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浄土ヶ浜でペトリV6が溺れた

大阪万博1970が不完全燃焼のまま終わり、半年ほど過ぎた9月初旬に、研修旅行と称する企業見学会が三陸海岸の宮古地区であった。
浄土ヶ浜は自由時間だから、泳いだり、はしゃいだり、食ったり、昼寝をしたり、ダラダラとしながらも、存分に楽しんでいた。
今回も写真担当を任せられたが、謝礼があるわけでもないし、あわよくば良い写真が撮れれば、無料で卒業アルバムに使えるぞという、せこい考え。
岩場に囲まれた海は、波穏やかで、まだ暖かい海に入り泳いでいる元気者もいて、大賑わいになった。

若大将とバカ大将
何をしても楽しいのだ


2クラス80名の旅。みんな知っている奴らばかりだから、話も弾むし声も大きくなる。
その内の一人が寄ってきて、新しいカメラの「ペトリV6」を見せてくれた。そういえばテレビでコマーシャルをしていた。かなり安かったかな?
オ~すげえなあ、シャッターが前にあるのかカッコいいぞ、フィルムはカラーだぞ、ジェジェジェカラーだって、などと、高校三年生とは思えぬ、あほさ加減丸出しのバカバカしい会話が妙に盛り上がった。
自慢話の終わったペトリ君は、向こうの岩場から泳いでいる奴らをとると言って、すたこらさっさと歩いて行った。

悲しい現実です
男子校には女子がいない


曇りだが暖かで、ガクラン着ていると汗が出てくる。
しばらくするとペトリ君は、向こう岸のギザギザの岩場に立って、同級生が泳ぐ姿を撮っていた。
ポカポカの陽気、波は穏やか、遠くの岩場には波が打ち上げて、白い飛沫を飛ばしていた。男二人が漕ぐボートをボケ~っと見ていたら、突然でかい波が向こう岸を直撃した。
ギザギザの岩場には数人いたが、その一人が喚いた。ペトリ君だ。
泳いでいたやつらが慌てている。
何事かと思ってみていたら、カメラのペトリV6が波にさらわれたようだ。
しばらくして、海の中から、水の滴るペトリV6が引き揚げられた。
ペトリ君は、親父に怒られることを気にして、半べそ状態。
帰りのバスの中は、ペトリ君だけが葬式の帰りみたいに、首からペトリV6を下げて、無言のままうなだれていた。
あまりにも悲しそうな、その姿を写真に撮ろうかと思ったが、武士の情けで寸止めにしてやった。

君の名は?
55年も経てば記憶も薄くなる


卒業アルバムには、無邪気に泳いでいる同級生と、ペトリV6を飲み込んだギザギザの岩場が掲載された。
カメラは正しく首から下げないと、大変なことになることを学んだ、とっても貴重な研修旅行になった。ジャンジャン。


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