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フィンランドの暮らしと住まい~海外住宅事情とライフスタイル②

前回はフィンランド人のライフスタイルや日本とフィンランドの住宅事情の違いなどをご紹介いただきました。今回も引き続き雑誌「だん07」から「海外事情とライフスタイル~フィンランドの暮らしと住まい」を転載します。

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こんにちは。フィンランドのヘルシンキ在住の建築士・大村裕子です。
 
今回はフィンランドの暮らしについて建築家のご夫婦にお話を伺いました。設計事務所で集合住宅を多く手掛けるフィンランド人のご主人Jさんと、日本人の奥様Sさん。日本とフィンランド両方の住宅をよく知るおふたりは、どんなところに違いや心地よさを感じられているのでしょうか。

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どの部屋も当たり前の暖かさ
フィンランドの住宅の室内環境と日本とでは何が違うと思いますか?

Jさん 僕は日本に10回ほど行ったことがあります。トータルでは約6カ月滞在しているのですべての季節を体験しました。ただ、日本の家といっても地域によって違いがあると思いますので、僕の経験は主に東京での話です。

日本で初めて冬を体験したとき、エアコン暖房の家だったので、温度は高くても空気が循環して起こるドラフト* がとても不快でした。フィンランドの家との一番の違いは、家の中に温度差があることです。例えば冬は、リビングは暖かいけれどキッチンやトイレは寒かった。夏は逆にリビングが涼しくてもキッチンは暑かったですね。

* 主に冬季、暖かい室内の空気が冷たい窓ガラスに触れて冷やされ、床面に下降する現象

Sさん フィンランドは壁が厚くて、窓も日本とは違うので室内はとても暖かいです。冬にTシャツで過ごすこともあります。ちょっと寒いときは、もう一枚着ますけど。窓のそばに行ってもヒヤッとしないのがいいですね。日本では床が寒いので冬用のスリッパをはいていました。

どんな暖房が使われていますか?
Jさん
 ヘルシンキ市近郊では地域熱供給のシステムがあります。発電所などからの副産物であるお湯が各マンションに運ばれて、そのお湯を利用してラジエーターや床暖房が温められます。ラジエーターは窓の下に設置されます。ラジエーターが一般的ですが、高級仕様のマンションではイニシャルコストが高い床暖房を見かけることもあります。

フィンランドでは建物の断熱がしっかりとしているので、建物の中はどこにいても同じように暖かいです。マンションの中に入ると共有の廊下も寒くありません。日本でお正月を過ごしたことがありますが、外出して家に帰ると寒い。エアコンのスイッチを入れて15分程暖まるのを待たなければいけなかったのには驚きました。

Sさん わが家は各部屋にラジエーターがあります。それぞれにダイヤルがついていて温度設定ができます。ラジエーターはエアコンのように毎回操作する必要がないのがいいですね。寝室だけは主人が暑いというので、温度を少し低く設定しています。

バスルーム(洗面所、トイレ、シャワーが一体)だけは床暖房が入っているので、冬になると床がほんのり暖かいです。

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暖房を切ることはないのですね?
Jさん
 切らないです。外出時も切りませんし、使っていない部屋も切りません。もし暖房を切ったとしても、断熱性が高いからそんなに温度が下がることはないでしょうけどね。家中を一定の温度に保つことは、建物にとっても大切なことです。

Sさん 日本の全館空調システムなどでもそうだと思うのですが、温度も湿度も機械で調整するため、基本的には電源は切らず、窓も開けない方がいいというスタンスです。

Jさん 室内温度の目安は約21℃です。朝も夜も一定で、どの部屋も一定の温度なので快適でストレスを感じません。フィンランドでは住居での暖房エネルギー消費を抑えたいという考え方から、断熱基準が以前に比べて上がってきています。

どんな窓を使っていますか?
Jさん
 窓はトリプルガラスが一般的です。室外側にガラスが1枚、室内側にガラスが2枚あって、2枚のガラスの間にアルゴンガスなどが入っています。

フィンランドは冷房がないので、夏に暑くなりすぎないよう、最近のマンションではアルミブラインド付きの窓が一般的に使われています。わが家の窓もすべてブラインド入りです。エネルギー計算をするのですが、夏の日射対策に熱反射シートの入ったガラスが使われることもあります。室内環境をよくするには、壁の断熱だけでなく窓も重要なんです。

Sさん 最近の日本の家も、ペアガラスが主流だと思います。ペアガラスに熱反射シートが入っているものは日本でもありますね。フィンランドの窓は、二重窓になっているのが違いです。あとブラインドが二重窓の間にっているので、ホコリがかぶらず掃除が楽ですね。

私は窓を大きく開けるのが好きなので、引き違いの窓が好みです。でもフィンランドでは引き違い窓はあまり見かけません。うちには小さな換気用の窓があるんですが、少ししか開きません。フィンランドの新しい住宅は、窓を開けて換気をしないという前提で設計されているんだとわかります。いかに室内の空気と外の空気を分けるか。私が窓を開けると、「セントラルで設
定している温度があるからあんまり開けないで」って主人に言われます。

住宅を貸すとき、売るときには、住宅の燃費を示すエネルギーパスの表示が義務化されていますが、フィンランド人は住宅を買う時に気にしますか?
Jさん 関心のある人は多いと思います。最近フィンランドでは環境問題は重要ですから。また家の寿命が50~100年と考えると、ランニングコストに関わってきますよね。最高ランクのAはまだ一般的ではないですが、Aを目指すプロジェクトを設計したこともあります。

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利用価値の高いガラスバルコニー
フィンランドらしいところは?
Sさん
 ガラスバルコニーが気に入っています。ここで夏にささやかなプランター菜園をしていますが、外気ほど温度が下がらなくて温室のようです。セカンドリビングとして、家具を素敵に配置しているバルコニーもよく見かけます。我が家でも半室内のように使っていますよ。フィンランドではバルコニーに洗濯物を干すのは一般的ではないので、室内に干しています。

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Jさん 新しいマンションにはガラスバルコニーがほとんど標準でついています。外部と室内の間の温度なので、特に春や秋に重宝します。春先に外気温がマイナスでも、太陽が出ていればすぐ10~15℃になります。秋は雨が多いのですが、天候に関係なく外のような感覚で楽しむことができるので、ここで読書をするのも気に入っています。

車椅子に配慮した設計
設計で、日本と違うと感じるところは?
Sさん
 実は玄関はちょっと不満なんです。うちは玄関がフローリングで段差がありません。雨の日は濡れた靴はマットの上に置いていますが、日本の玄関のようなタイル張りの床の方が室外と室内の区別があっていいと思っています。

Jさん 日本と同じように家に入ってから室内で靴を脱ぐので、玄関スペースはタイル張りが人気です。フィンランドの住宅は車椅子の利用に配慮しなければならないという法律があります。玄関では1.5mの円/車椅子が回転できるスペースを確保して、段差は20㎜以内にしなければいけません。日本のような玄関をつくることはできないんです。でも、もし急なケガなどで車椅子が必要になったとしても、不自由なく住み続けられますよね。

Sさん 日本でもバリアフリー法がありますが、すべての住宅が対象ではないので、フィンランドの方が厳しいですね。

Jさん 最後に一言言わせてください。僕は日本の建物の仕上げやおさまりが素晴らしいといつも思うのです。フィンランドも充分なレベルではあるのですが。日本は現場の職人さんがプライドを持っているのではないかと感じています。あと日本とフィンランドは美しいものについての感覚が近いのかなと思っています。

Sさん 私も久しぶりに日本に帰国すると、公共建築の仕上げがとても美しいと感じます。

* * * * *
このようにフィンランドの住宅は、マイナス20℃になることもある厳しい冬でも快適に過ごせるように設計されています。家の中は朝・昼・夜の温度差がなく、どの場所にいても温度が一定であること──これが快適とあたりまえに考えられています。日本に比べて、新築は圧倒的に少なく、古い建物をリノベーションして住み続けられています。家の寿命は長く、中古住宅の資産価値は高い。住宅を購入する時には、断熱性能をエネルギーパスで知ることができます。またほとんどの住宅が車椅子の利用に配慮されていることも特徴的といえるのではないでしょうか。

※本記事は「だん07」に掲載されています

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