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老舗・日田市森組の“底力”と原木市場の新たなモデル

このところ、森林組合の旗色が悪い。とくに、昨年度からスタートした「新生産システム」の実施過程で、組織力の弱さや優柔不断さがあぶり出された形になった。そのせいか、何か目新しい事業を始める森林組合が出ると、にわかに注目を浴びるという妙なご時世になっている。しかし実は、今から40年も前から森林組合本来の事業を着実に積み重ね、現在、日本のトップクラスに位置する森林組合がある。日田市森林組合(大分県日田市、日高勲・代表理事組合長)がそれだ。同森組には、そんじょそこらの新参組合にはできない老舗ならではの“底力”がある。同森組の諫山克彦専務が、遠藤日雄・鹿児島大学教授にその“底力”を説明する。 

40年前から提案型事業、強固な労務班を編成 

  諫山専務は、まず遠藤教授を受託林産事業の現場に案内した。面積0.3㏊。スギ50年生の皆伐作業の現場だ。チェーンソーで先行伐倒した林木をウインチ付グラップルが全幹集材し、ハーベスタが枝払いと玉切り作業をしている。奥では重機が作業している。同組合が40年前から行っている提案型集団伐採の1箇所だ。

遠藤教授 
  日田地域には昭和40年代初めまで約120の製材工場があった。その大部分が大小の伐採・搬出労務班を抱えており、製材工場と森林所有者との直接取引が多かった。しかし、労賃高騰などで、製材経営の外に放出せざるをえなかったのだが…。 

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皆伐―再造林のシステムを説明する諫山専務(右)


諫山専務 
  そうした伐出技術者を森林組合労務班として再編したのが日田市森林組合だ。併せて昭和41年に県森連共販所から独立し、単組共販市場(3万㎥)を開設した。 

遠藤 
  製材工場との取引に馴染んでいた森林所有者(組合員)にとって森林組合は新参者だ。組合職員が間伐の説明に行くと、門前払いを食らったというエピソードをかなり聞いたことがある。それにめげずに組合員を説得したのが、今の集団伐採につながっているのでは? 

諫山 
  今では組合員の方から伐採を申し出てくるケースが多い。 

皆伐―再造林で5年後には7万㎥増産

  昨今、悪質素材生産業者による大規模皆伐とそれに伴う再造林放棄に対する危機的対応として、間伐が推奨されている。しかし、新生産システムや中国木材(株)の日向進出計画(第316号参照)など、製材加工業界は積極的な規模拡大路線を進んでいる。5年後には、九州だけでスギ丸太75万㎥の増産が必要という推計値が出ているほどだ。間伐だけでは、とても対応できない。このジレンマからどう脱却するのか。九州だけでなく日本林業最大の課題だ。 

遠藤 
  ここは皆伐の現場だ。伐採後の再造林はできるのか。 

諫山 
  できる。当森組の林産事業量は、平成18年度で5万800㎥だが、大部分が小面積皆伐(平均1〜1・5㏊)で再造林をしている。この方式で5年後には7万〜7万5000㎥の体制に入る。 

遠藤 
  私は、日田市森林組合は「日本一」と評価しているが、それにしても小面積皆伐を基礎にして7万㎥の増産体制に入るとは驚いた。 

諫山 
  現場を見ながら説明しよう。第1に、伐採後の再造林がしやすいように枝条の始末は徹底している。重機を活用して、再造林を前提にした伐採・搬出を行っている。第2は、年間6000mに及ぶトラック道の開設と9000〜1万mの作業道開設で搬出コストの縮減に取り組んでいる。第3は、伐採現場は千差万別だから、最も効率のいい機械体系を具備した労務班を充てている。ちなみに、この現場の素材生産コストは、㎥当たり4000円だ。そして、第4として、労務班をトータルプランナーとして育成していくことにしている。伐採予定現場を見て、最も効率よい作業を行うためには何が必要かを労務班員自らが感知して作業にとりかかっている。 

周密な仕訳プラス新生産システム対応の丸太販売 

  日田地域は、原木(市売)市場の周密な仕訳・配給機能と製材工場の分業化・専業化が両輪のごとく動いて、90年代初めまでに日本一のスギ材産地を形成した。ただし今は、原木市場の存在意義が問われる状況も出てきている。山を下りた諫山専務は、遠藤教授を日田市森林組合の共販所(原木市場)へと導いた。さきほどの林産事業で出材された丸太は、すべてここで市売に付される。実は、この原木市場が、新生産システムに対応した丸太販売の拠点となっているのだ。 

遠藤 
  まず、周密な仕訳の一端を教えて欲しい。 

諫山 
  スギの場合、長さ2m、3m、4mで、径級は8㎝以下、13㎝下、14〜16㎝、18〜22㎝、24〜28㎝、尺上となる。さらにこれを、A(直)、B(小曲)、C(曲)に分けている。 

遠藤 
  新生産システムでもこの仕訳が基本になっているのか。 

諫山 
  違う。新生産システム用に、つまり製材工場ごとの丸太を集積して販売する予定だ。 

遠藤 
  月2回の定例市売でそれをやったら混乱するのでは? 

諫山 
  定例市売の間に新生産システム用の独自の市売を開設する。都合3回になる。 

遠藤 
  新生産システムに参画している製材工場が、その市売にやって来るのか。 

諫山 
  コンピューター市売をイメージしてほしい。原木仕訳機がA社、B社…用に選別するが椪はつくらない。量がまとまったらA社、B社…がトラックで引き取りに来る。椪積料金は徴収しないが、仕訳料金はいただくことになる。 

遠藤 
  だったら、山土場仕訳で、各参画事業体が取引先の製材工場の土場へ搬入(直送)するのと大差ないのではないか。 

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新生産システム用の丸太が集積されている

諫山 
  それでは、原木市場のもつ丸太の集積機能が発揮できない。新生産システムの命は、製材規模の拡大に対応して丸太供給側も集積機能を拡充することにある。山土場から散発的に少量を製材工場へ直送してもコストダウンにはつながらない。この問題をクリアできるのは、集荷・販売のノウハウが豊富な原木市場以外にない。原木市場が介在した新しいモデルをここでつくりあげていきたい。

『林政ニュース』第319号(2007(平成19)年6月27日発行)より)

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