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SDGsと家づくり|建物の断熱化で脱炭素のまちづくり~北海道ニセコ町

SDGsとは、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」のこと。
気候変動や危機にある生物多様性、エネルギーや水、食料などをもっと持続可能に活用していくために、エコハウスには何ができるでしょうか?
断熱ジャーナリストの高橋真樹が SDGsに寄り添ったサステナブルな暮らしをする人たちから、そのヒントを探ります。※雑誌「だん14」から流用
文:高橋真樹 写真:水本俊也

高断熱住宅専門誌「だん」14より

国内外から観光客が訪れるスノーリゾートの北海道ニセコ町。ここでは、脱炭素と持続可能なまちを目指した取り組みが、官民の連携で進められています。カギとなるのが、建物の断熱化を通じた省エネです。超高断熱の公共施設や集合住宅、そして既存の建物の断熱改修など、バラエティ豊かな取り組みをリポートします。※雑誌からの抜粋記事です

脱炭素に挑むニセコ町
気候変動の悪化を受けて、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを表明する、いわゆる「ゼロカーボンシティ宣言」をする自治体が増えています。しかし宣言はしたものの、具体的な施策はあまり進んでいないという自治体がほとんどです。

そんな中、先進的な挑戦を続けているのが北海道ニセコ町です。同町は、リゾート地でありながら過度な開発を拒むなど、長年にわたり環境を重視した姿勢をとってきました。

国から環境モデル都市に選定された2014 年からは、「2050年にCO2排出量の86%を削減」を目標とした「第一次環境モデル都市アクションプラン」を策定・実施。さらに2019年には、専門機関(一般社団法人クラブヴォーバン)のコンサルティングを受けて、CO2排出量実質ゼロを目指す第二次アクションプランを策定しました。

なかでも力を入れているのが、建物の断熱性強化です。新築や改修をする予定の公共施設は、徹底した断熱をすることで、エネルギーを大きく削減します。設備や機器には省エネ効率が高いものを採用し、必要なエネルギーは再エネ設備の導入でまかなう方針を決めました。

100年使える超省エネ町役場
そうした方針のもとに、2021年3月に完成したのがニセコ町役場の新庁舎です。もっとも熱が出入りする窓には、すべて木製サッシのトリプルガラスを採用。屋根や壁には20㎝を超える高性能断熱材を入れました。断熱性能を示すUA値は0.18W/㎡Kと、全国の庁舎で最高水準です。

そのため、冬はマイナス20℃にもなるニセコ町でも、エネルギー消費量は極めて少なく、かつ快適に過ごせるようになりました。エネルギー価格が高騰する中、公共施設のランニングコストを大幅に抑えることができれば、自治体の財政にも大きく貢献します。

職員の健康や仕事の効率にも良い影響を与えています。庁舎の工事にも携わった都市建設課の金澤礼至さんは、もっとも違いを実感するのは冬の月曜日だと言います。「土日は役場が休みなので、前の庁舎では月曜の朝はキンキンに冷えきっていました。朝かなり早い段階で暖房を入れていたのですが、それでも寒くてたまりませんでした。ところが新庁舎では、外気温がマイナス10℃でも、月曜の朝に行くと金曜日の帰宅前と比べても室温が2℃しか下がっていないんです。快適性やエネルギー効率のアップは、旧庁舎とは比べものになりません」。

防災拠点となる温浴施設「綺羅の湯」
既存施設を改修した事例もあります。住民の憩いの場である駅前温泉施設「綺羅の湯」です。2001年にできたこの公共施設は、町が所有し公民連携の会社が運営しています。2018 年に北海道で起きた胆振東部地震による大規模停電をきっかけに、防災拠点のひとつとしての機能が追加されました。自家発電設備の導入と省エネ改修です。

まず館内のすべての白熱電球がLED照明に交換されました。また、休憩室となっている大広間の窓には、樹脂サッシで複層ガラスの内窓が設置されました。もとの窓もガラスは二重ですが、サッシは熱伝導率の高いアルミなので、よく結露していました。「綺羅の湯」の支配人の小貫理さんは、内窓の効果をこのように感じています。「窓際にはパネルヒーターがついていますが、以前は部屋がなかなか暖まりませんでした。内窓がついてからは、暖房をつけてすぐに暖まるようになり、お客さんにも好評です」。大広間は災害時には避難所になるため、部屋の断熱性能が上がることは、避難した人々の健康を守ることにも直結します。

住民の声を生かしたサステナブルタウン「ニセコミライ」
建物単体ではなく、エリア全体を対象にしたプロジェクトもあります。現在、町の中心地に建設中のNISEKO生活モデル地区「ニセコミライ」です。9ヘクタールの土地に全13棟の集合住宅からなるこのエリアは、完成すれば町民のおよそ1割程度の450 人が入居可能となります。全ての街区が完成するのは、新幹線が開通する2030 年を予定しています。開発を担うのは、地域まちづくり会社「株式会社ニセコまち」。この会社は、自治体と地域の事業者、そして第二次アクションプラン策定に携わったクラブヴォーバンの共同出資で、2020年に設立されました。

豪雪地帯であるニセコ町では、高齢化やライフスタイルの変化とともに、雪かきの困難さや光熱費の高騰、自動車に頼りきった暮らしなど、地域課題が鮮明になっています。実際、事業の実施にあたり開催された住民参加型の説明会でも、住み替えを検討する主な理由として「冬でも暖かい家に住みたい」「除雪が重荷」「光熱費を抑えたい」といった声が寄せられました。また、ニセコでは世帯数が増えたことで慢性的に住宅が不足しています。「ニセコミライ」はそうした地域課題を解決する目的で推進されています。

「信じられない」性能の集合住宅
「ニセコミライ」で建てられる集合住宅の性能を実証するモデルが、町内にあります。2021 年初頭から入居がスタートした高性能アパートです。高橋牧場の社長で、「株式会社ニセコまち」の代表取締役でもある高橋守さんが、高橋牧場の従業員寮として地元の工務店に依頼して建設したものです。

外観は質素ですが、壁厚20㎝、窓はトリプルガラスの樹脂サッシと、優れた性能を誇ります。特筆すべきは、このアパートの共益費に、部屋を「夏は25℃以下、冬は20℃以上」にするという「基礎温度提供」という条件が含まれていることです。そしてそれを月々3000〜4000円程度という破格の値段で実現しています。冬は灯油代だけで2〜3万円かかるのが常識とされるニセコの厳しい冬を知っている人ほど、その室温と金額に「信じられない」と驚きます。 ~つづく

全文は「だん」14でお読みいただけます。