「本質を伝えたいスピードで、アウトプットしていきたい」 ー sa-juインタビュー
音楽・映像クリエイションチーム sa-ju
目指すは総合芸術家。全部を2人でやる
ー「休もう」のリリース、おめでとうございます。
地代所:ありがとうございます。「休もう」は、「そんなこと言ったって年は越す」「容器包装プラスチックのうた」に続く3曲目なんです。
虚無森:最近この3曲が聴けるミュージックカード(写真)を制作しました。QRコードを読んで頂くと、Dropboxのフォルダに飛べるようになってるんです。がんばって私が作りました。診察券用の用紙に印刷して(笑)
地代所:それぞれが持ち歩いて手売りしてます。sa-juは手弁当で、手作り感でやってます(笑)
ー手作り感、そこはsa-juのこだわりでしょうか。
虚無森:そうですね。全部一から自分たちでビジュアル含めて作っていくみたいなのがsa-juのコンセプトではあります。完パケする感じで。
地代所:芸術家2人なので、そこまで責任を持ってやりたいんです。音楽のジャンルで言うとシンガーソングライターみたいな感じで、Sa-juは全部の芸術をやるっていう…
虚無森:細部にまで自分の魂をじゃないですが、出すコンテンツ全て自分たちで管理していたいって思ってます。たとえば、このミュージックカードはオンラインで販売していないんです。買ってくれた人に直接ありがとうって伝えるようにしています。
ー’全部自分たちで’って、相当大変なことかと…
虚無森:はい。私たちは‘成長コンテンツ’ととらえています。例えば今回CGを地代所悠ががんばってくれていますが、今後もっとCGも音楽のクオリティも上がっていくところが見せ場でもあると。
地代所:成長していくプロセスを、応援してくれる人も一緒に見ていけるし、自分たちも作品をより強くできていくイメージです。いきなりたくさんの協力を得て、完成度MAXのものを出すとそこで終わりだし、それ以上いいものが出ない。それに完成形を待ってたら、何も出せないから、出すしかないんです(笑)
虚無森:出せないし、お金かかりすぎる(笑)
地代所:今できる最大の努力をして出して、また次がんばるぞっていう
ーsa-juは映像制作チームとしてスタートしたイメージがありました。
地代所: 2020年の中頃に結成したんですが、その前に地代所の個人プロジェクトの短編映画「何者でもない、」で虚無森ホルン。に出演してもらったんです。そのあたりから2人で共同体という形でやり始めました。
虚無森:スタートラインとしては、二人で何かを出す時に「sa-ju」という名義を使おうという感じでしたね。
地代所:特に映像に限定していたわけではなく、何でもやれる便利な名義というイメージで。
ーそして今は、音楽の方向が強く出ている…
地代所:今も音楽だけって感じではないんですが、二人が一番得意なのが音楽なので結果的に3曲目まで行ったということになります。
虚無森:「サジュラジ!」っていうポッドキャストもやっているのですが、それも「ラジオやったらおもしろいね」で始まりました。今はできることがどんどん増えていくねって感じです。それに音楽を出す時にビジュアルも必要になるわけだし、パッケージとして全部自分たちで作りたいです。
ーパッケージとは?
地代所:例えば映像作品を出す場合は、前景として映像があるけど、音楽も物語も必要ですよね。で、今回の「休もう」の場合は、音楽が前景にあるけど歌詞には物語があり、後ろの方にはビジュアルアライズがあり、当然それらの世界観があるというふうに、常に全部の道具を使っていてその時その時に何が手前に見えているかが変わる感じです。
テーマは’半径3mの死生観’
ー前作の「容器包装プラスチック」も「休もう」も、テーマとしては身近なところという印象を受けました。
地代所:はい。テーマは‘半径3m’なんです。
虚無森:はい、‘半径3mの死生観’です。
ー え、死生観…?
地代所:なんか、死がいつも近いんです(笑) 「休もう」の裏ストーリーとして、そもそも死にたい人がいて、その人は疲れてやられているんです。でもそこにこの曲が降ってきて、ストップをかけるってイメージなんです。
ーこの曲作るきっかけは何だったんでしょうか。
地代所:地代所は働きすぎると自律神経が乱れたりとか結構やばい感じになるんです。なので、歌詞にある歯茎腫れたりちょっとハゲたりとかとかって全部リアルなんです。
で、これはまずいぞって思ったとき、「あ、そういう休む歌作ろう」って思って。だから自分に向けてというのもあります。自分のペルソナじゃないけど、ハッピーな自分が「ちょっと休もうよ」「大事なものあるからさ」って呼びかけてるイメージですね。
虚無森:自分たちも含めて、現代の、すごい働かなくちゃいけない、切羽詰ってる感じできついなって思ってる人に、なんか共感してもらったり届けたいなって。
ーポップな曲調の中に込めた思いは、案外重いと…(笑)
地代所:昨年、神田沙也加さんのことがあって、僕たちもすごくつらかったんですね。それにみんなそれぞれいろいろな地獄があると思うんですよね。だからこっちも地獄見てるぜって伝わったらいいなって。一見楽しいポップな曲の中に「墓場」って言葉があることで、ハッとしてほしいなって。
虚無森:生きづらい人が今いっぱいいるだろうな、でも自分らしく生きて欲しいなって。
地代所:こういう形で思いや歌詞を話していくことで、伝わったらいいな、新しく聞く人たちが増えたらいたらいいなって思います。
’すごい!’って言ってもらうより、寄り添っていたい。
ー音楽的にもいろいろな仕込みをされていますよね。
地代所:そうです。コンセプトとしてはミュージカルなんです。前奏はベルリオーズの「断頭台への行進」っぽく、「え、これ、死ぬ系なの?」って感じだけど、場転があって、隣からいきなり「ヘイヘイみんな!」って入ってくると(笑) そこからポップソングになり、まず明るい世界を見せる。で、中間部で虚無森がきれいな声で歌うところがあって…
虚無森:幼い子供のような声で歌うんです。
地代所:そう、そこでちょっと過去のことを思い出して元の世界に引き戻されそうになる…
虚無森:時計の音を入れているんです。死へのカウントダウンをイメージさせるような。で最後に逆再生で巻き戻していくんです、全部。そして主人公が「あ、こうなってはだめだ、休もう!」って主体的に言うシーンになる。
地代所:最後は大合唱に。でももしかしたらもう死んでいるかもしれない。どう思うかはあなた次第(笑)。
本当に、いつ死ぬかわからないので、大切なものを思い出して歌おうよ遊ぼうよっていう気持ちです。
虚無森:「床に飛び込もう」って歌詞があるんですけど、普通だとベッドですよね。でもそれってちゃんとできてる時なんですよ。疲れ果ててたりストレスでどうにもならない時は、虚無森も床に飛び込んで寝てるんです。だからこの曲ではぎりぎりの日々、精神状態を歌ってるんです。
地代所:それと、数多くの楽器を使っているんですが、全部二人で演奏しています。
虚無森:ピアノ、ホルン、クラリネット、トロンボーン、トランペット、ユーフォニアム、フルート、あと、ギターにコントラバス、そしてチェロ。
地代所:最後が一番楽器が多いですね。それこそミュージカル的で。この尺の曲に対してはありえない量の楽器を贅沢に使っています(笑)
虚無森:しかも宅録(笑)
―そして、それに気づいてもらえるかもわからない(笑)
虚無森:そうですそうです(笑)
地代所:そこまで誰もまだ触れてくれてないですね。でもそれでいいです。
虚無森:「すごい!」って言ってもらうよりは、寄り添っていたいっていうのがあるんです。聞いている人が「この曲を聞いて助かった」って言ってもらえると嬉しいなって。
セルフプロデュースの先にあるもの
ーsa-juはセルフプロデュースですよね。強制されているわけではなく、逆に言うと結果にコミットしなくていいとも言えますが…
虚無森:でも、なんかストイックにやってますね…
地代所:「趣味だから」って絶対に言わせないぞって。仕事と同様に同じクオリティをsa-juに注ぎ込みたいと思っています。
虚無森:私は自分の作品のクオリティが上がることが最優先と考えているので。
ーSa-juでの制作が最優先?
虚無森:私は作品で自己紹介をしていくタイプの売り方をしているので、Sa-juのコンテンツ作りで妥協してしまうと「自分は果たして何なのか?」ってなってしまうんです。そして、できるだけ多くの人に自分が手掛けている領域や高めているクオリティの段階を見て欲しくて。たとえばビジュアルを専門にやっている人が見ると「あ、この人は今このぐらいの段階でがんばっている」ってわかってもらえるんですが、そうやって自分の支配領域を増やしていっています。
地代所:自分の場合は、今確立されている地代所悠をいかに壊すか。壊すというか、開拓していくイメージですが。
2019年に短編映画を撮ったぐらいから覚醒し始めたんですね。小さい頃の自分を100%喜ばせたいなって。たぶん好奇心をエンジンにして進んでいくほうが合ってるということに気づいたというか。
今は全部の場所での経験が全部の場所に還元されていく感じを大事にしていて、「繋ぐ人」でありたいなって思っています。
虚無森:sa-juの活動をよく「楽しそう」って言ってもらえて、それも嬉しいです。
地代所:「楽しそう」って人をアトラクトするから、ファンが拡大することにもなるし。
虚無森:私は「自分のやってることに対して名前をつけたい」って思っているんです。手段としてホルンもやるし他のいろんなこともやってて、それが「自分」っていう名前になっていったほうが、使命感みたいなものが自発的なので生きやすいなって。
自分の中に営業部も音楽部もあって、エンターテインメントのホールディングスっていうイメージ(笑) とにかく全クリしたいんです、この世にある全てのものを。世界征服ぐらいの勢いで。
地代所:その感覚は共通してます。自分はその昔映画監督になりたかったこともあって、sa-juもそのうち「sa-ju組」にしたいな、とか。
―作ってきたものに対して、振り返ってみてどのように感じますか。
地代所:「いい曲だな」って(笑) その時の自分たちが一生懸命作った、その時の自分たちから出てきた子供みたいな感じで。技術力、ミックスとかマスタリングみたいなものは、もちろん今のほうがいいんですが。
虚無森:「そんなこと言ったって」も「容器包装プラスチック」もかわいいです。車で2人で聞いて「いい曲だよね、これ」って普通に言ってます(笑)
地代所:でも、自画自賛とか自惚れてるとかとは違う感じなんです。もちろん粗はいろいろ気になるけど、なんていうか、ちゃんと本質があったり核があることが偉いなって。
虚無森:うん。手は抜いていないので「いいよね、これ」って振り返ることができる。
地代所:あと、やっていることは意外と前衛的だったりするんですが、ほんわかして見えるのがsa-juの良さだと思っています。
虚無森:sa-juだと優しくできるし、2人でいたほうが和やかになれます。個人が結構奇抜なものとか寄せ付けないものを出していても、sa-juは寄り添える形を目指したいなと。
ー個人の活動を知っているファンの方は、sa-juの活動をどのように思ってらっしゃるのでしょうか。
虚無森:私のブランディング自体が「私がやることに口を出すな」なので、最初から大丈夫でした(笑)
地代所:僕のほうは「地代所が急に変な感じになってる」っていうのはありましたね。クラシック演奏家として認識している人が多かったので、sa-juを結成して地代所の作風が変わってきたと。
自分はもともと総合芸術として映画が好きで、昔からいろいろな映画に圧倒されてきているんです。映画ってメイキングを見ないと仕掛けのすごさがわからないことが多いんです。だから自分もマルチに制作して、できることは手を抜かずに全部に全力を注ぎ込みたいんです。そういう意味では、自分としてはプラスの変化だと思っているのですが。
sa-juも個人領域も疾走感とともに。
―今後の活動・計画は?
地代所:sa-juのミーティングは、普通に洗い物しながら「次こういうことやりたいよね」みたいな形で始まりまるんですけど。
虚無森:「ああ、じゃ、ちょっと撮影しにいく?」みたいな(笑)
地代所: sa-juの手触りって、全然ソリッドじゃなくて丸っこいんです。それを大事にしつつ、個人のほうのアウトプットはソリッドなものやかっこいいものをやってます。そのバランスを保ちつつ、両方のアウトプットの頻度を上げていきたいですね。
虚無森:虚無森も個人とsa-juのバランスを保とうと本能的にしているので、sa-juの発表頻度が上がったら個人活動も高めていきます。のんびりやるつもりは全くないです。
地代所:クオリティって続けていくとついてくるし、そこだけを求めすぎると本質がなくなってしまうと思っていて、これからも本質を伝えたいスピードで出していきたいです。
<終わり>
取材・構成・編集:Jidak
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