「不思議な水銀の話」情報を網羅しつくすとこうなる クニのお役人さんたちがとうとう著しちゃった
(2023.9.23一部を改変。URLなどを改めました。)
はじめに
大学では化学をえらび、そののち生化学に関する職に就いてたくさんの学生に接してきた。これまでの人生の過半の時間をこの分野のごく一端のはぎれのごとき微塵をかいま見るためにすごした。教えるためには本からの情報は欠かせない。
本の虫であることは幼少のころから変わりなく、興味のある領域の本や論文には食指がのびる。
この本、「不思議な水銀の話」(ネット本)は、ああ、やられたなというのが第一感。これほどの内容をだれが著したのだろうと読みはじめてすぐに気になった。「文:斉藤 貢」とある。ああ、なるほどお役人さんか。大学のセンセイの肩書もお持ちのよう。
奥付には、「令和3年3月 第2版 環境省環境保健部水銀対策推進室」とあるのみ。彼らはいったい何者だろう。まさかボットが書いたわけないしなあ。ふつう本を手に取る際には、著者の把握については読書を導く道路標識のごときほぼ必須の手順のはず。
この点でもふつうの読書の「お点前」を踏んでいない。そんな禁じ手ともいえるおもしろいことをする人々とは。気になってしかたない。
化学のイメージとは
わたしをつかんで離さなかった化学のイメージとはこうだ。独断と私見を紹介したい。
化学というそれはそれは大きなお山がそびえている。わたしは、そのごくごく切れっ端の山すその、さらにすみっこにある砂場に残されたこどもが両のひらで積んだこぶのごときものに関して、やっとそのサイズがわかってきたと言っているにすぎない。
つまり平凡なひとりの化学者ができることはその程度でたかがしれている。ただしその砂場の山の砂のひとつぶなくしては見上げる山はかたちづくれない。学問とはそういったものと理解してきた。
このところ化学の分野に関してはイメージがいまひとつはっきりしない。精密機械とともに日本の屋台骨をささえてきた産業ならびに学問分野のひとつ。世界的にみてもそう。
おかたい話は
化学をつうじて得られたベネフィットとともにわかってきた生命・環境へのリスクや影響の側面がクローズアップされてきた。それだけにこの分野のたどってきた道のりを記し、果たすやくわりをリスクコミュニケーションとともに考え、後世へつたえるのはとてもたいせつだと思う。
そうしないと人類はおなじ過ちをくりかえしてしまいかねない。それは「しっぺがえし」に遭遇した世代のつとめかもしれない。ああ、・・・ちょっと肩に力が入りすぎたかも。漢字の熟語が多いと疲れる。ここからさきは、紹介する本に合わせてむしろ気楽なきもちで記したい。
さて、本の紹介
そんなちょっとあたまの小腹がすいたときに手にとりたい1冊。書名「水銀の不思議な話」は・・・、
え~っ、クニのおカタいはずのお役所がぁ~、ここまで書いてダイジョウブなんかい? と、日本国中央省庁行政機関におつとめの方々の意識の変革がすすみつつあることを確信させてもらえる。
こんな企画、よく通るなあという感じ。そういえば農水省にもいらしたなあこんな方々。
きっといずれも理解ある上司にめぐまれてるんだなと、舞台裏が気になってしょうがない。
この本を企画し書きあらわしたことから、著者たちに、自分たちが関わってきたこと、知っておかないといけないこと、これから経験し対処していかねばならないことを察知し、その覚悟というか自覚が随所に感じられる。
くつがかゆい?
こんな隔靴掻痒の表現をくりかえしているのはネタバレしやすいわりと平易な内容だから。
こればかりはネタ、スジやオチに触れずして紹介するという、矛盾に満ちた本ならではの紹介作法の宿命かもしれない。そんなときのきまり文句「まずは手にとって読んでほしい。」はこのためにあるのだとつくづく知れた。
そしてそれぞれの読者にはいい意味で懐疑的であってほしい。同時にこちらもいい意味でこれがこの国の役人たちのやっている仕事の一端なんだと。
水銀なんてと思ったけど…
まずは初見の感想から。あれっ、これは何?と思ってネット上で通り過ぎようとしていた。あるしごとで環境省のサイトに入り、用事が済んだのでさようならと出ようとした矢先に、チラリと表題が目にいった。
「不思議な水銀の話」とある。あっ、そうか。環境省だもんな。環境に関わるお話か。何か一般向けの環境化学の啓蒙書かなんかだろうなあ。と思いふたたびサイトを閉じようとした。
しかし、なんだか表題の「不思議」の3文字が気になってしまい、本全体のPDFファイルをダウンロード、デスクトップに残し、あとからパラパラめくってみようと手が勝手に動いた(リモートコントロールで動かされたのかもしれない)。
水銀。これは元素のひとつ。原子番号80。ハチジュウ?そう、80。元素は100余りしか見つかっていないよね。そのなかで80番って、かなりうしろのほう。1~30番ぐらいならば高校で得体のしれない呪文で暗記していったっけ。水素、ヘリウム…とくらべるとう~ん、水銀ってなじみがうすい。
どうもその語感からして異様。「水」ってつくのに、かたや「銀」とも。これって…もしかして、液体?そう、常温で液体。その元素やそれにまつわるお話だけでも膨大な蓄積があるわけ。
元素をあやつって…
人類はいにしえの頃からこの元素のさまざまな形態に接しておどろき、利用し、ときには困ってきた。その涙ぐましいまでの数々。よくもまあ、これだけ集めたなと思う。
読みながら頭のなかをさまざまな事象がかけめぐる。この本には水銀にまつわる化学や技術のみならず歴史、文学などの人文・社会科学のわりと身近な話題にも触れている。
あきらかにわたしの脳内へ新たな経路が形成され、脳内バイパスの伸長を促がせてもらえた。前の文の表現は自分でもよくわからないが、こんなことがあったなんてと、いたるところに垣間見せているまさしくトリビアな話題の集約こそ怪著と呼ぶにふさわしい1冊。
昼休みにでもそう~っと
それから数日後の昼休み。そうそう、まだつづきがあったと引っ張り出して楽しみ半分でPDFファイルを開く。本の装丁と背表紙をもじったデザイン。紙での出版を想定したのかどうか。環境省のエコだから紙の節約かな。
どこから読んでもそれなりにへえ~とつぶやきたくなる。
ここ(https://www.env.go.jp/chemi/tmms/husigi.html)(さいきんようやくかhttpじゃなくなった。)から入手できる。すべて読んでも無料というから恐ろしくなる。
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