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「山のための」新工場開設へ・佐伯広域森組

国産材製材工場の規模拡大が、北関東と南九州を中心に続いている。いずれも、潤沢なスギ人工林資源を擁している点が共通している。現在、「新生産システム」への参画工場の規模拡大が注目を浴びているが、他の補助事業を使った規模拡大計画も見逃せない。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授は、佐伯広域森林組合(大分県佐伯市、長田助勝・代表理事組合長)の製材工場を訪ねた。最近、同工場の存在感が急速に増している。なぜか。同森林組合を率いる山田幸子参事の口から、好調な組合経営の秘訣と新たな事業構想が明らかになる。

手間を惜しまず、納期を守って受注アップ

  大分県南に位置する佐伯南郡地域は、戦後の拡大造林が早期に始まった地域だ。森林所有者による里山での造林に続いて、公社、公団造林が奥地に向けて展開した。その結果、民有林の人工林率は55・3%に達している。素性のいい飫肥スギが潤沢に賦存し、徐々に主伐期に入っている。

遠藤教授
  製材工場の開設はいつか。

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工場を案内する山田参事(左)

山田参事
  当組合は平成2年3月に佐伯南郡の6森林組合が合併して誕生したが、工場の稼働開始はその後の平成5年6月だ。当初2万㎥/年のスギ丸太消費量だったが、現在は3万㎥に増加している。顧客からの注文増に対応したものだ。

遠藤
  丸太の手当ては。

山田
  当組合の共販所から購入する分と、組合員からの買取生産事業で賄っている。

遠藤
  福岡や北九州の製品市売市場やプレカット工場に行くと、佐伯広域森組の名前をよく耳にするようになった。製材品の商品性の高さ、納期の遵守など評価が確実に高まっている。

山田
  現在、工場には人工乾燥機4基がある。来春には中温式の乾燥機を導入し、さらにKD化率を高めたい。

遠藤
  プレカット工場では、とくにKD柱角の評価が高い。寸法・精度はもとより材の目詰まり、香り、色艶などについても評判がいい。

山田
  当工場の目玉はKD柱角、KD平角、グリーン小割だ。小割はグリーンだが平角の側(背板)採りだから、通直性があり他社の小割よりも高い値段をいただいている。KD柱角の評価が高いのは、粗挽きした柱角を人工乾燥し、養生期間をおき、その後修正挽きをして、さらにモルダーをかけているからだ。

遠藤
  なるほど。普通の工場はモルダーの2回がけで済ませている。これだけ手をかければ、狂いの少ないKD柱角ができるわけだ。一方、製材品の納期遵守についても好評だ。

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評価が高まるスギKD柱角

山田
  製材品の販売先は、福岡4割、関東と関西4割、県内1割、その他九州1割だ。ほとんどが受注生産。関東、関西方面は、プレカット工場への邸別配送が中心。受注後遅くても3日以内には納品できる体制をとっている。そのため、平角も100種類ほど在庫している。

森林組合自らが森林経営、間伐収入4倍増目指す

  製材工場の隣には佐伯広域森林組合の丸太共販所がある。年間の取扱量は7万8000㎥に達する。実は、この共販所を近くに移転させ、跡地に新工場を開設する計画をもっているという。

遠藤
  新工場の構想を聞かせて欲しい。

山田
  佐伯南郡ではスギ人工林が充実している。5年後には公団(現・緑資源機構)造林地が主伐に入る。こうした資源状況を見据え、新工場をつくりたい。組合では製材のための工場ではなく、山のための新工場開設と位置づけ準備を進めている。

遠藤
  「山のため」とはどういうことか。

山田
  森林組合が製材加工施設を設置するのは、組合員の所有森林の資産価値を高め、同時に地域の森林整備を推進するためだ。規模拡大で製材コストを縮減したり、山元直送で流通コストを減らしながら、その分を山側に還元できるシステムをつくることが森林組合の使命だ。森林組合の存在価値は、森林を守り、森林所有者の経済的安定を図ることだと思っている。

遠藤
  お説のとおりだが、なかなかうまくいかないのが実状だ。何か妙案でもあるのか。

山田
  例えば、森林組合が直接組合員の所有森林の経営をすることも視野に入れている。

遠藤
  森林組合法第26条に「組合員の3分の2以上の同意が得られれば、組合自らが森林経営ができる」という趣旨の条文がある。このことか。

山田
  そうだ。この構想が実現できれば、一種の社有林のように計画的な森林経営が可能になる。これと新製材工場を有機的に結びつけることによって、山元還元は可能だ。新工場が順調に稼働し始めた暁には、森林所有者の立木伐採収入が、間伐の場合で1ha当たり4倍に増えると試算している。

遠藤
  全国の森林組合を回っているが、この種の話を聞いたのは初めてだ。「新生産システム」でも、山元還元はなかなか進んでいない。もし実現したら、画期的な出来事になる。森林組合が森林経営することによって安定供給体制が構築できる。

山田
 こうした考えの背景には、皆伐跡地の再造林がなかなか進まないという窮状がある。

遠藤
  同じ大分県でも日田地域のような戦前来の林業地では、伐ったら植えるという暗黙の了解が地域に定着している。だが、佐伯南郡地域では、今回の主伐が初体験だけに再造林の重要性が認識されていない。しかし、戦後の拡大造林をリードした地域だけに、皆伐跡地の再造林は焦眉の課題だ。

山田
  そのとおりだ。当地域には隣の宮崎県延岡に注ぐ北川水系のダムがある。そこで大分県企業局に、皆伐跡地の再造林費に必要な補助金の一部を負担して欲しいとお願いしている。こうした努力を重ねながらなんとか再造林放棄を食い止めていきたい。

県の新制度と連携し再造林放棄対策に全力

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伐採作業地に立てられた許可証の赤旗

  大分県では、皆伐跡地の再造林放棄の防止策として、ユニークな取り組みを始めた。今年6月から、保安林については「保安林(保安施設地区)内立木伐採許可旗の設置取扱要領」によって赤旗を、普通林については「伐採届出旗の設置取扱要領」により青旗を設置するよう指導している。保安林の場合は県の許認可が必要なだけに皆伐跡地には赤旗が掲示されているが、普通林では放棄地の有無など地域の実情により市町村の対応に温度差もみられる。したがって、森林組合と連携しながら再造林放棄防止を進めていくことが期待されている。

遠藤
  新工場の話に戻ろう。スギ丸太の消費量はどの程度になるのか。

山田
  まだ具体的な数字は言えないが、当面は、現状の倍程度の規模を考えている。

遠藤
  出材されるスギ丸太が年々大きくなっている。

山田
  末口径40㎝前後の丸太が増えている。それに対応したムクの平角製材も考えている。2番玉の利用で、強度が担保でき内部割れの少ないKD平角なども考えている。量産と同時に、製材加工全般のバージョンアップを目指したい。

◇        ◇

  佐伯広域森林組合には、和田輝久という専務がいた。全国の森組系統事業でも名を馳せた優秀なリーダーであったが、惜しくも平成17年に他界した。この和田専務のもとで徹底的に鍛えられ、組合経営のノウハウを継承したのが山田参事だ。聞けば遠藤教授が訪れた日が、和田前専務の命日だという。不思議な縁である。新工場は和田前専務の魂が込められた立派なものになるだろう(合掌)。

『林政ニュース』第329号(2007(平成19)年11月21日発行)より)

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