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再造林前提の皆伐で事業拡大・南那珂森組

ここ数年の国産材需要拡大をビジネスチャンスとしてとらえ、林産事業(素材生産)拡大に取り組む森林組合が、数こそ少ないが東北や九州で出始めた(例えば、日田市(第30回)、上北(第39回)、佐伯広域(第40回)などの森林組合)。大半の森林組合が保安林整備事業などの公共事業で組合経営の辻褄を合わせようという消極的姿勢の中で、これらの森林組合はなぜリスクを伴う積極路線に転じているのか。そこで遠藤日雄・鹿児島大学教授は、南那珂森林組合(島田俊光・代表理事組合長(宮崎県森連会長)、宮崎県串間市)を訪れた。同組合は多彩な事業を展開しているが、今、全国的に注目を浴びているのは、再造林を前提とした皆伐で林産事業を拡大していることだ。なぜそれが可能なのか。堀之内秀樹・同森組職員専務との対論の中で、それが明らかになる。

2〜3年後に5万㎥体制、1人1日15㎥も目前

 南那珂森林組合は、串間・日南地区の両森林組合が合併してできた組合だ。弁甲材生産で名を馳せた飫肥林業地のど真ん中で林産事業を展開している。スギ量産工場が轡を並べて稼働する都城まで車で1時間。そこを見据えての林産事業拡大だ。堀之内専務は、遠藤教授を車でスギ皆伐現場(60ha)に案内した。

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皆伐跡地の説明をする堀之内専務(右)

遠藤
 南那珂森林組合の年間林産事業量はどれくらいか。

堀之内
 買取り林産中心で約3万㎥だが、2〜3年後には4万㎥へ増産する計画だ。これとは別に、補助間伐事業1万㎥もやっているので合計5万㎥体制になる。

遠藤
 買取り林産は、素材生産業者との熾烈な競争があり、大きなリスクを背負うことになる。

堀之内
 そのためには2つの戦略が必要だ。1つは、伐出労働生産性の向上だ。串間市森林組合時代から林産事業に携わってきたが、90年代初めまでは年間事業量1万㎥の壁を破ることができなかった。
 そこで平成5年にプロセッサを導入したら一挙に事業量が増えた。現在、1人1日当たり10〜12㎥(全国平均4・7㎥)だが、15㎥は目前だ。また、伐採した丸太を製材工場まで搬入するのに、今のところ4000円/㎥かかっているが、これを3000円台にしたい。

遠藤
 企業感覚に徹している。

堀之内
 これからの森林組合は、企業感覚を積極的に取り込み、収益性をあげて組合員のサービス向上に務めるべきだ。

遠藤
 それが第2の戦略というわけか。収益性向上の具体策が、全国的に注目されている再造林を前提とした皆伐ということか。

林地残材を整理・配列、「植えて返す」を徹底

 堀之内専務は、伐採現場とその跡地が一望できる尾根筋へと遠藤教授を案内した。車を降りた途端、遠藤教授は驚嘆の声をあげた。

遠藤
 いろいろな皆伐跡地を見てきたが、こんな風景は初めてだ。末木や枝条がきちんと整理、配列されている。これならいつでも再造林可能だ。

堀之内
 当組合の林産事業は、すべてこの方式で行っている。伐出後はグラップルで残材を整理をしながら次の現場に移る。現在、これらの林地残材をペレットやエタノールとして利用できないものか、地元の関連企業と共同研究を行っている。もし実現できたら、再造林費用はもっと安くなる。

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林地残材の整理された皆伐跡地

遠藤
 島田組合長が串間森林組合の参事だった平成6年頃、同管内で「放棄林」が増え始めたと、盛んに警鐘を鳴らしていた。全国に向けて、再造林放棄問題を最初に発信したのが串間森林組合だ。その合併組合で、再造林を前提とした皆伐が行われているのは意義深い。

堀之内
 「皆伐跡地は植えてお返しする」というのが当組合の「社是」。事実、当組合が手がけた皆伐跡地の100%近くは再造林済みだ。

遠藤
 なるほど。素材生産業者が手がけると、立木を伐採し、搬出したらそれでお終いというケースが少なくない。これに対して、南那珂森林組合は「植えて返す」が売りになる。一種の差別化だ。

堀之内
 その結果、組合に販売したら、造林コストが削減されるとのことで、林産事業の取扱量も毎年増加してきている。

遠藤
 とはいっても、今の安い立木価格では、皆伐跡地の再造林が難しいのも事実だ。

堀之内
 皆伐後の再造林という一局面だけを捉えて悲観するのではなく、もう少し長期的な視野に立って皆伐を位置づける必要があるのではないか。

遠藤
 どういうことか。

堀之内
 2つの面から考えることができる。まず、皆伐は組合にとって将来の事業確保につながる。下刈り、間伐をすれば収入になるし、伐期が来れば林産事業にも結びついていく。ひいてはそれが丸太の安定供給につながる。次に重要なのは、伐っては植え、また伐っては植えるという事業を通じて、地域の森林資源を管理していく主体になれることだ。これこそが森林組合の役割だと思う。

遠藤
 その際、いくつかの問題が出てくる。1つは林家世帯員の高齢化であり、もう1つは伐採のサイクル、つまり伐期の問題だ。

合板・集成材向けに短伐期林業を検討

 遠藤教授の問いかけに、堀之内専務は「組合に戻ろう、見せたいものがある」と答えた。組合には若い企画担当の職員が待機しており、遠藤教授に「地域森林管理GISを利用した施業集約化・境界管理業務」について説明を行った。

堀之内
 林家世帯員の高齢化は深刻な問題だ。そこで当組合では所有森林の境界確定作業に全力をあげている。境界が不明だと皆伐もできないし再造林も不可能だ。さらに2001年度から、GIS、GPSによる森林管理システムの構築に着手している。

遠藤
 不動産屋が地域の空き家を管理していくようなものだ。伐期についてはどうか。

堀之内
 合板や集成材の需要が多くなると、森林組合としてもそれに対応した伐期や施業を考えていく必要がある。

遠藤
 すでに、ポプラの合板やアカシアのフローリング、集成材などが市場に出ている。早生樹との競争になると、当然短伐期林業の検討が迫られる。

堀之内
 今後、森林資源のデータベース化が進めば、伐採跡地の造林樹種とその後の施業について所有者に提案していかなければならない。それがスギなのか、それとももっと成長の早い樹種なのか。それを今、組合で検討している。

遠藤
 南那珂森林組合の今後の事業展開のキーワードは、「営業力と企画力」だ。

堀之内
 その基礎力をつけて次の世代にバトンタッチするのが、私に残された使命だ。

遠藤
 堀之内イズムの徹底か。

堀之内
 違う。個性的でやり手の専務や参事がいる森林組合は、彼らが元気なうちはいい。でも、彼らが退職するとガタガタになるケースが少なくない。それでは長期的な森林組合戦略は描けない。

遠藤
 どうすればいいのか。

堀之内
 職員が組合員の立場に立って、絶えず組合全体で勉強することだ。それが組織力強化につながると確信している。

遠藤
 長期的視野に立った地域森林資源管理と、それを実現していく人材育成を進めていくというわけか。

◇    ◇

 南那珂森林組合には市場のニーズを睨みながら素材増産体制を構築し、その一方で再造林を担保にしながら地域森林管理を行っていくという明確な戦略がある。これからの森林組合が生き延びる1つの途を提示している。

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皆伐現場の作業風景

『林政ニュース』第334号(2008(平成20)年2月13日発行)より)

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