティを創出する
― 改めて、JINENではコミュニティを通じてどのようなことを実現したいですか。
シンプルに、企業が継続的に利益を生むことへ貢献したいです。それには、やはり社内コミュニティの形成が欠かせません。社内コミュニティが円滑に回ると、人材の定着や優秀な社員の獲得、エンドユーザーとの長期的な関係構築を維持できます。つまり、社員の生産性が向上し、企業の業績が好調になり、エンドユーザーが自社製品やサービスを喜んでお使いいただけることで、企業は緩やかで持続可能な成長を達成できるようになります。
現在はまだ、コミュニティの重要性に賛同する経営者は少ないかもしれませんが、効果を実感して自ら啓蒙するようになった方は増えています。さらに、日本政府が企業の生産性向上を目的として「人の資本を最大限活用する」とWeb3政策を推進していることから、国の戦略に沿う動きを考慮する企業も現れています。これらの動向は、どんな企業でもコミュニティを取り入れて価値を実感するきっかけとなり得るでしょう。
― 今後のJINENの事業戦略をお聞かせください。
JINENは「コミュニティの企業」として社会的認知と地位を得るために自社ブランドを確立します。そのマイルストーンとして、コンサルティングやスクール、コミュニティマネジメント支援の3つの柱を強化していきます。コミュニティマネージャーの活躍を記事化するなど、クリエイティブによって情緒的なアプローチも実施していきます。ゆくゆくは「コミュニティをつくる人はかっこいい」という新たな価値観を育て、コミュニティマネージャーが外資系コンサルタントと同じ土俵に立つ世界をつくりたいです。
30年後に実現されると言われるWeb3の世界では、人々は自分のアバターを通じてコミュニケーションをすると予想されています。直近では、その予行演習としてDiscord(ゲーマー向けのトークアプリ)でメンバーをアバターで表示すると自分を偽らずに対話できるのか、良好な関係を構築できるのかを試したいです。
― 最後に、JINENに興味を持った方へメッセージをお願いします。
企業がコミュニティを導入することには、多くのメリットがあります。例えば、エンドユーザーの直接的なフィードバックを得ることは、マーケティングに欠かせないデータとして活用できます。また、コミュニティの機能や効果を学ぶことは、円滑な人間関係にも繋がります。私は「コミュニティが個人に求める役割」と「個人が担う役割」に乖離が生まれると、人間関係の悩みが起きやすいと考えています。
例えば、営業部では、売上や人材育成にコミットするために、上司は部下と定量的目標を設定し、未達成の場合はアクションプランを立ててマイクロマネジメントを行います。一方、開発部では、プロダクトのクオリティを高めるために、いかに社員たちのパフォーマンスを発揮させるのかに重点を置くため、営業部と同じ数字へのコミットを求めると、エンジニアがリズムを崩し、チーム全体のクリエイティビティも鈍化してしまいます。「個人間のコミュニケーション」ではなく「コミュニティから見た対人関係」として見る視点は、効果的な組織形成や関係構築にお役立ていただけると考えています。