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「居間」という場所を考察。

人気住宅建築家の伊礼智さんの著書「伊礼智の住宅設計作法Ⅱ」は、主に設計実務者の方からの52の質問に答えるという一問一答スタイルで、伊礼氏自らの言葉でその設計手法を語ります。建築家が何をどう考えて家を設計しているのか、対話するように読み進められる本です。家づくりをしようと思い立ったら、どんな家にしたいのか、そのためには何を考えたらいいのか…住まい手にもわかりやすく書かれています。書籍から「居間」についての考察をご紹介します。

Q.居間ってなんだと思いますか?
「居場所をつくる」ために、具体的にはどのような設計をされていますか?

A.何でもやっていい場所、誰でも居ていい場所が「居間」ではないでしょうか?家族がダラダラするところ、お互いに気遣いながらも干渉せずに居られる居場所を、思いつきではなく、体験してきた心地よい居場所を再現するようにしています。

居間というのはよく考えてみると不思議な場所です。キッチンや浴室のように具体的な行為が定まっているわけではないので、設計しにくい場であるとも言えます。居間とは何をするところなのか? テレビを見る、家族同士で話をする、あるいはお客様を招く…いくつか思い浮かびますが、必ずしも居間という部屋がなくても住まいは成立します。居間のない住まいは、それはそれでシンプルでいいと思うのです。ダイニングでご飯を食べながらテレビを見て、それを肴に会話が生まれるという家族も多いと思います。

ぼくが育った家では小さな和室でご飯を食べ、テレビもあり、近所の方々がやってきて長居したり、昼寝もすれば、宿題もそこの座卓でやっていました。家族がいつも居る場であり、ご近所の人たちが集まる場、接客の場が4畳半程度の空間で済んでいました。

何でもやっていい場所、誰でも居ていい場所を「居間」と呼んでいいのではないでしょうか。そうすると、キッチンもダイニングも含めて「居間」と考えてもいい。様々な居場所があっていい場所…そうでなければならない場所だと思えば、自由に設計できそうです。住まい手も輸入物のソファがポンと置いてある居間のイメージ(たいていそれは雑誌の広告で見かけた写真)にとらわれすぎて、居間に関する具体的な要望があまり出てこないことが多いように思います。「居間の広さは○帖くらいで」というのがほとんど!

居間は家族がダラダラするところ、広くなくてもいいけれど、できればお互いを気遣いながらも干渉されずに居ることもできるように、あちこちに居場所が散りばめられている、というのがいいのでは? と思っています。

育った環境とその後の経験、考えてきたことが住宅の設計に大きく影響し、価値観をつくり上げるはずです。

ぼくはたまたま小さな家で4人の兄弟とともに育ちましたが、それをネガティブに受け止めるのではなく、その後の経験でそれを生かすことができたと信じています。これまでの経験を掘り下げていけば、楽しい居間のあり方、居場所の提案が可能です。ただし、自分がそれを気持ちいい、楽しいと思っていることが大事です。思いつきでなく、体験に裏付けされた居場所を提案する…その可能性がたくさんある場所が「居間」でもあると思います。

この考え方から生まれる居間はどんな空間になっているのでしょう?居間の事例は書籍でご覧ください。


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