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ロシアに屈しなかった国 フィンランド

ロシアと国境を接する北欧の国フィンランドの解説を抜粋(52:30)


豊島晋作のテレ東ワールドポリティクスの動画

参考書籍
「白い死神」ペトリサルヤネン
「危機と人類」ジャレド・ダイアモンド
「ソ連戦 絶滅戦争の惨禍」


フィンランドはどんな国?

2022/3月 世界幸福度ランキング5年連続1位
サンタクロースの拠点事務所があると言われている。
ムーミンの母国でもある。(作者トーベヤンソンはフィンランド生まれ)

一方、軍事力強化に余念がなく徴兵制がある。
フィンランドとロシアの国境は非常に長く、1340㎞もある。
かつてソ連から大規模な軍事侵略を受けて国家存亡をかけた苛烈な戦争の歴史がある。
フィンランドは今のウクライナと似た状況が多い。


冬戦争の始まり

1939/11/30、ソ連がフィンランドに軍事侵攻。
当時のソ連の人口:1.7億人
当時のフィンランド:370万人
50倍の大国が小国に攻めていった。
ロシアとウクライナの戦争よりもはるかに大きな人口比であった。

開戦時の戦力
ソ連軍:4個軍50万人
フィンランド軍:9個師団12万人
ソ連は5000両の戦車と4000機の航空機を保有していた。


ソ連がフィンランドに侵攻した動機

ソ連はフィンランドの政権を打倒し社会主義に変えようとしていた。(今のウクライナと似ている)

ソ連とフィンランド国境はレニングラード(今のサンクトペテルブルグ)からわずか32㎞にあったためひとたび戦争が起こればレニングラードはすぐに占拠される危険性をはらんでいた。
ロシアの恐怖と猜疑心が他国の侵略につながる。

ソ連は当時、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)に対し、軍事基地建設と軍の移動の自由を要求していた。
バルト3国はソ連に勝てないと分かっていたので要求を受け入れる決断をする。
のちにソ連に併合されていく。

フィンランドだけは拒否をして独立を守るために戦争を選択。

仮にソ連を弁護する意見があるとすれば、当時の敵対関係にあったナチスドイツはフィンランドなどを通ってロシアへ侵略してくるという現実があった。
フィンランドはロシアとドイツとの緩衝地帯で今のウクライナと立場が近い状況であった。

しかし、ソ連は国際的に非難され国際連盟から除名されることとなる。
1939年、ソ連は独ソ不可侵条約を結んでいたが、この密約で公表されていない条項ではフィンランドはソ連の支配下におくというものであった。

つまり、ソ連がフィンランドを侵略するには大義がないことになる。

補足
レニングラードは国境近くにあり、北はフィンランド、西南にバルト3国が隣接していたという位置関係にある。
つまり、ソ連はフィンランド、バルト3国をそれぞれ西側との緩衝地帯としたかった意図があると言える。


戦争の始め方にも正当性が無い

「フィンランドが国境沿いの村を砲撃しソ連軍の兵士が死亡」ということを口実に戦争が始まった。

ニキータ・フルシチョフはのちにこう話している。
”砲撃はソ連のものであり戦争誘発を目的としてソ連軍将軍が命令を出した”

つまり、ソ連がフィンランドに侵攻したのは言いがかりであったと認めている。

今回のウクライナ侵攻でも双方に言い分があるが、ロシアはウクライナがアメリカと協力して生物化学兵器を開発していると主張している。
開戦前にはロシアがウクライナを砲撃したとも言っているわけだが、今後どのように評価されていくのかがポイントとなる。

いずれにしても戦争は大国が勝手に言いがかりをつけて始める可能性があるということ。

実際、2003年のイラク戦争でもアメリカは”大量破壊兵器が存在する”という虚偽の情報をもとに開戦した経緯がある。
結局、大量破壊兵器などは無かった。


スターリンの誤算

スターリンは2週間でヘルシンキを占領できると考えていた。
今のキエフを短期間で占領できると考えていたことと似ている。

今のウクライナと同様、フィンランド軍は強く抵抗し持ちこたえていく。

伝統的にロシア軍というのは冬の戦いが得意で、かつてはナポレオンを撃退しヒトラーも撃退していくが、そのソ連兵をフィンランド軍は撃退していく。

当初、ソ連は戦争は短期間で終わると考えていたので冬の装備を十分にしていなかったとも言われている。

フィンランド軍は森の中でのゲリラ戦を展開。
攻撃しては撤退を繰り返す戦術。
前衛をやり過ごして本隊を攻撃するなどしてソ連軍を苦しめた。

フィンランド軍がソ連軍に対抗するために「モロトフ・カクテル(火炎瓶)」を活用する。
これが対戦車戦で効果を発揮した。
モロトフ・カクテルは冬戦争で名付けられたものである。

他にも地面に待ち伏せをして、キャタピラに丸太をツッコみ動けなくする、砲身や小窓にライフルで射撃するなど捨て身の戦術を展開。

対戦車戦での戦死率は70%に達した。
多くのフィンランド軍は犠牲となった。
こうしてソ連軍の2個師団を壊滅させる。

負傷した仲間を置き去りにしないフィンランド軍のポリシーも有名。


ロシアが恐れた”白い死神”最強のスナイパー

シモ・ヘイヘ(1905-2002)
ソ連のリュドミラ・パヴリチェンコ(309人)、ヴァシリ・ザイツェフ(400人)が有名であるが、シモ・ヘイヘの確認戦果542人という記録がある。 
なお、イラク戦争に従軍したアメリカ海兵隊のクリス・カイルは160人。

シモ・ヘイヘは寡黙な人で、上官にも手柄を少なめに申告していたとされている。
スコープを使わず、裸眼で500メートルの距離から射撃。
遠距離からの射撃でかなり抑止力が働いた。

多くの兵士を殺していたため、戦後は辛い立場に立たされることもあった。

ベトナム戦争では莫大な量の弾薬が使われたが、一説にはシモ・ヘイヘが使った弾薬とアメリカ兵が542人を殺害する場合の比較では、1355万発の弾薬が必要との試算がある。

2002/4/1没となったが、晩年は戦果を誇ることもなく猟をして暮らしていた。
ハリウッドから映画化のオファーが来ていたようだが、ドラマチックに映画で描かれるのが嫌だったようである。
映画化された話は聞かないのでボツとなった模様。


戦争の被害

フィンランド死者数:約10万人(総人口の2.5%)
ソ連軍:フィンランド兵の死者1人あたりソ連兵8人が死亡という諸説もあるが、約50万人

ソ連の損害があまりにも大きかったので、ナチスドイツのヒトラーは独ソ戦で戦えると考えたとも言われている。(参考にされてしまう)

最終的にモスクワの終戦協定でフィンランドはソ連に多額の賠償金を支払い、国土の約11%を奪われた。
シモ・ヘイヘの農場もソ連の領土となった。

しかし、国家の独立と民主的な政治体制は維持した。


フィンランドの政治

国力と国家間の力関係を冷静に分析。
徹底した現実主義外交と内政を展開。

再びソ連に攻め入られまいとソ連を刺激せず、西側諸国との関係を維持という綱渡り外交をしていく。

第二次世界大戦後、フィンランドは喉から手が出るほど復興のためにお金が必要だったがアメリカが行ったマーシャルプランに参加せず、ソ連に敵対するNATOにも加盟せず。
EUには加盟する一方で、共産主義諸国と経済協定を結び、ソ連に貿易上の優遇措置などを行っていた。

戦後は大統領をコロコロ変えることはせず、安定した政治に努めた。
フィンランド議会は時限立法でケッコネン大統領の任期を4年延長するなどした。
それはソ連との意思疎通に支障が無いようにするためであった。

パーシキヴィ大統領、ケッコネン大統領は2人で合計35年間も大統領を務めた。

政府と報道機関は、ソ連批判を控える自己検閲を実施。
通常の民主主義国家ではありえないことを行った。

国際的には「フィンランド化」といって、ある種の軽蔑もあった。
1979/6/14 当時のニューヨークタイムズでは
「全体主義的な超大国の力と無慈悲な政治を恐れた弱小国が主権国家としての自由を譲り渡す嘆かわしい状況だ」と酷評している。


フィンランド外交

今のウクライナでも義勇兵が参加しているが、当時はスウェーデンから義勇兵が駆けつてフィンランド軍とともに戦った。
しかし、スウェーデン軍自体はロシアとの戦争を恐れて参戦せずであった。

継続戦争(1941年)ではドイツと共にソ連と戦うことになるわけだが、基本的には自力で戦うというのがフィンランドの考え方である。

現在のフィンランドのサンナマリン首相は
「フィンランドは外交・安全保障政策を当然のことながら自ら決定していく。どんな国も影響を及ぼすことはできない。アメリカもロシアもどんな国もだ。」
「自分たちのことは自分たちが決める。過去もずっとそうしてきた。」

ソ連との戦いでは、”スターリンがフィンランド支配を諦めるためには膨大な人的犠牲が必要だった”という残酷な現実があった。


独ソ戦への影響

ソ連との冬戦争のあと、1941年には継続戦争が始まる。
 
そして、これは独ソ戦の一部であり、フィンランドにとって中立は不可能であったとされている。

フィンランドはドイツと共に戦うことを決断。

当時、マンネルヘイム元帥は
「ろくでもない選択肢の中から最もひどくないものを選んだ」と表現している。

ドイツには協力するもユダヤ人の一斉検挙には従わなかった。
ただ、フィンランド系ではないユダヤ人に対してはナチスに引き渡していた。
そうした暗い歴史をフィンランドは背負うことになった。


現在のフィンランド

ウクライナ戦争を機に世論が動き始める。
2022/3 世論調査では、NATOへの加盟が賛成62%、反対16%という結果に。

北欧の国からすると、ウクライナはNATOに加盟していなかったから攻撃されたと感じている。

スウェーデンでもNATOへの加盟が賛成51%、反対27%となった。

フィンランド大統領ニーニスト氏
最大にリスクは”ロシアとの対立のエスカレート”であり、NATOへの加盟には慎重な姿勢を示していた。

2022/5 北欧2カ国はNATOへの加盟を申請し支持されているが、加盟は2023年へ持ち越しとなっている。

フィンランドは当初、リスボン条約第42条7項「相互支援条項」を適用する予定であった。

この条文はEU加盟国同士でのものであるが、2015年のフランスでのテロ事件で初めて発動した条項である。
ただ、北大西洋条約第5条ほどの意味合いはないとされる。

フィンランドは独自防衛の意識が高く徴兵制を維持し、人口は55万人ほどであるが戦時には28万人の兵力を動員可能という能力がある。

例えば日本の自衛隊が24万人なので数の上ではフィンランドに負けている上に、日本の人口比にすれば600万人に相当するという兵力である。

隣国のスウェーデンも徴兵制を復活させたのだが、フィンランドの若者にスウェーデンの若者は適わないと思わせるほど強い。

国防ではF35戦闘機を64機購入し、国防費のGDP比2%超えは確実とされている。


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