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11/7 ニュースなスペイン語 PAC:継続医療拠点

PACとは「Puntos de Atención Continuada」の頭文字を取った略語で、日本でいうところの、緊急外来・小児外来・休日/時間外診療、のような医療サービスが合わさった機関のこと。

辞書的な定義は

医療機関の時間外、もしくは、休日の際、生命に関わらない緊急事態に対応する場所(Centros que atienden urgencias no vitales fuera del horario de atención del centro de salud o en días festivos)

となる。

日本ではスペインの医療体制についての略語がまだ定着していないので、暫定的だが、表題のように「継続医療拠点」としておいた。

さて、マドリード州知事イサベル・ディアス・アジューソ(Isabel Díaz Ayuso)は10月27日より、州内にコロナ以前からあるPACなどを合わせ、計80カ所のPACを(再)開設((re)apertura)すると発表していたのだが、そのPACの運営が「混乱の極み(caos)」なのだ。

タイトル画面にもなっている写真には次のように書いてある貼り紙がしてある:

緊急外来に対応できる医師がいません。恐れ入りますが、病院に行ってください(No hau médico de urgencias. Por favor diríjanse al hospital)。

チョットナニイッテルカワカラナイ・・・。

このメッセージを見た患者の失望は如何ばかりか・・・。やっとの思いで辿り着いた診療所で、医者がいないから、病院に行け、とは。

スペイン国営放送の取材によると、先週金曜日の夜の時点で、13ヵ所のPACが診療取りやめ(cerraron 13 centros)、28ヶ所のPACで人員不足(en 28 faltó personal)。そして、これらの人員不足の内、23ヶ所で医師がいない(De estos últimos, en 23 faltó el médico)という。

やはり、混乱の極みだ。

あるPACの看護師は次のように話す。

ここには、消毒済みの器具、例えば、ハサミや鉗子が無いんです。今日は、例えば、自動体外式除細動器(AED)がやっと届いたんです(Hoy no tenemos material estéril, como pinzas, tijeras. Hoy, por ejemplo, ha llegado un desfibrilador)

不足しているのは、医師ばかりでない。スタッフも、看護師も、医療器具も、そして、警備員(celador)も、何もかもなのだ。

足りないスタッフを補充すべく地方医師会(Servicio de Asistencia Rural)から依頼を受けた医師や看護師は現場に向かう。

しかし、ある医師が指定されたPACに着くやいなや、その日はPACを閉鎖すると言われた、と告げられたとの談話が記事には載っていた。

この医師は「50分ほどかけて、約60キロほどの距離を来たのに」と嘆く。当直医として現場には残ったものの、結局、その日は「ふたりしか患者が来なかったんですよ。だって、医者がいないなんて言ってたらしいから(Solo han venido dos pacientes porque les habían dicho que hoy no había médico)」と後日、語ったという。

また、ある看護師は先週の金曜日に医療スタッフ派遣サービスに登録(firmó el contrato)したものの、シフト(horario)がいつまで経っても知らされない。電話やメールをしたものの、約4日間音沙汰無し(sin una respuesta durante casi cuatro días)。挙句の果て「その日は出勤しなくてよし(figuraba como ausente durante esas jornadas)」と告げられたという。

この看護師は

私は連絡が付くように、ずっと自宅にいたんですよ。働けるかなという期待をもってね。結局、カナリア諸島に遊びに行けなかったわ。絶対行けたはずなのに(He estado en mi casa, localizable y a la espera de poder incorporarme a trabajar. No me he ido a Canarias a tomar el sol, aunque parece que podría haberlo hecho)

と悔しがる。

どうしてこんなことになっているのか。

各立場で言い分が異なる。

医療現場からは

これまでと同じ人員の数で二倍のPACを開くなんて不可能「imposible es abrir casi el doble de centros con el mismo número de trabajadores」

という具合に、人員不足、つまり、予算不足を指摘する声が出てくる。あと、再開の早急ぶり(prisa de reapertura)、つまり、準備不足との指摘も上がる。

その一方で、マドリード州知事のディアス・アジューソは、PACのこの混乱の裏で「左派(izquierda)」が糸を引いていると信じて疑わない。つまり、医療スタッフらに「公共医療サービスをボイコット(boicotear los servicios públicos)」することを呼びかけているというのだ。アジューソのいう左派とは、ここでは、実際にデモを招集した(convocatorio de manifestación)ポデモス党(Podemos)を念頭に置いている(もちろん「デモ」と「ボイコット」は違うのだが)。

PACの医療崩壊ーー。原因もいろいろ、そして、影響もいろいろ。書き足らないことが、まだ、ある。また、稿を改めて紹介しよう。

写真はマドリード市内のPACの様子。

別のPACもエピソードが載っていた。

中耳炎(otitis)を発症した子供を連れた父親がやってきたが、医師がいなく、何の治療もできないと告げた時、「あんたら本気でそんなこといっているのか(Me lo estáis diciendo en serio)」と何度も叫ばれたという。

最悪の運営に振り回される医療現場、そして、その影響を直に受ける一般市民。政治のゴタゴタで、つらい思いするのは、いつだって、末端の善良な市民だ。

出典
https://www.rtve.es/noticias/20221105/noche-urgencias-extrahospitalarias-madrid/2408062.shtml