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転送されてきた手紙

わたしは、知り合いから遺書をもらったことがある。
机の上に置かれた手紙を見つけた、そのひとの両親が、
わたし宛の手紙があったということで、
わたしの住所を知る友人に相談し、わたしの住所へ送られてきた。

そこには、知り合いの苦しさが書かれていた。
酔っ払って、毎晩バイクで高スピードで走っている、
そのまま死ねたらいいと思う時がある、などの記述もあった。
おそらく、仕事でかなり煮詰まっていたのだと思う。
そんな話を、聞いたことがあった。

最後の一文は、わたしなりに、とても重く受け止めた。

そして、
わたしは、ただの知り合いである自分が、こんな手紙を受け取ってしまって、いったいどうしたらよいのだろう?と、途方に暮れた。

そして、わたしは、その手紙を転送してきた友人に連絡をとった。

中身を知らないまま、手紙を転送してきたその友人は、
わたしが電話をした真意をなにも知らない。
当然だ。

手紙をくれたひとが、いまどうしているのか?
ちょっと気になったもので、心配して連絡してみた、と、
わたしは伝えた。

「連絡を取ってみる」
と、友人は言った。

少し経って、電話がなった。

「元気だったよ」

ドッと疲れを感じるとともに、ホッとした。

「なんか、置いておいた手紙が、勝手に転送されたと知って、
本人はすごく焦ってた」

そりゃそうだ。
まさか、生きている時に、自分がいなくなった場合を想定して書いた文章が、わたしに転送されるとは、夢にも思わなかったろう。

その後、その知り合いも、気まずい思いをしたのか、
わたしに連絡をすることはなくなった。

友人と、そのひととの繋がりも、切れたようだ。

今も、あのひとは、生きているだろうか。
元気でいてくれているだろうか。

ときどき、そんなことを考える。

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