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生命科学の実験室でプラごみをへらす方法とは


はじめに


 この分野、四半世紀前の転職まぎわには使い捨てのプラスチック資材をけっこう使いはじめる時代だった。その時点で転職ししばらくはなれていたが、ふたたび職に就いた。

そしてわかったことはプラスチック機材がごくふつうになりもはやあふれている。マネジメントやくふうの余地はないかと頭をよぎった。たよりたい運営費は枯渇している。

これはなんとかしなくちゃ。化学にベースをもつスタッフともども負担にならない範囲でガラス器具を復活させたり、リユースしたりいろいろやってみた。

卒論当時は…


 わたしが卒論をやっていたころ。つまりとおいむかしのこと。その当時の生命科学分野であてがわれた器具の多くは先輩たちがだいじにつかってきたガラス製のもの。高価なものが多く、それらを実験で使いおわると強力なクロム酸混液や界面活性剤の原末をつかい洗浄。

それでも落ちないときには濃硝酸と濃塩酸をある比率でまぜた王水や、フッ化水素酸などをつかった。後者はすりガラスになる一歩手前でやめて汚れを落とすあらわざをやっていた。

すべて昭和を研究者ですごした方から平成のわたしへの伝授。いずれも強力な手法。これらの強酸などの扱いや処分法を考えると、令和のいまでは禁じ手一歩手前かもしれない。

いまでもプラスチック容器が使えない手法ではガラス器具を使う。そのためある程度の洗浄法は身につけておいたほうが役に立つ。

最高にやっかいなのは…


 わたしの独断でわけたレベルべつのガラス実験器具の洗い方を示す。あくまでもおおざっぱにわけてあるにすぎない。実際には実験の種類によってちがう場合がある。

①一般レベル(1,2年生の演習実験や定性実験程度)
 わかりやすく示すとすれば試験管内に目に見える量の対象をあつかう実験など。通常はつかい終わった廃液を回収後、ガラスの試験管を洗剤で洗う。ここまではふつう。水道水であらいおわると濡れたまま蒸留水ですすぐ。この蒸留水は水道水の原水を2回蒸留したもの。したがって「2次蒸留水」と呼んでいた。

これを乾燥機で乾かすとふつうの化学実験につかえるレベル。

②精密レベル(卒論以上の一般的な生化学実験…マイクロモル~ナノモルレベルが多い)
 基本的に試験管のなかの物質は目で見えない。はたから見ていると、カラの試験管へ試薬をいれたり加熱したりしているようにしか見えない。こうした実験を精密におこなうばあいには①で終わりでない。さらに超純水装置から出てきた超純水でよくあらい乾燥。

③もっと精度をを要するレベル(ピコモルレベルの定量実験、アトモルレベルの定性実験)
 ②のあとガスバーナーを用いて赤熱するまで試験管を焼く(あるいは赤熱するほどの高温を維持できる電気炉に入れる)。こうしてやっと使えるレベルにできる。これでやっと「きれいになった」状態。

③はさすがにたいへんな作業なので、まとめてじかんのあるときにやっていた。これはさすがにいまでもガラス器具でないと無理。

*くりかえしますが①~③はあくまでも独断です。

ところがところが

 修士を終える頃からプラスチックの機材が豊富に地方でも流通するようになってきた。なかでもチップ類や小さなチューブ類はガラス器具と併用していたのもつかのま、いつのまにか凌駕して一部の例外をのぞき、上の①や②の実験を中心におきかわっていった。

これらのプラスチック機材は基本的に使いすて。なかには水洗いするだけで、実験のグレードをおとして使うことが多い。これはさすがに不慣れな学生さんたちにはすすめられない。

実験の精度やあつかいのちがい、実験の重要性などさまざま考えた上で、リユースして使っていいかどうか判断する必要がある。もちろん重要な実験時にリユース品をつかうのはおすすめしない。

ほんとうはこうした判断力をつけてほしいけれど、一朝一夕には無理なことはわかっている。経験と時間が必要なのことは明白。

コンタミネーションがどんなふうにおこるか、おこりやすいかを熟知したり、コントロール実験やバックグラウンドに異常値が出てこないかたえず頭のすみにおいたうえでのつかいわけが求められる。

したがって他人にはおすすめしないが、そのぶんプラごみは増える。その山を目にする覚悟がいる。

くふうできないか


 プラスチックなので手荒なことはできない。きずついたり変形したりではもともこもない。塩素系漂白剤はどの程度有効だろうかとか、実験におうじて洗浄方法をくふうする余地はありそう。

実験の種類に応じてリユースの場面を設けてみるなど、スタッフどうしで話し合い、取り決めるといいかもしれない。

K大大学院の先生とお話した際、研究室マネジメントのポイントを抑えつつくふうをくわえると、外部から得られる研究費に匹敵するほど、つまりその労苦に見合うほどだとおっしゃっていた。

おわりに


 タンパク質、微生物培養、RNA、細胞培養と実験操作の難易とともに機材のとりあつかいにもそれぞれ独特な注意がもとめられる。実験の種類に貴賤はないが、それぞれの対象ごとにノウハウやコツがあり、経験値がものを言う場面がでてくる。

すでに人手が足りてない現状があるのでこまかいことばかりいいたくないが、プラごみひとつ減らそうと思えば、チームワークの醸成などもふくめて研究室の運営全体に関わっているといってもおおげさではない。


#やってみた大賞

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