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読書メモ26

126.とんこつQ & A

不思議で不気味で不自然な作品たち
人間らしさから感じる、怖さと切なさ

自分の好きな今村夏子さんの世界観を存分に感じられる作品集でした。

単行本のタイトルにもなっている「とんこつQ&A」では、明るい雰囲気であるのに不気味というか、怪しい宗教や陰謀論をまっすぐ信じてる人たちを見ているような感覚になりました。「あひる」を読んだときに感じた、ゾッと感があって大満足。
自分が思う今村夏子ワールド全開でした。

「嘘の道」は、人間らしさを感じる作品でした。
子供と嘘、周りの大人と嘘、世間と嘘、いろんな嘘の描写。特に、本当のことを知っていても、周りに流されて嘘をついてしまう描写が妙にリアルでした。大小はあれど誰しも嘘をついたことがあって、子供の頃の嘘でもなんとなく罪悪感が残っていたり、そういうところを刺激されるような作品でした。

「良夫婦」はなんでこのタイトルなんだろう。
この2人が自分たちを良い夫婦だと信じて疑ってなさそうな雰囲気から来てるのかな。
読者という神の視点からみると、良い夫婦かもしれないですが良い人間ではない気もする。ただ良い人間って何よ、って話ではありますが。
悪党ではないけど、絶対良くはない。多くの読者がそう思う気がします。実際にこの人たちみたいな人、いるんだろうな。

「冷たい大根の煮物」は、あたたかい話。
人によっては、人との関わり方について気づきがある話かもしれません。新しく関わり始めた人が、実は周りからの評判が悪いと知った時、その後の関わり方をどうしていくか。そんなことを考えながら、物語としては明るく温かいので良い読後感でした。

この作品集はどの作品も場面や人物が身近な感じがして、変に没入せずに読めて良かったです。

127.ヒトは生成AIとセックスできるか-人工知能とロボットの性愛未来学-

人工知能と人間のコミュニケーションの未来を考える時に、性欲は無視できない。

タイトルの問いを自分目線で浅く考えるだけなら、飲み屋でのトークテーマになりそうなので軽い気持ちで読み始めました。でも、通読するとこのテーマがもっと深くて、複雑であることがわかります。それと同時に、人工知能含めて未来を想像するときの新たな地図を手にするような視点が得られました。本当に読んで良かったです。

この本では、神話や映画作品などの物語やセックストイなどの道具の歴史を整理して、これまで人間が「人工恋人」をどのように求めて、作ろうとしてきたかを明らかにされています。そして、人間の道具として誕生したロボットが、その先の人工知能が、人間のコンパニオンとして変化していく過程を追いながら、哲学・生物学・心理学・宗教学などの学問を横断しつつ、セックスロボットをめぐる開発や議論の現状と課題を丁寧にまとめています。

個人的には、人工知能に感情(のようなもの)を持たせられるかを考える中での、性欲の扱い方の議論とセックスロボットを作ろうとした時に人間に似せる必要があるのか、不気味の谷は越える必要ないのではないかという議論などが興味深かったです。

文章にクスッとくるフレーズや人に話したくなるようなうんちくも散りばめられてて面白かったです。著者の人となりが伝わってきました。日本語話者にしかわからないような微妙なニュアンスで伝えてきたりとか翻訳家の技も光る感じがして非常に読みやすかったです。ちなみにコーンフレークは自慰行為したくなる衝動を抑えるために開発された粗食らしいです。

128.あなたも狂信する 宗教1世と宗教2世の世界に迫る共事者研究

人はどのようにカルト宗教にハマってしまうか、自分の頭で考えられてる内に出会いたい一冊

宗教2世でもある著者が宗教1世や2世へインタビューして、その生の声を解説していく本です。
「あなたも狂信する」とあるように、あなたが宗教1世になるとしたら、どのようなキッカケでどのような思考でハマっていくかが説明されていきます。

著者自身が宗教2世で、狂信することの被害者であることと、加えて京都府立大学文学部の准教授でもあることから文学的な専門知識からの考察も面白い。

宗教へハマってしまって人生がおかしくなってしまう人がどのような人であるか、あまり想像できない状態で読み始めたので、新しい発見の連続でした。

人生に絶望して、藁にもすがる思いで宗教にハマっていくのかな?と漠然と思っていたけど、そうじゃない点は初めて知って意外でした。
世の中に納得いってない、不平等に不満を持っているような人が、正義感の中でハマっていく。会社とか世の中とかにしっかりと不満や危機感を持ってる人の正義感を悪用して、組織の目的を利する集団がカルトなんだなぁと。

世の中は不確実で不可解で、白黒はっきりつけられないことだらけで、そういうグラデーションを受け入れる、受け入れるというか耐える?能力が必要だと感じました。
人間は考える葦なので、自分の弱さと小ささがわかる。そこで絶望した時に、神や仏みたいな超越的な存在を掲げてやってくる人たちに騙されないように、よく考えるように努めないといけないですね。

「まあ、人生に正解ないからね」と大学の先生によく言われていたのを思い出します。

129.他人が幸せに見えたら深夜の松屋で牛丼を食え

偉人の名言は真に受けちゃうけど、知らない誰かの教訓だからこそ、自分で理解して糧になる。

少し下世話なテイストだけど、知らないオッサン200人がそれぞれの経験からくる人生訓を紹介していく本。聞いてるラジオで紹介されていて読んでみました。

読んでいて確かに!となるものもあれば、そうか?と思うものもあるし、どうでも良いものもたくさんあります。それがこの本の良いところです。

直前に読んだ「あなたも狂信する」では、他人の教訓や宗教の教えをを信じすぎると辛い目に遭う事例をみてきたけど、結局知らない人の雑で無責任な教訓くらいが悩んだ時に1番ちょうど良いのでは?と思いました。

すごい人の「こう考えてる」を聞くと、理解できなくても、なるほどと思いたくなっちゃったり、とりあえず信じちゃうこともあるけど、知らんおっさんのコメントなら、流石に鵜呑みにできなくて自分で考えようとする。考えるきっかけになるからとても良いと思いました。

この本では、マジでしょうもない話もあるし、それぞれ反対意見の人生訓も出てくるから、視点があって良い。個人的には「高級食材を使ったB級グルメは不味い」が面白かったです。

130.言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼

話せるのに、説明はできない。言われてみればなんでだろうの連続はまさに沼

ゆる言語学ラジオというラジオのパーソナリティの二人の対話形式の本。ラジオでは取りあげていない書き下ろしのテーマで読者を言語沼へ引きずり込みます。

言語学の面白いところは「身近なテーマであること」。
例えば数学で有名なフェルマーの最終定理は身近ではない。この定理は数々の大天才が挑んですごい時間をかけて証明されました。その過程は壮絶でドラマチックなのでそれはそれで面白いのですが、肝心の証明の内容を理解できる人はかなり限られていると思います。
ところが言語学の研究テーマで有名なのは「『ゾウは鼻が長い』の主語は?」らしいです。主語は「象」?「鼻」?難しい。難しいことが伝わる。。
専門的なことはわからないけど、テーマはピンとくる。その身近さが面白い。

他には、「壁にペンキを塗った」と「壁をペンキで塗った」近いけど少し違う感じしますよね。違うのはわかるけど、メカニズムを説明するのは難しい。そんなテーマを明らかにしいくのも面白い。

大人になると、勉強が面白く感じるようになってきて、その状態になった時に身近なのに沼のように深い言語学というテーマはとても面白い。
もともとリスナーだったので読んでいて二人の声で再生されて楽しかった。

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