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青森県内最大のスギ製材拠点・上北森組

林構事業などの国庫補助事業を利用して開設した森林組合系統の製材加工施設の多くは、鳴かず飛ばずの状態だ。多額の補助金を投資しながらどうして?との疑問や批判も少なくない。しかし、中には企業経営者も舌を巻くほどの実績を示しているところがある。では、なぜ明暗が分かれるのか。そこで遠藤日雄・鹿児島大学教授は、上北森林組合(青森県七戸町、小笠原恭裕・代表理事組合長)の木材加工センターを訪ねた。ここは合併前の十和田湖町森林組合の製材加工施設である。遠藤教授を出迎えたのは、上北森組の高渕政勝・総務部長、向中野勲・業務部長、青森県東青地域県民局の横山隆・林業振興課長の3人。横山課長は、旧十和田湖町森組時代から同組合の林産・加工事業を指導してきた。4人は旧知の間柄。対談の中で森組系統の製材加工事業を成功に導くノウハウの一端が明らかにされる。

平成10年に新工場、年2万3000㎥へ規模拡大

  青森県といえば津軽、下北両半島の国有林に賦存する青森ヒバがつとに有名だ。高度経済成長期には年間40万㎥前後の伐採量を誇っていた。しかし、現在では2万㎥まで激減、ヒバ業界は風前の灯火という状況。その一方で、青森県のスギ人工林は充実してきている。その面積は全国第4位、丸太生産量は30数万㎥で、全国ベスト10に名を連ねる有力産地となった。このスギ利用に先鞭をつけ、今では県内最大のスギ消費量を誇るのが、上北森林組合の木材加工センターだ。

遠藤教授
  10年前までは旧工場で1万㎥弱の丸太の消費量だったが、今では青森県内最大のスギ製材工場になった。

向中野部長
  旧工場は受注専門挽きにし、平成10年11月に新工場を開設した。ツーウェイ横型バンドソー1台、ツインテーブル1台、プレーナーギャング2台を設置してフル稼働をしている。年間約2万3000㎥のスギ丸太を消費している。製材機械の能力は1万8000㎥だが残業でカバーしている。

遠藤
  ギャングを2台導入したということは板挽き製材が中心ということか。

向中野
  そうだ。バタ角や柱などの角挽きもできるが、羽柄材製材がメインだ。末口9㎝から36㎝までの丸太を挽いている。それまでの林構事業を利用した製材工場の多くは小径木から角挽きするのが一般的なパターンだった。しかし、今後、母屋・桁・柱などの角類は市場で過剰気味になると判断し、林構事業よりも一回り大きい製材加工が可能な木材流通対策の補助事業費を利用して開設した。今、考えると、これは正解だったと思う。

遠藤
  それにしても建築確認の混乱で新設住宅は壊滅的な打撃を受け、在庫調整が思うように進んでいないにもかかわらず、残業してまで製材しているとはすごい。製品が売れる秘訣は何か。

地元主婦がきめ細かな製品仕上げ、引き合い好調

  そこで向中野、高渕両部長は、遠藤教授を新製材工場へと案内した。土場には貫、胴縁、破風板などの羽柄材の梱包が積まれている。

遠藤
  製材品の荷姿がきれいだ。寸法・精度がきちんとしている。これなら引合いが多い理由がわかる。

向中野
  製品の販売先は東京・首都圏向けが65%、残りは地元だ。荷姿だけでなく、いくつかの工夫が凝らされている。

遠藤
  どういうことか。

向中野
  残業を支えているのは地元雇用の主婦たちだ。工場の従業員12名のうち5名が女性。彼女たちの役割は大きい。例えば、この工場の歩留りは板の製材加工だけに42%と低い。それをできるだけ克服するために、彼女たちはプレーナーがけでは1㎜を0・5㎜にして歩留りを上げる努力をする。また、販売先の大工・工務店が梱包を開いたとき、思わず買ってよかったと思うように適度に役物を入れている。いずれも女性ならではのきめ細やかな感覚が寄与している。若い男性従業員は、彼女たちに引っ張られるかたちで作業している。残業代だけで月6〜7万円/人になる。

遠藤
  地元に貴重な雇用の場を提供している。地場資源と地元の人材を活用しながら製材加工事業を拡充する森林組合本来の姿を垣間見た感じだ。

向中野
  このほかバーク(樹皮)は近隣の畜産農家へ、おが粉はナガイモの保存用に販売している。地域と一体になった森林組合活動を心がけている。

所有者の手取り3〜5千円、これでは再造林は難しい

  事務所に戻った4人は、森林組合の合併問題や、合併後の森林組合の役割などについて語り合った。

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(語り合う4人)左から高渕、向中野、横山の各氏

遠藤
  手許の「第7回通常総代会資料」によれば、合併時の累積赤字を4年で解消し、18年度から黒字に転換している。

高渕部長
  上北森組は旧十和田湖、天間林、北部上北の3組合が合併して誕生したが、ここの加工センターの収益が組合の黒字に寄与している。

遠藤
  森林組合の林産事業と製材加工施設の関係は。

高渕
  18年度の林産事業の実績は2万2700㎥、このうち製材加工施設へ42%に当たる9600㎥を充てている。残りは原木市売市場、チップ工場、県外の合板工場へ販売している。

遠藤
  製材工場消費分を林産事業では賄えないわけか。

高渕
  不足分は流通センター、素材業者などからの原木仕入れで補っている。買取生産は組合にとって一面リスキーだが、組合員にとってはすぐに現金が入るというメリットがある。

遠藤
  買取生産なら当然皆伐が中心。皆伐跡地の再造林はできているのか。

高渕
  当組合の林産事業の1〜2割が間伐。大部分が皆伐だ。皆伐は50年前後のスギが多い。立木蓄積で700㎥/ha、丸太で500㎥/haといったところか。この辺は三本木原台地の一角なので形が緩やか。だから伐出コストは2800〜3000円/㎥ですむ。それでも、森林所有者の手取りは3000〜5000円/㎥程度。これでは再造林は難しい。再造林を前提にいかに皆伐をしていくかが上北森林組合林産事業の課題だ。

急増する合板用丸太需要への対応が課題

遠藤
  合併組合だけに世間一般でいわれているような苦労が多かったのでは。

高渕
  他組合の合併をみていると、「はじめに合併ありき」が災いしている面が少なくないのではないか。合併してから考えようでは遅過ぎる。地域の人工林が年々充実し、森組もそれに対応した林産事業や製材加工事業の拡充が求められているときに、これでは次のステップに進めない。
  上北森組では大幅な人件費の削減という痛みは伴ったが、リストラは一切しなかった。若くて有能な職員が辞めていくのは大きな損失だから。

横山課長
  旧十和田湖町森組の場合、林産・加工事業が拡大する中で合併した。だから合併によってスケールメリットが発揮できたのではないか。その林産事業も、上北森林づくり振興会という森林組合と素材生産業者の連携の中で拡大している。今後は、ここ数年急速に増加している合板用丸太の需要にどう対応していくかだ。A材、B材の仕訳を山元でどう行っていくか。これが、これからの青森県の森林・林業の課題だ。

『林政ニュース』第328号(2007(平成19)年11月7日発行)より)

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