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【コラム】AmazonはAIを認めない!!オーディオブック市場が今、激熱。

2021年、出版業界には多くの合併・買収ニュースが舞い込みました。

合併・買収の目的は事業拡大・出版業界への進出・電子書籍の伸長など多種多様です。一方で近年、数年前には見られなかった目的での企業合併・買収が見られるようになってきました。

それはオーディオブック市場参入・拡大のための合併・買収です。

今、日本国外では大手企業が相次いてオーディオブック市場に参入しています。
この現象はいったいなぜ起こっているのか、今後どのような変化を起こしうるのでしょうか。

そもそもの話…

〇オーディオブックって何?
オーディオブック(英語:audiobook、audio book)とは、主に書籍を朗読したものを録音した音声コンテンツの総称です。
1932年に米国盲人協会によって視覚の不自由なユーザー向けに発売されましたが、現在ではあらゆる人が楽しめる娯楽の1つとして確立した地位を築いています。
かつてはCDやカセットの媒体で楽しまれていましたが現在はダウンロード版も普及しており、様々な媒体でオーディオブックが楽しめるようになってきました。

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〇オーディオブック市場が電子書籍市場を追い抜く!?
日本のオーディオブック市場はまだ小規模ですが、アメリカをはじめとした欧米では広く知られており、日常的に使用されています。

特にアメリカでは移動に車を使用することが多く、車を運転しながら本を楽しめるツールとして早期から大きな市場を獲得しました。
現にアメリカの2019年のオーディオブック売上実績は13.1億ドル(≒1500億円)を記録しており、電子書籍の19.4億ドル(≒2200億円)に追いつく勢いです。※データ提供会社の限定あり
アメリカでは近年、電子書籍の売上が減少傾向にあり、オーディオブックは急成長を見せていますので、オーディオブック売上が電子書籍の売上を超える日もそう遠くないと言われています。

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日本でも有名な落語や漫談、怪談を収録したカセットブック、ライトノベルや漫画をオーディオドラマとして新規に録音された作品(現在でいうところのドラマCD)は有名で、これらもオーディオブックの1つです。
車社会でCDやカセットが喜ばれたアメリカに比べ、電車などの公共交通機関による移動が多い日本では、動画視聴やネットサーフィンを利用する人が多く、市場規模はなかなか拡大してきていません。

一方で近年、iPodやWALKMANなどのデジタルオーディオプレーヤーや、iPhoneなどのスマートフォンが普及し、CDやカセットを持ち歩かなくても気軽に音声コンテンツを楽しむことができる環境が整ったことやCOVID-19の蔓延に起因する外出禁止令の影響を受けて、日本国内外においてインターネット上で購入できるダウンロード版オーディオブックが急速に拡大しています。

日本能率協会総合研究所が提供するMDB Digital Searchでは2021年現在140億円規模の日本オーディオブック市場は2024年までに約倍の260億円規模になると予想しています。

ちなみに出版研究所の2021年出版市場調査の結果とMDB Digital Searchの予測とをすり合わせてみるとこのような割合になりそうです…。この予測が正しければすでに電子雑誌を追い抜いている…かも?

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市場伸長の予測を実現するかの如く海外では企業が続々とオーディオブック市場に参入・事業の拡大を見せています。
SpotifyがFindaway社を買収し事業の急速な拡大を始めたりStorytel社がAudiobooks.comを買収してスペイン語圏のみならず英語圏への進出を決めたりと、直近のニュースとして話題となっています。

〇ビジネス書だけじゃない!小説もオーディオブックで大人気!
オーディオブック展開を手掛けるLibro.fmが発表した2021年のベストセラーオーディオブックトップ10によると小説を主としてノンフィクションやエッセーもランクインしていることがわかります。

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一方でAudibleが発表した国内ランキングでは「嫌われる勇気」や「1%の努力」「ジェームズ・クリアー式福利で伸びる1つの習慣」などの自己啓発やビジネス書など自己研鑽に役立つ作品がランクインしています。

日本では日々の勉強のため、国外では自己啓発本はもちろん、小説などの物語を楽しむために利用されることが多いようです。

〇声優だってAIだって読み上げる。聞き放題サブスクもスタート!
1/27から米Amazon.com傘下のオーディオコンテンツサービスAudibleがオーディオブックの聴き放題サービスをスタートしました。
「騎士団長殺し」や「海辺のカフカ」など村上春樹さんの書籍10作品の配信も決定しており、今までオーディオブックを利用していなかった人たちの新規利用が予想されます。

2019年4月に『ガガガ文庫』小学館×大手声優事務所81プロデュースでオーディオブック配信をスタートさせたことに代表されるように、書籍×声優の取り組みは年々大きくなってきていますし、AIを使用した音声読み上げの取り組みも始まっています。

〇AI読み上げは認めない!オーディオブック拡大までのハードルは健在。
従来のオーディオブック作成の工程では、1時間完成させるためにスタジオ収録で2時間以上かかることもあり、平均的なオーディオブック作成は8時間に及びます。
声優や役者・タレントなどの有名人を起用した場合のオーディオブック作成にかかるコストは、オーディオブックの完成時間あたり1,000ドル(≒11.5万円)以上で、スタジオ時間やポストプロダクションが加わることで、さらにコストは跳ね上がります。
それに伴いAIの技術を利用した人工音声を使用して読み上げにかかる作成時間・作成コストを縮小しようという動きが活発化しています。

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一方で、オーディオブック市場の50%ものシェアを占めるAudibleの音声ポリシーには「取り扱いオーディオブックは人間により収録された音声のみ」とされています。
現状AudibleにAIで読み上げたオーディオブックを販売することは不可能です。

Audibleのような規約を持つ企業は他にないため、出版社はAIが生成した音声で制作したコンテンツをApple Books, Google Play, Kobo, OverDrive, Scribd, Spotify, Storytelなど約50の小売・図書館ベンダーで販売しています。
AI音声の拡大により、Audibleが規約を撤廃するのが先か、扱いタイトル数増加による他のオーディオブックベンダーの台頭が先か、注目されます。

AI利用には倫理的問題や人々の仕事のお株を奪うものだ、といった論争も繰り広げられ始めているようで、今後オーディオブックにAIがどこまでかかわってくるのかは注目です。

〇2022年は国内外でオーディオブック年!
Audibleのサブスク解禁を契機に多くの企業もサブスクをスタートさせる可能性があります。イギリスの調査ではオーディオブックはサブスクリプション利用が好まれる傾向が強いとの結果が出ていますので、利用者の需要に企業が応え始めた結果ともいえます。

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日本ではまだオーディオブック単体での購入は少なく、電子書籍や紙書籍と合わせて購入されることが多いですが、オーディオブックでの読書(聴書?)に慣れる人が増えれば増えるほど、書籍購入に至らない人も増えてくるかもしれません。

今年2022年は多くの出版社がオーディオブック事業へ進出していく年と言われています。
オーディオブックがスタンダードの一つになる日も近いです。

※1米ドル=114円換算
(参考・関連ニュース)
■「ウィキペディア(Wikipedia)」オーディオブック
■Audiobooks Market Size, Share & Trends Analysis Report By Genre, By Preferred Device (Smartphones, Laptops & Tablets, Personal Digital Assistants), By Distribution Channel, By Target Audience, By Region, And Segment Forecasts, 2020 - 2027
■APA「AUDIOBOOKS CONTINUE THEIR MARKET RISE WITH 16% GROWTH IN SALES」
■オーディオブック市場 2024年に260億円規模に
■人気じわり…“聴く読書”オーディオブックは出版業界を救うか
■The Audiobook Market and Its Adaptation to Cultural Changes
■おうち時間のお悩みには、オーディオブックが活躍!オーディブルが2021年の利用動向調査を発表
■Big Deals Highlighted 2021 Acquisitions
■Hear We Grow! Audiobooks witnesses a rise as more users join the bandwagon
■Changing Trends In The Publishing Industry
■Audiobooks generated $2.1 Billion in 2020
■『ガガガ文庫』小学館×81プロデュースでオーディオブック配信 西山宏太朗・上田麗奈ら参加
■コロナ禍で3割が「オーディオブックの利用増えた」と回答 。自粛疲れで“目疲れ”人が増加し、「耳時間」に注目集まる<オーディオブック白書2021>
■CoeFont CLOUDで小学館とAI音声合成オーディオブック制作に挑戦!特設ページで 声優 森川 智之氏の「AI音声合成」が読み上げたオーディオブック試聴版を期間限定で無料公開!
■2021年紙+電子出版市場は1兆6742億円で3年連続プラス成長 ~ 出版科学研究所調べ
■Libro.fm’s Top 10 Bestselling Audiobooks of 2021
■2021年Audibleで一番聴かれた作品を発表!
■AI Comes to Audiobooks
■Nielsen’s Look at Audiobooks in the United Kingdom: ‘Curiosity, Multitasking’
■アマゾンオーディブルが「戦略発表会」 オーディオブック12万点を「聴き放題」対象に 村上春樹作品も配信を計画
■パンローリング、オーディオブックが急成長/売上高5年で8倍超に
■AI Influence on Audiobooks Grows—As Does Controversy