教員の働き方改革と一体にした授業改善をめざすカリキュラムマネジメントについて(7)
「おわりに」
おはようございます!
毎週日曜日更新、本テーマの最終回となりました
毎週、ご高覧いただきましてありがとうございます。また、この間、多くの方にフォローしていただきました。とても励みになります!
本論の仮説『カリキュラムマネジメントで、ディプロマポリシーの共有と実践を進めていくことは、観点別学習状況の評価の理念に相応した「授業改善・適正な学習評価」、さらには「教員の働き方改革」に繋がる』について改めて整理します
「小さいことをたくさんやる」のではなく、「しっかりした内容のものを計画的に(ディプロマポリシーを共有し、学校全体で)一つやり遂げる」ことで、課題を通して身に付けさせたい力も明確になり、生徒にとっては成果が実感でき、心にも残る
日常的な単元テストに加え、パフォーマンス課題を取り入れ、発表後のレポート等とを組合わせることで3観点をバランスよく評価していく、また、パフォーマンス課題は年1(~2)回、かつ、先生方が最も本質的(あるいは楽しい)と思える単元に絞って行うのであれば、どの先生方も取組みやすいのではないか
先生方が、勤務時間内に生徒と向き合い、定時退勤を促すには、生徒と向き合う以外の時間を大胆に削減するしかない
教材研究は授業改善・適正な学習評価のために不可欠ですので、定期考査、昔ながらの平常点作業、これらしか削減対象として思い当たりません
意味のない会議も、その意義を問いただせねばなりません
「適正な学習評価」を実現するためには、学校が、先生方が、生徒・保護者、或いは大学等に、学習評価のエビデンス・アカウンタビリティを迷わず自信をもって示すことができるように、校長がそれらを指し示してあげて安心して学習評価できるようにマネジメントすることが求められていると考えます
もちろん、教育庁の全面的なバックアップを得られれば校長も力強いです
校長マネジメント(=学校マネジメント)の最も大切なポイントは、
「ディプロマポリシーの共有と実践を進めていく」ことなのです
大阪府では「学校経営計画」の「めざす学校像」を基にグラデーションポリシー(卒業時に育成をめざす資質・能力に関する方針)を定めています。箕高では、2020(R2)年度より、高等教育の学位授与の方針「ディプロマポリシー」の名称を借りて用いてきました
私は校長としてあらゆる機会で、「めざす学校像」「ディプロマポリシー」を、卒業時、生徒たちにこのように育って欲しいという姿をイメージしてCompetency –based で考えてみませんか、と問い続けてきました
「ディプロマポリシー(グラデーションポリシー)」は、それを設定した学校が3年間の教育活動で生徒たちに卒業時に身に付けさせるべきCompetencies(資質・能力)でした
「めざす学校像」・「ディプロマポリシー(グラデーションポリシー)」は、教育委員会が、当該学校の地域における教育的な存在意義、学校としての揺るぎないアイデンティティを踏まえて認定するものです
学校と教育委員会の認識の一致が、教育委員会の指導・助言のもと図られています
学校全体(全教科科目、教科外教育活動の総て)で、ディプロマポリシーの共有と実践を進めていくことは、3年間の教育活動で生徒たちに卒業時に身に付けさせるべきCompetencies(資質・能力)に根ざすものであることにより、「授業改善・適正な学習評価」としてのエビデンス・アカウンタビリティを示すことができます
観点別学習状況の評価の理念に相応した「授業改善・適正な学習評価」に関しても、ディプロマポリシーに基づき、教科教育活動・教科外教育活動の両輪で生徒たちの人間的成長・発達に働きかける、自身の教科・科目で学年の発達段階に応じて卒業時に身に付けて欲しいCompetencies(資質・能力)のどの部分を育てていくのか、そこを学校全体で共有することにより、各単元、それを構成する一時間一時間の授業で単元終了後、授業後に育成をめざしたい生徒の姿をイメージしながら授業創りを研究・開発・実践に取組んでいくのです
箕高では、授業の「めあて」・生徒の活動場面(グループワーク等の協調学習など)・「振返り」を取入れた「箕高授業スタイル」として実践しています
先生方は、まず授業後の生徒の姿をCompetency–basedでイメージし、「めあて」として始業時に提示、生徒はそれを意識しながら授業を受けます。「めあて」に迫るここ一番の場面で、生徒たちが共に深め合う活動を設定します(この活動において input ⇔ output の往還により既習の学習知が深まります)。終了時には、たとえ数分だけでも構わないので授業・学びの流れを振返り、「めあて」が達成できたかを生徒に問いかけます(「振り返りシート」等の記述は単元末でも十分です)
観点別学習状況の評価においては、「主体的に学習に取り組む態度」の評価に対するアカウンタビリティを気にするあまり、先生方が情意も含めた平常点的な要素の詳細な記録をエビデンスやアカウンタビリティとすることがないように、生徒・保護者、或いは大学等に、学習評価のエビデンス・アカウンタビリティを悩まず自信をもって示すことができるように、校長から先生方に説得力のある解を提示する必要があります
その適正な解が、「ディプロマポリシーの共有と実践」なのです
私は、観点別学習状況の評価の理念に相応した「授業改善・適正な学習評価」は、「教員の働き方改革と一体」に取組むべきだと考えてきました
その最適解のひとつが「パフォーマンス課題」にあると考えています
私は、学校全体で共有したディプロマポリシーに基づいて教科内で共有された、先生方の教科・科目において1年間で身に付けるべき資質・能力を踏まえ、先生方が一番本質的な学びだと考える単元(若しくは、一番教えていて楽しい・充実感溢れる単元)を選び、そこにパフォーマンス課題を設定して、「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を一体的に評価するよう伝えています
パフォーマンス課題により、「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を一体的に評価することで、「主体的に学習に取り組む態度」の評価を、先生方が情意も含めた平常点的な要素の詳細な記録をエビデンスとして用意する必要はなくなるはずです
ここから、新学習指導要領・観点別学習状況の評価の理念に基づく適正な学習評価・授業改善の研究・開発・実践・リフレクションをいかに積み重ねていくか、校種・学校間を超えた取組みが求められます
これを先生方の働き方改革と一体にしたカリキュラムマネジメントにすべく問題提起しているのです
例えば「知識・技能」評価の7割は、教科書の副読本、授業プリントから「単元テスト」として出題します
単元の学習内容を展開講座数で任意に分け、授業内で小テストを実施するようにGoogle Classroomを活用し実施します。採点はExcelを利用すれば、作問・採点は不要となり採点ミスなどもなくなります
「思考・判断・表現」評価の2割は、「単元テスト」を活用します。「単元テスト」には、「知識・技能」問題・「思考・判断・表現」問題を明記する必要があります
さらに「思考・判断・表現」評価の6割と「主体的に学習に取り組む態度」評価の7割、「知識・技能」評価の3割を「パフォーマンス課題」で一体的に評価します
発表後には、個人論文・レポート・提案書・ジャーナルを書かせます。これで「思考・判断・表現」評価と「主体的に学習に取り組む態度」評価の残りの部分を一体的に評価します
但し、「パフォーマンス課題」の集中による生徒たちの負担を和らげるための調整が必要になります。
「パフォーマンス課題」の設定は年に1回若しくは2回で良いと考えています。ディプロマポリシーを踏まえて、先生方が教科・科目の一番本質的な学びだと考える単元、若しくは、一番教えていて楽しい・充実感が溢れる単元を選べば生徒の学びは深まりを見せ、先生方の負担感は軽減されるのではないでしょうか
現場での研究・開発・実践・リフレクションを積み重ねること、研究者の先生方の専門性に学び、指導・助言をいただくことで、適正な学習評価として、生徒・保護者に対するアカウンタビリティを果たせるように努める必要があります
このように考えれば、「単元テスト」で定期考査は不要となり、長時間を要する作問作業・採点作業も不要です
「平常点」=「主体的に学習に取り組む態度」と思い込むことで生じてしまう、情意も含めた授業の取組み態度の評価やノート・プリント点検等の業務も、「パフォーマンス課題」で「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を一体的に評価することで不要となります
定期考査を廃止して、「知識・技能」評価の7割・「思考・判断・表現」評価の2割は、教科書の副読本、授業プリントから出題する「単元テスト」で良いのか
「パフォーマンス課題」の設定は年に1回若しくは2回でほんとうに大丈夫なのか、しかも、これだけで「思考・判断・表現」評価の6割と「主体的に学習に取り組む態度」評価の7割、「知識・技能」評価の3割を「パフォーマンス課題」で一体的に評価して大丈夫なのか
生徒・保護者、或いは大学等に、学習評価のエビデンス・アカウンタビリティは公平・適正に指し示すことができるのか
この先生方が抱く心配への解は次のとおりです
学校全体で、ディプロマポリシーの共有と実践を進めています
そして、ディプロマポリシーに基づき、自身の教科・科目で学年の発達段階に応じて卒業時に身に付けて欲しいCompetencies(資質・能力)のどの部分を育てていくのか、そこを学校全体で共有する努力をしています
ディプロマポリシーの共有と実践に基づき、観点別学習状況の評価の理念に相応した「授業改善・適正な学習評価」は、一時間一時間の授業は、例えば「箕高授業スタイル」のコンセプトで、「パフォーマンス課題」の設定(研究・開発・実践と全体共有)で取組みます
これらを、校長の同僚性と卓越性のカリキュラムマネジメントで実現していく
ディプロマポリシー(グラデーションポリシー)は教育委員会の指導・助言を受けて策定されたものです
校長は、「我が校のディプロマポリシーの共有と実践に基づく適正な学習評価を実施しています」と自信と確信をもって公表する
このような校長・准校長のマネジメントを教育委員会は徹底的に支援する(課題がある際には、適切に指導・助言を働きかける)
校長は、全体の研究・開発・実践の共有・把握、適切な時期に適切な研修のっ計画・実施、等マネジメント力を発揮することが求められます
また、繰り返しになりますが、「パフォーマンス課題」はグループで取組むべきだと考えています。それは、2015年にOECDが実施した「協同問題解決能力調査」における、15歳の「グループの中で、他人と協力をして問題を解決する」力が加盟32カ国で日本はトップであり、同時に実施したアンケートで「人の話をよく聞く」「ほかの人が興味を持っていることに気を配る」などの質問に肯定的な答えをした生徒の得点が高い傾向にあったことを根拠としています
コロナ禍、一斉休業、分散登校期間、先生方には、オンライン学習でもできることは何か、対面授業でしかできないことは何か、という授業の本質に迫る問いが突き付けられました
さらに、令和4年度 入学生から始まった観点別学習状況の評価において、先生方には、従来の「学習評価」の在り方の根底を問われる状況が迫られ、新しい授業観の構築・適正な学習評価に学校全体で取り組むことが必要不可欠になりました
他方、初等・中等教育諸学校における「教員の働き方改革」は喫緊の課題です
これらの劇的な背景のなか、課題・問題解決の最適解の一つが、私が述べてきた仮説『カリキュラムマネジメントで、ディプロマポリシーの共有と実践を進めていくことは、観点別学習状況の評価の理念に相応した「授業改善・適正な学習評価」、さらには「教員の働き方改革」に繋がる』なのです
箕高を定年退職する直前の教員研修では、令和5年度はChallenge・試行の1年として「パフォーマンス課題」策定と適正な学習評価・授業改善に取組んで欲しい、そのなかで、
○生徒たちの真の学びとなっている
○適正な学習評価となっている
○先生方の働き方改革になっている、
の3点のいずれかが達成されていなければ、方向性をまた一から出直して考えてみましょう、と伝えました。
新学習指導要領・観点別学習状況の評価の理念に基づく適正な学習評価・授業改善の取組み、先生方の働き方改革は一体にして語られ、思考され、校長としてのカリキュラムマネジメントとして実践されていくべきです。
(1)で述べましたが、京都大学 大学院 教育学研究科 教育方法学研究室 の先生方による著作・論文・講演・研修会や、関西学院大学 高等教育推進センター 時任 隼平 教授の実践に学びながら得て校長として実践してきた専門的知見・実践的知見にエビデンスを求めるようにできる限り心がけましたが、現場の肌感覚による論考が走っている感がやはり否めません。皆さま方のご高覧にあずかり、貴重なご意見・感想をいただき、課題解決に向けた議論が深まりましたら幸甚でございます
今回で毎日曜日更新、連続7回の論考は完了です
来週日曜日からは国研教育課程研究指定校事業で取組んだ「総合的な探究の時間」2年次の実践をできる限り詳細にその理論的背景、授業で活用したワークシートも交えながら数回に分けて紹介していきたいと思います
何かのきっかけで、現場の生徒たちや先生方が幸せになっていくような議論が拡がればと願います
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします
参考文献
西岡 加名恵 著『「逆向き設計」で確かな学力を保障する』明治図書出版2008年
西岡 加名恵 著『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価』明治図書出版2016年
三宅 なほみ 他編著『協調学習とは 対話を通して理解を深めるアクティブラーニング型授業』北大路書房2016年
西岡 加名恵 著、編集 『高等学校 教科と探究の新しい学習評価』学事出版2020年
石井 英真 著『授業づくりの深め方「よい授業」をデザインするための5つのツボ』ミネルヴァ書房2020年
石井 英真・鈴木 秀幸 編集『ヤマ場をおさえる 学習評価』図書文化社2021年
石井 英真 著『授業が変わる 学習評価深化論』図書文化社2023年
石田利生、稲川孝司 著『カリキュラムマネジメントで取り組む探究的な学び』公益財団法人日本教育公務員弘済会2019年度教育研究集録
石田利生 著『大阪府立東百舌鳥高等学校「総合的な探究の時間」研究指定校 1 年目の成果』NPO 法人 ERP 教育研究所 教育 PRO 平成 31 年 3 月 5 日号
石田利生 著『国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業「総合的な学習の時間」の研究成果』NPO 法人 ERP 教育研究所教育 PRO 令和 2 年 3 月 17 日号