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(エッセイ)のこぎりで木を切りながら生きものと会話できた? 庭先で起こった予想外のできごと


はじめに 


 庭で変わったできごとに遭遇した。すくなくともわたしにはそう思えた。何も夢を見ていたわけではないし、なんのこともない日常の作業中のできごと。

それはつい先ほどふとしたことがきっかけで思い出した。ここに5年前の体験として記録しておく。


家づくりで変わること


 家の新築予定地はわきを小川が流れる田畑だった。

大型の土木機械が入り数時間のうちにきれいさっぱり整地してしまった。土地をならすだけと思っていたが、こっちの土をあっちへ持っていき、むこうの土塊をこっちに埋めるを繰り返しているうちに更地に。じつにあっけない。

おかげでそこをすみかにしていたであろう生き物はいったん追い出されてしまった。たしかにこれぐらいダイナミックな形状変更だと、信心深くない私でも地鎮祭ぐらいはやったほうが良さそうだという気になり、すかさずおこなった。

そしてわが家をつくってからしばらくの間、家のまわりは殺風景なままだった。


なかなか原状復帰とは…


 家を建て終えるまでにおおかたのエネルギーと財源を使い果たし、すっからかんだったので庭づくりをあとまわしに。

ほんとうにまったくもって何もはえておらず、目につく虫すらいない。しずかな世界に見えた。家の建っている周囲一面、土くれの状態だったので家にいる休日に石や建築時の残物の片づけをおこないつつ、土づくりに励んだ。

するとうちと近所のこどもたちにとって格好のどろんこ遊びの場に。雨が降ると泥だらけになり、玄関先にたどりつくまでに履いている靴が泥だらけ。水たまりを避けながら家にたどりつく状況をなんとかしなければならなかった。

そこで必要部分にコンクリートや石を敷きつめるなどして、道路から家の玄関にたどりつける工事をおこなった。

その頃になってようやく雑草がすこしづつ顔をのぞかせるようになってきた。


ようやく増えてきた生き物


 それでも周囲の家々とはちがい、わが家のまわりはどこの工事現場だろうか見まごうばかり。なんとかしなくてはと工事後に土づくりを再開。1年草を2,3種育てても枯らさない程度にはなっていた。

つぎは果樹や庭木を移植して耐えている状況に。すこしだけスキルがついてきたのかもしれない。ここまで3年ほどかかっただろうか。

さて、やっと本題に入れる。


世にも不思議な…

 ようやく庭らしくなってきた頃のできごとだ。

 じつはその日、庭の作業で使う板材を適当な長さに切りそろえる必要があった。のこぎりを使うと木くずが出るので屋内は使わない。裏口の出入り口のあがりかまちの2段の階段(コンクリート製)が屋外にある。

そこで木を切ると押さえやすく、切り屑のかたづけが楽なので木工作業はそこで行っていた。

おもむろに両刃のこぎりをとりだし板材をすえつけ、板をギコギコと音を立てながら切っていた。えんえんとギコギコと。厚みのある板材なのでけっこう低めにひびく音。ほのかに汗をかくほどの作業だ。

ギコギコとさらにつぎの板に取りかかる。こころなしかギコギコの音が響いて聞こえる。そして手をいったん休めると、一瞬ギコギコの音が遅れて聞こえた気がした。ああ、やまびこが裏山に響いて聞こえたのだろうと思った。


やまびこ?


 そしてのこぎりのギコギコ作業を再開、手を止めるとやはり遅れて聞こえた。しかも自分よりも「ぎこ」と1回多い。あれっ、おかしなやまびこだ。反射した音がさらにはねかえったのかと思った。

またギコギコ再開。ギコギコ(わたし)、「ぎこぎこぎこ。」(やまびこ)。やっぱり変。ギコギコギコ。「ぎこぎこ、ぎこぎこ、ぎこぎこ。」ああ、やっぱり多いよ、あきらかに変。やまびこじゃない。

わざとのこぎりの音を出してみて応答を確かめる。ギコ。「ぎこぎこぎこ。」2回多かった。ああ、なるほど、カエルだ。

わたしの下手なのこぎりをひく音に、なんとガマガエルが応答したらしい。カエルが「ぎこぎこ」と、のこぎりの音に合せて鳴くなんて。みょうなことがあるものだ。

わたしをからかっているのか、はたまた声をかけてくれたのか。ひとりで作業していたが思わず吹き出してしまった。


おわりに


 さて現在にもどる。ついさきほど上空をいく飛行機の音に合わせてカエルが鳴いたので、このできごとを思い出せた。

 両刃のこぎりの上手な使い手ならばこうした「会話」は起こるまい。いかにも低く響き渡るぎこちない音だったのだろう。ようやくわが庭先を落ち着き先にしようとした矢先に惑わせてしまった。

彼(オス)はのこぎりの音から、おそらくライバルもしくは同輩と感じとったのだろう。なかなか堂々とした鳴き声だった。

参考までに関係のありそうな論文をあげておく。なかなか最近になってようやくすこしずつ研究対象になってきたようだ。


引用文献


生物音響学の最近の動向: 発声聴取機構における種の多様性 ーカエルの合唱に潜む同期現象室内実験 ,野外観測 ,数理モデルによる解析 合原一究 、日本音響学会誌 71巻,7号 (2015), pp. 350−356.

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