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【野菜の相場は変わりやすい】相場を安定させるためにしている3つのこと

2022年上旬、例年の2~4倍という玉ねぎの記録的な値上がりがニュースで伝えられました。
天候のリスクを抱える農業は世の中がグローバル化するより昔から相場の大きな変動を経験してきました。
今回は青果の相場変動の原因やその対策などについてまとめました。

先にまとめを載せます。

まとめ
相場が上がる理由は「天候の変化・原油価格の高騰」が主ですが、コロナウイルスや円安という新しい要素も最近は盛り込まれています。
そもそも青果の相場は変動しやすいので国としては複数の対応策を持っていますが、それでも対応できないこともあるのが現状です。

玉ねぎの相場が上がった3つの理由

今年は記録的な円安により様々な輸入品の値段が上がっていると聞きますが、青果で言えば、今年の値上がりといえば間違いなく「玉ねぎ」でしょう。

玉ねぎの相場が上がった理由は主に3つあると言われています。

  1. 国産玉ねぎの生育不良

  2. 新型コロナウイルスによる中国でのロックダウン

  3. 円安

国産玉ねぎの生育不良

日本の玉ねぎの自給率は8割ほどですが、天候の不良により国産玉ねぎの出荷量が落ちてしまいました。

国内第1位で国産玉ねぎの7割の出荷量を誇る北海道ですが、夏場の干ばつの影響で玉ねぎが変形し不作となってしまい、中国等から玉ねぎを例年以上に輸入する必要が出てきました。

※一方で国産玉ねぎ出荷量第2位の佐賀県では例年の4~5倍の出荷価格になっているようで佐賀の玉ねぎ農家さんはいくらか良い思いをしているようですが、円安で資材費や燃料費も高騰していることは忘れてはいけません。(個人的には、これらが完全に外部要因でコントロールできないことに農業生産の難しさがあるなぁと思います)

新型コロナウイルスによる中国でのロックダウン

需要が増えた外国産玉ねぎですが、輸入のほとんどは中国産が占めています。
その中国(上海)でロックダウンが起こったことにより経済活動が止まり、日本でも中国産の玉ねぎの輸入が減ってしまいました。
中国産の玉ねぎを扱う飲食店なども国産や少ない他の外国産の玉ねぎを買うことになってしまいます。

円安

さらに追い討ちをかけるように記録的な円安も起きています。
そもそも輸入ができなかった状況なので上の2つの理由と比べると影響は限定的ですが、中国以外の輸入先から輸入する際にも例年よりもは高くついてしまいます。

以上のような事柄の結果として、例年5月になると玉ねぎの価格は低位で推移するのですが、今年は2~4倍の相場になっていると言われています。
また、冬場の少雨の影響で国産玉ねぎの生育が遅れているため、すぐに安くなるということもないようです。

青果の相場は変わりやすい

青果の相場は基本的に中央卸売市場で決まります。
国産の青果の7~8割が市場流通なので市場外流通のものであっても卸売市場の価格を参考にすることが多いのが実情です。
(ちなみに市場では、供給量が少なく相場が高い時を「もがき」、反対に供給量が多く相場が低い時を「なやみ」と言います)

そして天候の影響を受けやすい青果や魚の相場は特に変わりやすいと言われています。

出荷制限で捨てることになったレタス

青果の相場を上げる要因

青果の相場を上げる要因は基本的には「異常気象」と「原油価格の高騰」です。

異常気象
異常気象で一番の影響を受ける産業はやはり農業ではないでしょうか。
野菜も果樹も収穫するまでは一定の期間を要しますが、そのどのタイミングでも異常気象が起きてしまうとダメなのです。
また、いわゆる「災害」と呼ばれるような異常気象が植物に影響を与えるのはもちろんですが、人間にとってはさほど影響がない低温・日射不足・長雨なども植物の成長には大きく影響します。

植物はカレンダーを見て「よし!4月だから花を咲かせよう」というような行動をしているわけではありません。
気温・日射量・水分量などの変化を感じ取って「今は花を咲かせたらこれからこんな感じの陽気が続くからちょうどいいな」という感じで花を咲かせたりするのです。
その計画を狂わせてしまう天候の変化は植物にとってとても大きな影響を与えます。

原油価格の高騰
原油価格が上がると、ガソリン代が上がるため送料やハウスでの暖房代などが高くなります。
また、輸入農産物の価格が上がるためそれにつられて国産の農産物の価格が上がることもあります。

そして、近年ではコロナウイルスも青果の価格をあげる大きな要因になっています。
様々な事象が複雑に絡み合った現在では、以前にも増して色々な事柄が価格に影響を与えるのです。

価格変動が多い野菜・少ない野菜

青果の種類によっても価格変動の起こりやすさは変わります。

価格変動が多い野菜は、葉物や果菜類です。
これらの収穫物は外にさらされるため外気の変化の影響を受けやすく、傷などができやすいです。
特にレタスなどの葉物は植物の成長過程で収穫されるため、タイミングを逃すと収穫適期を一瞬で逃してしまいがちです。
葉物野菜は蕾が出来たり花が咲いてしまうことを「とう立ち」と言って、こうなってしまうと正規品としては出せません。(蕾は蕾で美味しいものもあるので一部、商品化しているものもあります)

逆に価格変動が少ない野菜は、根菜類です。
玉ねぎの例のように、根菜も価格変動がないわけではないですが葉物と比べると変化は少ないと言えます。
地中で育つので外気の変化の影響を受けにくいことがその理由です。

野菜の相場をコントロールするために行なっている3つの方法

価格変動が激しい青果ですが、何も対策をしていないわけではありません。
かつては価格の異常な高騰が社会問題になりましたし、中央卸売市場ができたのも食品の価格の安定化が主な目的です。
卸売市場の成立過程についてはこちらに書いています。

野菜の相場の推移

昨年度の野菜の相場の変動を見てみましょう。

農畜産業振興機構より
上のデータをグラフ化したもの

若干見にくいかもしれませんが、昨年度の1年間の主な野菜の小売価格の推移です。
9月ごろに最も高い相場になる野菜が多いことがわかります。
年間の価格差の大きさを示す変動係数はやはり葉物が高い傾向にあるようです。(今回のデータではレタスの変動係数が一番高く、最高値と最低値では2.6倍もの差がありました
玉ねぎの価格が上がり続けているのは上で書いた値上がりの影響だと思われます。

未だに年間で2.6倍もの価格差が出る農作物ですが、以前はもっと価格差、乱高下が激しかったと言われています。
例えば昭和36年度の小売価格の変動係数と昨年度のもの比較すると以下のようになります。(変動係数が小さい方が価格差が小さいと言われています)

品目名  S36年度   R3年度
キャベツ 0.54  →  0.16
大根   0.32  →  0.15
白菜   0.52  →  0.33
レタス  0.49  →  0.35
人参   0.55  →  0.10

農業産業振興機構より

これを見ると野菜の価格が昔と比べて安定しているのが分かります。
実は昭和36年度のような時期は天候により収穫量が変わることで価格に影響が出ること以外にも、その価格を見て生産者が翌年の各品目の作付け量を変えることで供給可能な量自体も年によって変化してしまい、その結果として激しい価格変動が起きていました。

当時の野菜の激しい価格の乱高下(特に高騰)は、大きな社会問題となり、昭和41年には野菜生産出荷安定法が制定され野菜価格安定事業が始まりました。

指定野菜価格安定対策事業

この事業では野菜の価格が下がってしまってもその野菜の翌年の生産量を維持するために、事前に決めた特定の品目(指定野菜14品目と特定野菜35品目)の販売価格が保証基準価格(過去の平均価格の90%)を下回った場合、保証規準価格と販売金額の差額の90%または100%を、国・都道府県・生産者の3者で拠出してできた資金の中から補填するということを行いました。

その結果として野菜の供給量のコントロールがしやすくなり、価格の急激な乱高下も防げるようになりました。
また、今年の玉ねぎのように生鮮野菜の国産の供給量は、他国からの輸入量にも影響を与えることから国産野菜の供給量が安定することは高い自給率の維持にもつながります。(一方で冷凍野菜など加工品に使われる野菜はこの制度の対象とならないケースが多く加工品の輸入量は増えています)

指定産地と産地リレー

先ほど挙げた指定野菜14品目にはそれぞれ「指定産地」(約900地域)というものも存在し、それぞれの産地は供給計画を作成し出荷量の1/2以上を指定された消費地域に出荷する義務があったり、逆に一定以上に価格が下落すると補助金が支給されるという仕組みもあります。
指定野菜は国産野菜の出荷量の8割を占め、そのうち指定産地の出荷量は全国の指定野菜の出荷量の7割を占めてます。

また、地域によって気候の差がある日本で消費量の多い野菜を消費地に途切れなく供給するためには産地ごとの連携がとても重要になります。
例えばトマトであれば冬場に熊本県などの九州地方から始まって、愛知県などの東海地方、栃木県などの関東地方と北上していき、真夏には北海道のトマトがピークを迎えます。
このように産地が徐々に北上することで1年中安定して野菜を供給できるようにする方法を産地リレーと呼び、多くの野菜でこの方式が採られることで値段の上下はあれ、1年中消費量の多い野菜が安定して手に入るようになっているのです。(ただ、旬を意識した食事をする場合はできるだけその地域のものを食べた方が良さそうです)

農林水産省のデータを参照

緊急需給調整事業

上記の2つの対策に加えて異常気象など急激な天候の変化などに対応する策として、一部の品目については生産者と国が拠出した資金をもとに価格高騰時には早どりによる出荷の前倒し、価格低落時(平年の価格の80%以下)には出荷の後送り、加工用販売、市場隔離(フードバンクなど福祉施設への提供、冷蔵施設への一時保管、土壌還元など)を行い生産者の栽培への意欲の低下防止に努めています。
ちなみに玉ねぎについては、令和2年度は豊作により緊急需給調整が行われていました。
また、「緊急」とは言いますが昭和55年に社団法人全国野菜需給調整機構が設立されてから令和3年までの39年間のうち32年間で実施されていることを考えると青果の価格安定の難しさが窺い知れます。

まとめ

今回は玉ねぎの異常な価格高騰に関連している青果の相場についてまとめてみました。
上記のような取り組みのおかげで、私たちは1年を通して安定的な食生活を送ることができていますが、それでも今回の玉ねぎのように事態は依然として避けることができないのが現状のようです。

国際情勢が不安定な昨今、食糧などの価格の安定は世界的な問題となっています。
世界全体でどのように食の安定確保をしていくのか、しっかり考えるべき時がまさに来ています。
今回の記事がそういったことを考える上での何か参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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