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【Design 3.0 の道標】「多様性の科学」を読んで

前回の記事では組織において天才が凡人に殺される構造に触れました。

であれば、凡人は黙らせて、ビジネス、テクノロジー、カスタマー・エクスペリエンス各分野を才能ある人にを任せればいいのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、ここにも集団的創造性を阻む落とし穴があります。

そこで今回の記事はマシュー・サイド著「多様性の科学」を紹介したいと思います。

多様性の科学の概略

過去においては様々な業界でこれまで能力至上主義が主流となっていました。いわゆる学力です。科目は複数あるにしても、企業の採用において重要なファクターとなっていた歴史があり、そして、学校の教育体系にもまだその色が残っているのではないかと思います。そんな中、多様性の重要さが認知されておらず軽視されてきた背景があります。

「能力の高さと多様性は両立しないという考え方は長い間主流になっていた。(中略)能力の高さを追求した結果、自然発生的に多様性が生まれるならそれでいい。しかし能力以前に多様性を求めるのは別の話だ。目標の達成を危うくしかねない。
(中略)能力の高さと多様性は両立しないというこの考え方は、リレーチームの人選のような直線的な課題には確かに当てはまる。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

ところがVUCAと呼ばれる時代に入り、課題の複雑性が増す(認識されるようになる)と単一の指標のもとに能力を測って組成された集団の脆さが徐々に明るみになりました。9.11のテロを防げなかったCIAであったり、サッカーイングランド代表チームであったり、エベレスト登山隊だったりします。

しかし、計算では解決できない難題になると話が違う。その場合は同じ考え方の人々の集団より、多様な視点をもつ集団の方が大いにーたいていは圧倒的にー有利だ。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

しかしながら、先の見えないVUCAの時代だからこそ、人は安心を求めたくなります。

人は同じような人間に囲まれていると安心する。ものの見方が同じなら意見も合う。すると自分は正しい頭がいいと感じられる。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

互いの意見に同調し合うばかりで、潜在的にあった固定観念をより強固にしてしまう。それではせっかくの賢者の集団が愚者の集団になってしまう。しかし決して一人ひとりが愚かなわけではない。せっかくの集団が集合知を発揮できないことが問題なのだ。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

スタートアップであれ、大企業のチームであれ、志は同じとしてもものの見方の多様性が重要になってきます。だから外部のエキスパートや課題の当事者に意見を聞きに行くことが基本的な活動として極めて重要になります。

集合知を得るには能力と多様性の両方が欠かせない。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

多様性は高い集合知を生む要因となるが、それには根拠が必要だ。対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々を見つけることがカギになる。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

そのカギを握るのは、他でもなく集団のリーダーです。

集団の支配者が、「異議」を自分の地位に対する脅威ととらえる環境(あるいは実際にそれを威圧するような環境)では、多様な意見が出にくくなる。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

リーダーが組織に与える影響について、インド人IT起業家アビナッシュ・コーシックはこんな面白い名前をつけた。「HiPPO(カバ)」(Highest Paid Person's Opinion(最高級取りの意見))だ。コーシックは言う。「HiPPOは世界を支配している。部下のデータを却下し、会社や顧客にまで自分の意見を押し付け物事を一番わかっているのは自分だと(ときにはそれも事実だが)信じて疑わない。その存在のせいで会議では意見が出にくくなる。」

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

マシューはリーダーシップを支配型と尊敬型に分けて論じます。

社会生活の秩序を保つ要因の1つは、個人が持つ特定の資質に対する敬意だ。例えば狩猟の腕がいい(中略)寛大、優しい、短気でないなど、こうした資質を持つ人物は、必然的に共同体の中で影響力の強い地位につく。そしてまわりの人間は(中略)そのリーダーを喜ばせようと、狩猟やカヌー作りなどの作業を手伝う。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

尊敬型のリーダーは、歯をむき出しにしたり腕を振り回したりはしない。新たなアイデアを思いついたら、それを集団に丹念に伝える。仲間がそれぞれ柔軟に判断して実行してくれると信じているからだ。また尊敬型のリーダーはまわりの声にもしっかりと耳を傾ける。決して「自分には学ぶことなどもうない」などとは思わない。(中略)尊敬型も支配型も、リーダーの「性格」より「テクニック」ととらえたほうがいい

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

当然ながら、リーダーの取るスタンスはメンバーの行動に影響を及ぼします。

人は自分の意見を言う機会をもらった方が物事に積極的に取り組みます。そのほうがモチベーションが上がって創造力も発揮しやすくなり、組織全体の力が高まるのです。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

何か計画を実行するときに重要になるのは支配型。しかし新たな戦略を考えたり、未来を予測したり、あるいはイノベーションを起こそうというときは、多様な視点が欠かせません。そういう場合、支配型は大惨事を招きます。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

さて、あなたの仕事は、直線的な課題でしょうか?それとも複雑な課題でしょうか?

複雑な課題に取り組む場合は膨大なデータを集めて取り組むのと同時に、無数の可能性も考慮する必要がある。(中略)そうした複雑な問題に最善の判断を下すには、ヒエラルキーのあらゆる層から意見やアイデアを引き出すこと、共有可能な関連知識を持つ人全員から学ぶことが欠かせない。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

もし複雑な課題と向き合っているのであれば、自分自身の中にある不安と闘わなければなりません。

人は不確かな状況や、自分でコントロールできない状況を嫌うという結果が出ている。不確かな状況に直面すると我々はある種の支配的なリーダーを支持して、秩序を取り戻そうとする傾向がある。いわば自分の不安を他人の主導力で「埋め合わせ」するのだ。これはときに「代償調整」と呼ばれる。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

あなたの業務がイノベーションであるならば(もちろんそうでない人たちも)多様性と、そこから生まれる集合知をどう蓄積していくかが非常に重要になります。それは単に組織設計だけではなく、風土・文化づくりと密接に関わってきます。

集合知の重要性を理解すれば、現代の企業や集団の間でイノベーションの速度や頻度に大きな差がある理由がわかる。問題は個々人の知性の高さではない。(中略)肝心なのは、集団の中で人々が自由に意見を交換できるか、互いの反論を受け入れられるか、他社から学ぶことができるか、協力しあえるか、第三者の意見を聞き入れられるか、失敗や間違いを許容できるかだ。イノベーションはたった1人の天才が起こすわけではない。人々が自由につながりあえる広範なネットワークが不可欠なのだ。

マシュー・サイド著「多様性の科学」より

以上が「多様性の科学」の概略になります。本書では9.11のテロを防げなかったCIA、サッカーイングランド代表チームの凋落、エベレスト登山隊を襲った事故、といった多様性による集合知が欠けていた事例をもって、その重要性を説いています。

最近の企業では多様性が非常に重要視されるようになってきています。しかし、なぜ重要なのか社員の皆さんはどこまで理解できているでしょうか?単に、これまで人類が克服できなかった”差別”に対するアンチテーゼと捉えていないでしょうか?もちろんそういった側面もあるかと思いますが、多様性はVUCAの時代を生き抜くための必要な戦略要素だということがこちらの本を読めばお分かりになるかと思います。

Design3.0の構成要素①多様性

Design3.0が目指す集団的創造性(マシューが言うところの集合知)において多様性は非常に重要なファクターです。

以前、こちらの記事でDesign3.0は世に出る製品やサービスの地下3階にあたるものだと説明させていただきました。地下1、2階の土台となるから地下3階なのです。

Design 1.0 / 2.0 / 3.0

では、地下1、2階のDesign1.0とDesign2.0では何が行われているのでしょうか?

デザイン対象がカタチか価値か、の違いがありますが、①着想→②統合→③アイデア創造と実験→④実装の4つのプロセスからなります。この表現はソースや流儀によって差異があったりしますが、一旦ここではこの4段階とさせてください。

Design1.0 / 2.0

それに対して、多様性はインプット側に作用しますから左側に配置しました。

Design3.0の構成要素 ①多様性

上下と左そして中央に何が配置されるのか、それは今後の記事で紹介していきたいと思います。

ではまた。

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