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【地方移住】外国でも新規就農は起きているのか

日本では新規就農や地方移住という言葉をよく耳にしますが、このテーマについて海外の事情を知る機会は少ないと思います。
ですので今回は、一部の外国での新規就農事情について書きました。

先にまとめです。

【まとめ】
日本の新規就農者数は微減ですが、移住者自体は増えており、今後も離農や人口一極集中が続く一方で移住や農地の大規模化が続いていくことが予想されており、新規就農にまつわる制度も多く、農業を始めやすい状況自体は作られています。
アメリカは2008年より新規就農者支援に力を入れ始め、高額になりがちな初期投資に関わる支援を行いつつ、マーケティング戦略を重視した地域密着型の農業を行う就農者も増えています。
EUは2014年より新規就農支援に力を入れており、EU全体の農業政策で足並みを揃え、詳細については国ごとに異なる政策を行っています。一番新規就農者への支援が充実しているのはフランスと言われています。
韓国は2009年より新規就農支援に力を入れています。前者の国々よりも農業の環境が近い韓国ですが、後継者育成ではなく移住による新規就農者育成に力を注いでいる点が日本との大きな違いです。
農家の減少・高齢化は(記事にない国も含めて)万国共通の課題ですが、その国の農業スタイルや文化に合わせた対応策を取ることが大切なようです。

日本の新規就農の状況

まずは日本の新規就農の状況についてさらっと見てみます。

新規就農者数は微減

農林水産省のデータによると、新規就農者数はどちらかというと減少傾向です。

【新規就農者数の推移】
2014年 57,650人 うち49歳以下:21,860人
2022年 52,290人 うち49歳以下:18,420人

農林水産省

また、農業以外も含めた地方移住についてもコロナ禍の2021年は東京から出ていく人口の方が入ってくる人口よりも多い「転出超過」の状態が続いていましたが、2022年は東京への「転入超過」が再び起き、東京一極集中の流れに戻ってしまいました。
とはいえ、2021年を除けば転出自体も緩やかに伸びており、今後も安定した増加が見込まれています。

ちなみに移住先の場所としては長野県、静岡県、山梨県、沖縄県、千葉県あたりが人気なようです。

新規就農に関わる補助金・支援金制度

新規就農や移住についての金銭面での支援制度はいくつかあり、代表的なものは下記になります。

< 就農前 >

  • 農業次世代人材投資資金:準備型
    もともとは「青年就農給付金」という名前で、収納に関して最も有名な助成金制度です。その中でも就農前に受けられるものとしては「準備型」があります。
    返済義務がなく、年間150万円で最長2年間の支援を受けることができます。

  • 移住支援金
    東京23区に在住または通勤する人が東京圏外の対象地域へ移住し現地で就職・起業をする際に支給される交付金です。
    金額は最大100万円で自治体のマッチングサイトを活用して対象地域を探すことができます。

  • 地域おこし協力隊
    厳密には支援金制度とは異なりますが、派遣先地域で農業をすることも活動に含まれていますし、対象期間後に正式に移住をする方にとっては支援金制度と捉えることもできます。

< 就農時・就農後 >

  • 農業次世代人材投資資金:経営開始型
    先ほどの「準備型」の次フェーズとして、農業を開始してから経営が安定するまでの間を支援するための助成金です。
    こちらも返済義務はなく、最大1000万円の支援を受けることができます。

  • 農業次世代人材投資資金:発展支援型
    上記2つの農業次世代人材投資資金との違いは、返済義務があることです。しかし本人負担はわずか4分の1で無利子。最大1000万円の融資を受けることができます。

  • 青年等就農資金
    日本政策金融公庫による無利子で最大17年間、3,700万円(特認1億円)が借りられる制度です。

  • 経営体育成強化資金
    日本政策金融公庫が扱っている制度で、こちらは農地や農産物の販売に関わる施設・機械の取得に関わる資金を借り入れることができます。
    新規就農者に対しては融資率が100%になる特例措置があります。

  • 農業近代化支援金
    個人の新規就農者が最大1,800万円を借りることができる制度です。現在の農業者に対しての利子は最大0.85%のようです。

安易に就農すると時間を無駄にすることになる

農業次世代人材投資資金についてよくある話ですが、支援金制度を活用することには意外なデメリットもあります。

それは、もし農業をやめたくても一定期間は続けなければいけないということです。
厳密にいうと、農業をやめることはもちろん自由意志ですが、一定期間以内に農業をやめることは交付金の返還対象になります。

具体的には交付期間終了後から交付期間と同じ期間は農業を続ける必要があります。(例えば5年間交付を受けたら、その後5年間は農業をする必要があります)
その5年間で農業経営を安定化させることができれば良いですが、それができない人にとっては時間の無駄と言っても過言ではありません。

ここまで日本の新規就農について見てきましたが、ここからは海外のケースについて見てみます。
あまり多くの国について見ることはできませんでしたがアメリカ、EU、韓国のケースを見てみます。
(そもそも全く農業にゆかりのない人が新しく農業を始めるということは先進国の限られた国で見られる現象だと思います)

アメリカ

アメリカでも農家戸数の減少や農家の高齢化が進んでおり、新規就農者の参入についての支援が存在します。

初期投資が大変

アメリカの農業のといえばとにかく大規模というイメージが強いかもしれませんが、それは半分正しく、半分間違いのようです。
こちらによると、専業農家のような立ち位置の農家は全体の1割で、3割が兼業農家、残り6割は自給的農家です。
とはいえ、農地面積は兼業であっても日本より大きいですし、専業農家については一般家計所得の2倍以上を得ており、日本でいう北海道の農家さんのように圧倒的な規模を誇っていることが想像できます。

そんなアメリカでも農地の大規模化はさらに進んでおり、それに伴う農地価格上昇も相まって、新規就農者の初期投資額が増加しているということが農業を始める上での課題となっています。

また、その初期投資額はローンを組むことで賄うのがアメリカですが、若年層ほど担保となるような資産を持っている割合は下がるため、アメリカで中心的な民間金融機関による農業融資を受けることは簡単ではありません。

資金面やマーケティングを活用した対応

そのような状況の中で新規就農者が資金調達手段として活用しやすいのが既存のクレジットスコアに頼らないUSDA(アメリカ農務省)が提供するプログラムや、マイクロローンといった少額融資などです。
※新規就農についての補助金は少ないようです

また、資金調達以外にも大規模農園の事業承継をスムーズに行えるようにする取り組みがあるなど、2008年農業法より新規就農者支援が活発になっているようです。
その結果、34歳以下の若手農家の割合は全体の5.5%となっており、2007年より増加しています。

近年では消費者の健康意識の高まりなどから、マーケティングにより規模の課題を解決しようとする動きもあり、消費者への直売(ファーマーズマーケット)やCSA(とても平たく言うとコミュニティベースの農業)を行いやすい消費地の近くで農業を始める人が増えているようです。

コーンベルトと呼ばれている一大産地のあるエリアでの貧困率が上昇し、農業労働者の都会への移動が増えていることは、規模一辺倒の農業だけでは現代の多様な消費者のニーズに応えられないことを表していると言えます。

EU

日本やアメリカ同様、EU圏内の各国も農家戸数の減少や農家の高齢化の問題を抱えています。

アメリカが2008年より新規就農者支援に本腰を入れたことに対し、EUが新規就農者(若者)支援に積極的に取り組み始めたのは2014年からと言われています。
EUではCAP(共通農業政策)というEU全体での農業に関しての大まかな政策があり、その中で各国が状況に合わせて詳細を決めるという方法をとっています。

新規就農者支援が「第一の柱」へ昇格

CAPは元々、農家への直接支払いがメインの「第一の柱」と、農村開発に対する施策がメインの「第二の柱」で構成され、新規就農者支援については、これまで「第二の柱」の中で行われていましたが、2014年から始まったCAP第3期の中では、初めて新規就農者支援が「第一の柱」に組み込まれ、新規就農者ないし青年農業者への支援が重要であるという認識がなされました。
※2010年、EUにおける34歳以下の農業経営者は7.5%でこの数字が新規就農者支援の立ち位置を変えたようです。

具体的な施策の中身は国によって異なりますが、
「第一の柱」ではCAP予算の7割が割かれ、多くの国では、そのうち2%に新規就農対策となる青年就農スキーム(YFS)の実施が組み込まれました。
YFSのもと、新規就農者は最大5年間、従来の直接支払いに加え、受給額の25%相当の上乗せ分を受け取ることができます。

  • フランス
    EU圏内で最も幅広い新規就農対策を実施。
    後継ではない農業経営者、有機農家などに対してはさらなる手厚い支払いがある。支援利用者の9割が10年以上農業を継続している。

  • オランダ
    法人農家が多いことから、法人対象の支援が充実。
    各機関との連携による輸出強化など農業を外貨獲得手段として強化していく姿勢が見られる。

  • イギリス
    かつてスコットランドのみ対象としていた若年層の就農支援をイギリス全体に拡大。
    EU内で2番目に平均経営面積が大きいイギリスでは事業継承を行いやすくする取り組みにも力を入れている。(ドイツも方向性は同じ)

韓国

上記の2つの事例と比べると日本と農業における環境が近い韓国ですが、2014年の調査では農業経営者の40%以上が70代以上であり、後継者がいるのは約10%となっています。
(日本は2015年調査時、後継者がいる農業経営者は約30%)

意外と異なる日本と韓国の農業事情

日本と同じように小規模零細農家がまだまだ中心で稲作が盛んな韓国ですが、いくつかの点において日本の農業とは異なる点があります。

  • 施設園芸が盛ん
    農地面積自体は日本の半分以下ですが、施設園芸の設置面積については日本より多いのが韓国の農業の特徴です。
    パプリカを始め、トマトやメロンなど嗜好性の高い野菜においてハウス栽培を盛んに行っています。

  • 兼業農家が少ない
    家族経営が中心という点は日本と同じですが、兼業農家が少なく、家族経営がそのまま大規模化しているケースが日本と比べると多いです。
    作業を外部委託することにより組織自体を大きくすることなく家族経営を続けています。(最近は法人も増えているようです)

  • 後継者育成よりも新規就農に力を入れている
    韓国では家の継承と財産の継承は分けて考えることが多く、その影響からか農業における事業継承が日本以上に進んでいないようです。
    代わりに都市部からの移住による新規就農者への支援を手厚くすることで担い手不足の解消に取り組んでいます。

韓国の新規就農事情

こちらによると韓国における地方移住による新規就農は年間約2万人起きており、日本と総人口を均して比較すると若干少ないくらいになります。

家族経営が中心であるものの家産を継承する慣習がそこまで強くない韓国では「農家を継ぐ」という発想自体も生まれにくく、日本と比べても農業後継者がいる家庭の比率は少ないです。

そんな中で韓国は都市部から地方への移住による新規就農者支援に力を入れており、元々政府による社会保障が乏しい(65歳以上の相対的貧困率はOECD加盟国でダントツトップ)韓国では、農業に所得税がかからないことや帰農者と呼ばれる移住新規就農者への支援(2009年より)の存在が移住増加を促進しておいます。また都市部へ住むことによるストレスが多いことも移住を後押ししていると言えます。(ソウルの人口は1992年をピークに減少を続けています)

韓国政府としても農業の高度化や貿易自由化に対応すべく、経営スキルの高い農家を育成する必要があり、都市部からビジネスやマーケティングのスキルを持った人が帰農することには賛成のようです。

最後に

今回は日本と世界(アメリカ・EU・韓国)の新規就農についてまとめてみました。

日本の新規就農者数は微減ですが、移住者自体は増えており、今後も離農や人口一極集中が続く一方で移住や農地の大規模化が続いていくことが予想されており、新規就農にまつわる制度も多く、農業を始めやすい状況自体は作られています。
アメリカは2008年より新規就農者支援に力を入れ始め、高額になりがちな初期投資に関わる支援を行いつつ、マーケティング戦略を重視した地域密着型の農業を行う就農者も増えています。
EUは2014年より新規就農支援に力を入れており、EU全体の農業政策で足並みを揃え、詳細については国ごとに異なる政策を行っています。一番新規就農者への支援が充実しているのはフランスと言われています。
韓国は2009年より新規就農支援に力を入れています。前者の国々よりも農業の環境が近い韓国ですが、後継者育成ではなく移住による新規就農者育成に力を注いでいる点が日本との大きな違いです。
農家の減少・高齢化は(記事にない国も含めて)万国共通の課題ですが、その国の農業スタイルや文化に合わせた対応策を取ることが大切なようです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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