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僕がMBO(マネジメント・バイアウト)を行った理由 - (株)400F 中村仁-

こんにちは。お金のマッチングプラットフォーム"お金の健康診断"を運営する400Fで代表をしている中村仁です。

先日FinTechベンチャー(株)お金のデザインを退職し、事業子会社400FをMBO(マネジメントバイアウト)することを発表しました。

2016年4月にお金のデザインに入社して4年3ヶ月はあっという間でした。今回新しいチャレンジをすることで、野村證券(サラリーパーソン)→ベンチャー転職→ベンチャー社長→MBOしてオーナー経営者、というキャリアとなり、世の中でもかなり異色の部類になるのではないかと思います。

今回のnoteではMBOに至った背景や今後の活動についてまとめます。

1. お金のデザイン退職について

お金のデザインの代表取締役を退任し、同社を退職した理由は一言で言うと「十分な結果を残すことができなった」ですここについてなんの言い訳や美談もありません。

僕はお金のデザインの創業者でもなく、2013年に創業された同社の中で2016年入社とそこまでの初期メンバーでもありません。そういった中で、創業者や多くの株主がいる中で、僕がベンチャー経営者として残り続けるためには結果(=成長)を出さないといけないです。

もちろん美点凝視をすれば色々と達成してきたことはあります。しかし変化の激しい企業経営においては「成長が全てを癒す」であり、それを達成できなければ責任を取るしかありません

社長就任時や就任後に思い描いていた将来像を達成できなかった悔しさがめちゃくちゃあって退任をすることは非常に辛いことであります。でも、お金のデザインという会社が今後さらに成長するためには、僕ではななく新しい経営者が新しい経営方針で事業推進を進めていくのが極めて合理的だと思います。今後のお金のデザインは色々と準備しており非常に楽しみです(ちなみに後任の社長とは非常に仲がよく一緒に食事に行っています)。

2. お金のデザインの社長になった背景

元々僕はお金のデザインに転職で入社しました。その際には社長就任することが決まっていたわけでは全くありません。僕自身も「チャンスがあれば」程度に思っていましたが、創業者が会長・社長で在籍していましたし、僕よりも初期に入社した素晴らしいメンバーがお金のデザインにはいました。

お金のデザインは2013年に創業して創業メンバーのトップクラスの金融知識・経験を活かして金融プロダクトの組成を行っていました。当初は一部の富裕層向けに商品展開をしていましたが、マス向けにもビジネスを展開することとなった中で2016年2月に"THEO"というプロダクトが生まれました。

THEOは金融プロダクトとしての洗練度合い、そしてネーミングストーリーなどFinTechによって様々な商品が誕生しましたがその中でもトップクラスに素晴らしいプロダクトだと考えています。

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2016年にTHEOが誕生してからお金のデザインでは「0→1」から「1→10」のフェーズに入ることになりました。そこで経営のギアを変えてスピーディーにスケールするためにも経営者の変更が行われ僕が任命されました。

僕はそれまでは野村證券でサラリーパーソンをしており、経営の経験など全くなくそういった中で社長業を営むこととなりました。当初は緊張の連続で夜もほとんど眠れずに非常にしんどい生活を送っていたことが思い出されます。

社長として結果を出すことに邁進することに本当に必死でした。僕が入社したのはシリーズCの資金調達を行う時期であり、調達ステージではもはやアーリーではない中で、新しい経営体制でのカルチャー作り、プロダクト開発、資金調達、採用、事業戦略の練り直しなどなどあらゆることを成長と同時にやりに行くということはそれなりに大変でした。

3. 社長業のしくじり要因分析

ベンチャーで創業者ではない中で社長になり成長に向けて必死に様々なことを実施してきました。ツイートもしたのですが、お金のデザインは日本のベンチャーの中でも本当に様々な経営施策を実施してきた企業であり、僕個人の社長経験値としては素晴らしいものを得ることができました

しかし、成長という結果に関して僕は十分に残すことができなかったから退任することになりました。経営に「たられば」はありません。ただ、今後僕と同じように創業者でない中で経営者に就任したり、同じような責任を追うことがある人もいると思います。そういった方々の参考にもなるために「何をするべきだったのか」をお伝えできればと思います(もちろん詳細に書けない部分もありますので、気になる方はDMでもしてください)。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がありますが、その通りです。(なお、負けというのは僕の経営能力のことであり、お金のデザインはここから新しい経営陣でさらに成長していくことを僕は確信しています)

自分の社長業の分析を行うとキリがないです。その中でも特に僕が振り返る内容は、①組織作り、②プロダクト開発、③事業戦略、④経営者としての弱みの共有、です。

3-1. 組織づくり

ベンチャーにおいて組織作りは何よりも重要であると思います。大手企業のように経営が安定しているわけでもない中で様々な壁に当たりながらも突き進むには組織の強さが大事です。

組織作りを行うには、「MVV的な社内の共通言語の浸透」「採用」「評価制度」「執行役員含めた体制構築」がつくづく大事だなと思っています。

ベンチャー企業の情報を見ていると様々な場面でMVV(Mision Vision Values)の重要性については語られているので、多くは言わないですが、MVVにおいて最も重要なのは「全社員が何も見ずにMVVを全部言えるか」ということだと思います。つまり、MVVは単なる標語ではダメなんです。全ての社員が自分事としてMVVを語れるようにならないと会社が一致団結して世の中の社会課題やユーザーペインの解決に取り組んでいるとは言えません。経営陣・社員が日々ビジネスに取り組む中で自分たちがやっていること、社内の雰囲気がMVVと照らし合わせて適合しているかと考える組織を作ることが本当に大事だと思います。

そして採用はそのカルチャーを作るメンバーを集める重要な取り組みです。ベンチャー企業においては事業が急激に成長しているため、どうしてもリソースが足りずどんどん人を採用していくことがあると思います。しかし、社内カルチャーは崇高な理念があったとして、各メンバーがその理念をしっかりと認識して実行することができなければ決して醸成されません。そのため自分たちが目指しているカルチャーと採用候補者が本当に合致しているのかということについてはどんなにビジネスが苦しい時であっても妥協してはいけないのです。カルチャー作りは本当に難しく、究極的にはカルチャーフィットしないのであれば経営者は覚悟を持って社員の入れ替えを行わないといけないと思います。

評価制度については、色々と言われますが僕はベンチャー経営において「やりがい搾取」は絶対にいけないと思っています。ベンチャー企業が理念や夢を語って社員を採用して、その社員の給与がいつまでも上がらないというのはその社員の人生を犠牲にしていることもあります。そうならないようにするためにも、評価制度は早期に導入して組織の形に合わせて柔軟に変更していくことが良いと思います。評価制度は万人が満足するものを作るのは極めて困難です。そして、組織がある程度大きくなってから導入すると反発と調整が続くことになるため、初期段階で導入しつつ不可逆なものとせず組織のステージ合わせて変更していくことを僕はお勧めします。

そして、執行役員を含めた組織作りは本当に苦労します。ティール組織などが言われる現在ですが、それを本当に実現するのはなかなか難しいと思っています。執行役員や部長を選ぶということは誰かのポジションを奪うことでもあります。例えば誰かを執行役員・部長に任命してしまうと他のメンバーが部長になる可能性を低くすることにもなります。そういった中で僕が大事にしなければならなかったと思うのは、「全ての任命は不可逆なものであってはならない」」ということです。サイバーエージェントがかつてCA8という制度を導入して役員の入れ替えをしていました。こちらと同じように定期的に入れ替えるのがいいかどうかは分かりませんが、組織は生き物であり、企業のステージ毎に各役員、CXOなどに求められる役割は変化すると思っています。それなのに役職が固定化されていると組織の成長の阻害要因となるため、経営者は厳しい決断になるのですが、自ら任命した管理職を不可逆な任命とせずに組織のステージに合わせて変更する勇気が必要です。

組織作りにおいて穏便かつ綺麗な体制構築をできることは稀です。経営者は会社のミッション達成に向けて最適な組織作りに対して狂気的にならないといけないですし、厳しい決断をする勇気も必要になります。そして同時に仲間作りも必死にやらないといけない。組織それぞれにおいて正解は異なるため、様々な方々から意見を聞いたりアドバイスをもらうことが大事ですが、結局この悩みを解決できるのは究極的には経営者自身だけだと思います。

3-2.プロダクト開発

プロダクトについては僕は「社会課題の解決」「ユーザーペインの解消」にフォーカスして開発するチームにするべきだと考えている人間です。

そして社会課題の解決とは大きな理念のようなものでありプロダクト全体の方向性を決めます。ユーザーペインの解決はプロダクトの詳細な要件を決めるものであり、全てのプロダクトにおいてはユーザーにベネフィットを感じてもらえなければ使われなくなってしまいます

そんなプロダクト開発で大事なことは「プロダクトについてメンバーが語る時に主語は誰か?」ということだと思っています。メンバー個人がどれだけ優秀であったとしてもそれをユーザーが同意してくれるかは分かりません。そういった中で、優秀なメンバーほど声が大きかったり組織への影響力が強くなったりします。その優秀なメンバーが本当のユーザーペインを理解しないままにプロダクトの方向性を決めてしまうと大きな危険を伴います。

そのため、プロダクトの方向性や機能開発においては常にユーザーを主語にして「これは○○というユーザーに求められている」「これは○○というユーザーのペイン解消に繋がる」とより具体的な言葉になることが良いと思っています。

組織がどれだけ大きくなっても常にユーザーファーストでプロダクト開発できる組織にしているかどうかがグロースするには最も大事だと思っています。そのような組織にするにはできる限り全メンバーが顧客の声を直にバイアスなくヒアリングすることが良いです。最近ではオンライン会議システムも完備されてきているので、録画でもいいので全メンバーが見ることを僕は強くお勧めします。また、ヒアリングをした内容をベースにプロダクト構想をする初期段階は全員で意見を発散させつつ、経営者が議論を収束させていくことが大事だと思います。最初からトップダウンで方向性を示すのではなく、メンバーの声を発散させつつもまとめていくことで当事者意識が芽生えるのでプロダクトに対する想いも強くなりより良いプロダクトになっていきます。

3-3. 事業戦略

ベンチャーは常にリソースが逼迫します。そんな中でメインプロダクトがまだまだキャッシュカウになっていない状態で、親和性が高いと思われる事業やビジネスに横展開をすると本来最もリソースを割くべきメインプロダクトが弱くなります(当たり前ですが)。

全てのチームが完全にバラバラであり、システムインフラやエンジニア、マーケティング、セールスリソースも被ることが一切ないのであれば事業の多角化はある程度良いと思います。しかし、少しでも紐づいていることがあれば、経営者が思っている以上に現場は混乱しますし、リソース配分やトラブル対応に時間を割かれてメインプロダクトのグロースを犠牲にすることがあります。

メインプロダクトで圧倒的なシェア、もしくは粗利が高くて儲かるビジネスをしている以外において、「隣の芝は青く見える」「自分たちが今のうちにやっておくべき」という理由で事業の多角化をすることはビジネスグロースを犠牲にするのでやめたほうがいいと思います。

また将来的な事業戦略は、最終的なゴールを示しておくべきです。ベンチャーは目の前のことに必死になる中で「今やっていることが何に繋がるのか」「このまま突き進んで大丈夫なのか」という不安がメンバーには常にあると思います。そういった中で、今やっていることの延長線上に経営者として何を見ているのかをしっかり言語化して社内に共有することで、取り組んでいることの意義をメンバーが感じてくれますし、事業推進スピードが早まります。なんとなくこのビジネスは筋がいいという理由だけで事業推進するのは死に向かうのと同じです。

そのため、経営者は事業のクローズについても勇気を持ってスピーディーに意思決定することが求められます。最初の事業クローズの意思決定は本当に大変です。それでも覚悟と責任を持って会社のミッション達成のためにクローズするべき事業はクローズする。そして本来リソースを投下するべき事業に集中するということが大事だと思います。

3-4. 経営者としての弱みの共有

経営者は事業を成長させることや資金調達に躍起になり強気姿勢を貫くことが多いです。僕の場合には、創業者でない中で事業成長と資金調達、そして組織を取りまとめることが必要だと"勝手に自分で"感じていたため弱みを見せることなく突き進んでいました。

そんな中で尊敬する経営者で知人でもあるマネーフォワードの辻さんからはお会いする度に「仁くんはもっと弱みを見せるべきだよ」と言われ続けていました。しかし、当初は僕はその意味が真には理解できずに、常に強気姿勢でいました。結局そのような強気姿勢だけでいると現場との距離感が発生したり、経営と現場が一緒に頑張ろう!という雰囲気が醸成されにくくなるのだと分かりました。

経営者がメンバーなどに弱みを見せることは組織における心理的安全性を醸成するものでもあり、メンバー自身が「やってやる!」と思ってもらうきっかけにもなると思っています。

経営者は株主、取締役/監査役、その他の関係者などとの関係性の中でついつい頑張りすぎたり強気になりすぎたりすることがあると思います。しかし、それを常にやってきた僕だから声を大にして言いたいのが「弱みを見せる勇気は本当に大事だよ」ということです。しかもその弱みを見せる相手は社内メンバーであるべきです。周りの経営者仲間だけで弱みを見せてもいきません(それはそれで様々なアドバイスをもらえるのでめちゃくちゃ重要です)。

4. MBOをすることに至った背景

お金のデザインで経営について色々と経験してきた中で、今回僕はMBOをすることとなりました。お金のデザインに入社する前から僕は「人とテクノロジーの融合」が今後の金融業界で重要だと考えていました。これは野村證券時代に海外でリサーチをしたり、本社で企画をしたり、実際に現場で営業をやってきたりした中で、ネット完結だけで人が合理的に金融関連の判断をするのは難しいと考えたためです。行動ファイナンスという学問が生まれるくらいに人間は合理的な行動ができない生物です。

そういった考えもあって、2017年3月にお金のデザインの社長に就任し、その布石を打つために2017年11月に(株)400Fを設立してお金のマッチングプラットフォーム"お金の健康診断"の開発を進めてきました。

今回、お金のデザインでの事業結果を出せずに社長を退任することとなってから、取締役メンバーには400Fを自分の手でグロースさせたいというわがままを伝えました。

ベンチャー子会社でいる限り事業投資も経営の意思決定も全ては親会社に委ねられます。そういった中で、自分の責任において事業をグロースさせたいと考え、MBOの提案をしました。

多くの利害関係者がいる中で、諸条件やMBOの有無などについては様々な議論がありました。それでも、今回は100%株式を買い取る形でのMBOが実現しました。こちらについては感謝をしてもしきれないです。

5. 今後について

ベンチャー経営者として僕は「セカンドチャンスを与えられた」と思っています。

本来はお金のデザインを自らが圧倒的成長の実現につなげて成功させたいと心から考えており、自分の人生を捧げて経営をしてきました。しかし、結果としては悔しい思いをすることとなってしまいました。

今度は自らがオーナーとなり再び社会課題とユーザーペインの解決に取り組むチャンスを与えられました。今回は自らが創業者であり代表でもあります。これまで以上に自らが信じる道を猛スピードで突き進み、社会課題やユーザーペインの解決を実現していきます。

今後事業推進していく中で様々な困難に直面すると思います。そういった中でもお金のデザインでの経験を活かして圧倒的なグロースを達成していきたいと思います。それこそがお世話になったお金のデザインへの恩返しですし、お金のデザインを経験したからこそここまで成長できたと言えるようにしたいと思います。

長文でしたがここまでnoteをご覧いただきありがとうございます。最後に400FのMVV(Mision Vision Value)を共有いたします。色々と経験してきた僕たちだからこそ描けるリアルな世界観だと思っています。

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