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10/19 ニュースなスペイン語 Inviolabilidad:不可侵性

Inviolabilidadはずいぶん長い語だが、分解すれば、基本語の組み合わせだ。すわなち、「in-」は「否定」、「viola-」は「侵す」、「-able」は「可能」、「-idad」は「性質」をそれぞれ表すので、「侵すことができないこと」、つまり「不可侵性」などという小難しい訳語になる。

相手が誰であろうと、言うべきは言い、やるべきはやるー。これが不可侵性の中身だ。聖域を無くそう、ということだ。

最近、話題となっている「不可侵性」は「国王(rey)」に対するものだ。とは言っても、現国王のフェリペ6世(Felipe Sexto)ではなく、父親のフアン・カルロス1世(Juan Carlos Primero)に対する不可侵性だ。

政権与党のスペイン社会労働党(PSOE)党首であり、首相でもあるペドロ・サンチェス(Pedro Sáchez)がこのことに言及したのは大きい。さらに、サンチェス首相は、 フアン・カルロス1世が、なぜ、いま、スペイン国内にいないのかの説明をするという必要性(el rey Juan Carlos dé explicaciones, sobre las razones que le han llevado a ausentarse de España)を説いた。

フアン・カルロス1世は2014年、当時皇太子だったフェリペに、国王の座を譲り、退位(abdicación)した。従って、フアン・カルロス1世は、正式には「名誉王(Rey Emérito)」という称号が与えられている。が、スペイン国内にはおらず、現在、アラブ首長国連邦にいる。というか、身を隠しているのである。

ところで・・・

1981年2月23日、アントニオ・テヘーロ中佐(el teniente Antonio Tejero)が率いる警察隊(Guardia Civil)が下院議会(Congreso de Diputados)を占拠した。これが、後に「23F(ベインティトレス・デ・フェブレロ)」と呼ばれるクーデタ(el golpe de estado)である。クーデタは国会の生放送中に起き、その一部始終はスペイン全土に放映された。結局、クーデタは未遂(fallido)に終わった。まだ下院には当時の銃弾の跡が残っている。

「私は譲位も、退位も行わない。(クーデタを進めたいなら)私を撃ってからにしろ(Ni abdico, ni me voy, tendréis que fusilarme)」ーー。フアン・カルロス1世は軍部にこのように伝えたという。

暴力に自由と民主主義が勝った瞬間だった。その象徴的な存在だったのがフアン・カルロス1世であり、父親の夜通しの対応と断固たる信念を目の当たりにしていた、当時、まだ6歳だった、現国王、フェリペだった。

このように、フアン・カルロス1世はカッコイイ国王だったのだが、残念ながら、いろいろな疑惑やらスキャンダルやら不透明なカネなどで、晩節を汚した。だから、スペイン国内に、居場所が無いのである。

サンチェス首相は、さまざまな疑惑も含め、フアン・カルロス1世には説明責任があるというのである。日本で例えるなら、総理大臣が上皇陛下に物申す、のに等しい。まず考えられない。スペインは、日本と同様、いわゆる「立憲君主制(manarquía parlamentaria)」を敷く国だが、左派政権の政治家たちが王室に意見することは珍しいことではない。

しかし、「不可侵性」は憲法(Constitución, Carta Magna)によって保障されているので、今後、憲法改正などの議論は、野党第一党(la primera oposición)である、国民党(Partido Popular)との協議が不可避だ。しかし、国民党は右派なので、国王擁護に回るはずだ。難航は必至だ。

写真は、フェリペ6世(左)とフアン・カルロス1世。