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【輸出拡大】日本のコメ事情について

日本でコメ消費が減る中、日本食ブームに乗った日本のコメは、現在どんどん世界へ羽ばたいています。

今回は、この国日本の食を支えているコメについてまとめてみました。
(サムネイルは日本のコメについて歌ったバンドに敬意を表して作ったAI生成画像です)

先にまとめです。

【まとめ】
現在、国内ではコメの消費量、生産量が共に減少しています。
そんな中で政府は加工用、飼料用など主食用以外のコメの生産も積極的に奨励し、2018年には40年以上続いた減反政策を廃止にしました。
減反政策を廃止すると、海外で日本食ブームが広がる中でコメ輸出を積極的に行うようになります。
制度の課題はありますが、輸出量自体は年々増加しています。
ただ、コメ輸出が経済に与えるインパクトはそこまで大きくないので、そもそもどこまで輸出を振興するのかは検討する余地があると考えています。


最近のコメ事情

まずは現在のコメの状況について見ていきましょう。

現在のコメの流通

コメの流通について、一般的なものはJAなどの集出荷団体を経由するものですが、そういった方法は年々減少しており、現在は全出荷量の40%を切っています。

その代わりに台頭しているのが農家による直販です。
コメの生産量や消費量自体は減っているのにも関わらず直販を行う農家数は増えています。

【コメの全体出荷量と直販出荷量(万トン)】
■ 2004年 全体:636 直販:40
■ 2019年 全体:573 直販:77

農林水産省より

また、コメ農家数も全体としては減少していますが、大規模農家の数は増えています。

また、日本では主食用米以外にも備蓄米、加工用米、新規需要米(飼料用・WCS・その他)も作付けされており、こちらによると全体のコメ生産量の約8%に相当します。

主食用以外のコメ

  • 備蓄米
    H29年度では主食用米以外のうち15%を占めます。
    1995年に発足した制度により、約100万トンが適正水準として用意されています。5年持ち越した時点で飼料用米として売却されます。

  • 加工用米
    H29年度では主食用米以外のうち22%を占めます。
    お酒、パックごはん、味噌、米菓などに使用されるコメです。

  • 飼料用米
    H29年度では主食用米以外のうち40%を占めます。
    家畜の飼料に使われるコメです。大規模農家を中心に作付け量が増えています。

  • WCS(ホールクロップサイレージ)
    H29年度では主食用米以外のうち19%を占めます。
    稲を株元から刈り取り、それをロール状にまとめて発酵させたものを指し、牛の飼料として使われます。
    輸入飼料価格が高騰する中、国産飼料として注目がされています。
    拡がっていますが収穫やラッピングに特殊な機械が必要なことが課題なようです。

廃止になったコメの先物取引

世界で最初に先物取引所を開設したのは18世紀の堂島米市場(大阪)だと言われています。
年貢としてコメが使われていた時代にコメ価格を安定させるために先物取引が行われたと言われています。

しかし、戦中にはコメの管理を政府が行うようになり、1939年に堂島米市場は閉鎖、1942年には食糧管理法が制定されます。

1995年に食糧管理法は廃止となり、2011年より期限付での先物取引が一部で行われていましたが2021年にはコメ先物取引は正式に廃止となりました。

廃止にあたっては、下記のような各者の考えがあったとされています。

【コメ先物取引の廃止意見】
■ 農水省「参加者が少ない(JAが参加していない)」
■ JA「コメ価格をコントロールできなくなる」

JAにとっては先物取引が拡がることでコメ生産量が仮に増えると、コメ価格は下がり収入源である販売手数料が減ってしまうという懸念があります。
そのためJAグループは先物取引に参加せず、結果として先物取引が広がらないことが今回の廃止を決定的なものにさせました。

デジタル化を志向するも悪戦苦闘

「農業×テクノロジー」が注目されていますが
コメの生産・流通・加工に関わる作業をデジタル化することで流通コスト低減や高付加価値化を狙った取り組みとして「スマートオコメチェーン」というものがあるそうです。

その中では、これまで目視で行われていたコメの検査業務のデジタル化を行う取り組みもあるようで、この取り組みではコメの全体流通量の約2割を占める「未検査米」に付加価値をつけることを目的としています。
しかし、コメ検査に必要なデータが記された書類や情報を用意できる農家が少なく、うまくいっていないという話もあります。

アグリテックについては、以前にこちらにもまとめています。

日本のコメ近現代史における重要トピック

【コメ近現代史】
1730 コメの先物取引開始
1918 米騒動(富山県)
1921 米穀法(コメ取引の間接統制化)
1942 食糧管理法
1969 自主流通制度の発足
1971 減反政策
1987 特別栽培米制度の導入
1993 ミニマムアクセス米の受け入れ開始、平成の米騒動
1995 食糧管理法の廃止(食糧法へ移行)
2011 コメ先物取引の期限つき再開
2018 減反政策廃止
2021 コメ先物取引の廃止

現在のコメの状況が少しわかったところで、これまでのコメに関する重要トピックを挙げて、日本のコメの近現代史を見ていきます。

米騒動

おそらく歴史の授業でも人気のワードである「米騒動」。
第一次大戦後の好況の中で、工業への労働力移動や生活の向上によるコメ消費の増大、さらにコメの買い占めなども重なり、大阪の米市場の記録では、1918年7月には同年1月の倍の値段をつけるほどにコメ価格は上昇しました。
その結果起きた暴動は米騒動と呼ばれ、約50日間、全国あちこちで暴動が起こりました。

米騒動がきっかけで誕生したとも言われる卸売市場の歴史についてはこちらに書いています。

減反政策

過剰なコメ生産をストップさせ、他品目への転作を促す減反政策は1971年から2018年まで行われていました。

【減反政策のメリット・デメリット】
■ メリット
・米価が安定する
・農家は転作による補助金を受けることができる
■ デメリット
・産業としての競争力が削がれ、品種開発や輸出などが行われない
・小さな農家が残り、農地の大規模化が進まない
・単価の高いコメの生産に集中するため、業務用米の不足が起こる

2018年、農業の成長産業化の流れの中で減反政策が廃止されましたが、日本はすでに人口減少を迎え、コメ離れという問題も抱えています。
そんな中でコメの生産量が増えてもコメ余りを避けることはできず、各産地はどのように競争力を高めるかが課題となっています。

そのような状況ですと、「輸出」という案が必然的に出てきますが、次章でコメ輸出について見ていきます。

世界へ羽ばたく日本のコメ

増加する輸出量

減反廃止後、コメの輸出に舵を切っていく方向性が示されていますが、コメ消費の減少以外にもコメの輸出を志向する背景はさまざまです。

【コメ輸出の背景】
■ 国内のコメ離れ(実は若者よりも中年の方がコメ離れが進んでいる)
■ 兼業農家が減り、大規模化が進んでいる
■ 国内で唯一自給できる穀物として安定生産が必要(小麦の高騰も影響)
■ 世界的な市場拡大(日本食の海外人気も後押し)
ブランド米が急増(各産地が競争している)
円安による輸出産業への期待

元々、日本の農作物は品質が高い(価格も高い)という評価を海外から得ていましたが、コメについては食文化の違いから、日本のような水分を含んだコメは海外の料理には合わないという価値観がありました。
しかし、近年では健康食として和食がブームとなり、それに合わせて日本産のコメについても見方が変わって来ています。
また、2021年のアメリカによる福島県産コメ輸入規制の撤廃や、カリフォルニア州のコメ不作など日本のコメ輸出については海外でも追い風となる出来事が起きています。

そういった内外の事情もあり日本のコメ輸出は下記のように増加しています。

【コメ輸出が増加】(商業用のコメの輸出数量及び輸出金額の比較)
■ 2017年 数量(t):11,841 金額(百万円):3,198
■ 2021年 数量(t):22,833 金額(百万円):5,933
主な輸出先:香港、シンガポール、アメリカ、台湾

農林水産省より

課題は外国産との価格差と認定制度

外国産のコメは日本の半値以下で売っているケースもあるようで、まずはこの価格差が目に見えるコメ輸出の課題として挙げられます。

しかし、その課題の背景にあるのは、輸出用のコメの生産を安易に増やせない制度の問題もあります。

政府は輸出を志向するコメを「新規需要開拓米」と認定することで産地に対して助成金を支払っています。

しかし、認定のタイミングと輸出のタイミングが合わず、輸出用のコメが余ってしまうという事態が発生しています。

【輸出用のコメが余ってしまう】
輸出の前年に認定に向けて届出を提出
 ↓
計画量に需要が達さず、コメが余る(規則上、国内販売もできない)
※逆に足らない場合は高コストのコメを輸出する必要あり

2021年のコメ輸出量の実績:22,833 t
同年の新規需要開拓米の生産量:36,869 t
 ↑ 14,036 t の余りが発生

コメの輸出量を決めるのは実際に輸出が行われる前年です。
そのため、産地や輸出業者は当年の輸出量を鑑みて翌年の輸出量を計画します。
しかし、翌年の需要を正確に予測することは難しく、上記のように大量の余剰を出してしまっているのが現状です。

では逆に少なめに見積もったらどうなるのかというと、輸出に足らない分は一般的なコメを使うことになりますが、これについては、現状では輸出に際して助成金がつくことはありません。
そのため、一般的なコメを輸出する場合は、輸出用米とは原価がまるで違うのです。(1俵あたり6,500円の差が出ることもあるようです)

先ほど、先物取引の廃止について書きましたが、コメの需要を予測する必要があるのであれば、先物取引のように将来のリスクを軽減できる仕組みが必要です。

そもそもコメ輸出をどこまで拡大する必要があるのか

世界のコメ輸出量の上位国はインド、タイ、ベトナムでこの3カ国だけで世界のコメ輸出量の7割を占めます。

ではこれらの国にとってコメ輸出がどれほど経済的に重要かというと、全輸出金額に占める割合は0.5~数%と、数字上ではそれほど重要でないというように見えます。

農業の労働人口というのは経済発展に伴い工業やその他産業へ移動することが一般的です。(「ペティ=クラークの法則」と言います)
なぜなら、農業は経済的な観点から言うとコスパが悪いからです。

コメ輸出を増やそうという話をしている中で水をさすような話ですが、これらの国のコメ輸出が多い背景には、労働人口の他産業への移転(産業の高度化)がまだ十分にできていないと考えることもできます。

欧米での日本食ブームに乗った高付加価値のコメを輸出するという意味では、上記の国とは違うかもしれませんが、いずれにしても農業が輸出の肝になるというのは発展途上国の考え方です。

主食の自給という意味ではコメ生産はとても大切です。
ですが、以前の記事に書きましたが、他産業の発展なくして農業の発展はないと考えているので、農業が好きな身ながら、農業に傾倒しすぎるのは良くないと考えています。

最後に

今回は日本のコメ事情について書きました。

現在、国内ではコメの消費量、生産量が共に減少しています。
そんな中で政府は加工用、飼料用など主食用以外のコメの生産も積極的に奨励し、2018年には40年以上続いた減反政策を廃止にしました。
減反政策を廃止すると、海外で日本食ブームが広がる中でコメ輸出を積極的に行うようになります。
制度の課題はありますが、輸出量自体は年々増加しています。
ただ、コメ輸出が経済に与えるインパクトはそこまで大きくないので、そもそもどこまで輸出を振興するのかは検討する余地があると考えています。

とはいえ、あるバンドマンが言うように日本の米は世界一だと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。


Twitterでも農業やネパールについての情報を発信しているので良ければ見てみてください。

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