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「ジュエリー×弁護士」のあり方について見直してみる(ファッションローヤー・海老澤先生のセミナーを受講して)

(ヘッダー画像はGVA社ウェブサイトより https://ai-con-pro.com/seminar/20221115-beyond-lawyers/

普段はこの手のサービス系会社のセミナーはその後の営業が嫌であまり申し込まないのですが,

今回は海老澤先生のセミナーがあるとお見かけし,「これは」と思い早速受講しました。

海老澤先生といえばファッションローヤーとしての第一人者で,此度の経産省のファッションローガイドラインWGの副座長もされている先生です。

以前からファッションローのすばらしい先生方の背中を追いかけながら(?)ジュエリーローの世界を歩みつつある自分としては,改めて,学ばせて頂きつつ,自身の取り組み方の見直しをしたいと思い受講しました。
(個人的には,ジュエリー業界はファッション業界と近いようでけっこう違うことも最近ようやくわかってきたのですが,それでもファッション業界の最新動向は数年遅れてジュエリー業界にも影響してくることも多いです)

<海老澤先生のご経歴>

海老澤先生は修習期では私より下の期にあたるのですが,慶應法学部法律学科の先輩でもあります。

海老澤先生のご経歴をざっくりまとめると以下のとおり

国家公務員(旧自治省)

出版社(ファッション雑誌)勤務

イギリス留学後,フリーランスのスタイリスト/エディター

弁護士

https://mktlaw.jp/lawyers/ebisawa-miyuki/より要約

何度聞いてもちょっと意味がわからないですよね(笑)

https://www.youtube.com/watch?v=BCdGSNoe0Yc


今回のセミナーの中でも海老澤先生は「新しいところにいく怖さはない」とおっしゃっていましたが,この経歴からもその通りなのだろうなと。
私などはせっかく積み上げてきたものは何らか役立てられる方法はないかと次の行動を考えそうなのですが,そのあたりの迷いなどは全くないようです。さすがです。

<海老澤先生がファッションエディターから「ファッションローヤー」へ向かうことになったきかっけ>

・契約書もなく,労働環境も過酷で,法律問題が多かった
・雑誌の誌面のために写真を撮った後,無断二次使用が多かった(対価が払われない)
「誰かファッションローを専門にする弁護士になればいいのに」と思い,自分が法律学科出身だったことを思い出しロースクールを目指す。
ロースクールでアメリカのファッションローヤーの記事を読んで,そこではじめてファッションローという分野がアメリカにはあるのを知ったとのこと。

それだけ最初からファッションの世界にいたのであれば,最初からファッションローの仕事がすぐやれていたのかな~と想像していたのですが,
そもそもそのような業務分野が日本ではまだないなかなか弁護士就職活動などでは苦労されたというお話も。

法律事務所に所属しながら自分で「やってみたい」と上司に相談して相談窓口(ファッションロー・トーキョー)を作られたというのも,今回初耳でした。
そうしてクリエイターの報酬未払い案件や模倣案件を個人受任しながら勤務弁護士時代を過ごしたりされたとのこと。

<ファッションローとは?>


ファッション産業に関する法律問題全て。企業法務で扱う法分野+αとして業界慣習や取引慣行が独特(流通経路や動きが速い)な部分がある。

●知財関係(模倣,ライセンス)
→IT技術の発達で模倣品が出回るサイクルが速くなってきていることと,ラグジュアリーコングロマリット企業との攻防からファッションローの分野が発達してきたアメリカの歴史がある。
→アパレルはライフサイクルが非常に速いので,意匠権をとっている間にトレンドが終わってしまうので,一部のハイブランドやレザー系意外は意匠権より不正競争防止法が多い
→ほとんどのブランドが何かしらに影響(パクリ?)を受けている側面があるので,模倣に厳しくしすぎると自分たちの首を絞める可能性がある。

●労働,雇用問題

●契約交渉,OEM,海外取引

顧客としては,アパレル企業のみならず,デザイナーやカメラマンやスタイリスト,編集者,モデル,小売店などもある。

(業界が一枚岩に団結することがこれまであまりなかったので)時代に合わない法制度を改善したいこうという声がなかなか上がりにくいという側面もあるとのこと(ここはジュエリー業界も似ているのかも)。

Q判例の蓄積などもまだ少ないのでは?という司会者の質問に対しては,「判例を読むときも『ファッション業界の事例で置き換えたらどうなるのかな』と考える」とおっしゃっていました。これは私もよく判例雑誌を読みながらやる思考なので聴きながら似ているなと思いました。

なお,アパレル業界の最新トピック(ex文化の盗用問題:これについては海老澤先生自身はクリエイティブを阻害するデメリットに憂慮されているようでした)も,これからジュエリー業界でもますます問題になってきそうなので,はやめにファッションローの動向を理解して自分なりの軸を持っておきたいと思いました。

<「とりあえず話を聞かせてください」という行動力>

今回改めて驚いたのが,「スタイリスト/ファッション誌のエディター経験者」というがっつり業界出身の肩書きを持つ海老澤先生でも,最初は自分からファッション企業の法務部や弁理士事務所に「こういう仕事がしたいのですが,話を聞かせて下さい」と連絡をして話を聞きに行く,という行動をされていたということです。

ただでさえ「弁護士に相談するのは敷居が高い」という日本の風潮があるので「こんなことでも相談していいんだ」と思っていただくことが重要だとお話されていたのがとても印象的でした。

私もいろいろな方にお話を伺うこともありますが,「自分たちの味方っぽいぞ」と思ってもらえないと名刺交換しても「え,弁護士?何かあったらよろしくね(意訳:今は特に紛争がないから弁護士に用はないよ)」といわれてしまうことが多いので,ファッション業界の方が「なんか面白そう」と話をしてくれるのも海老澤先生自身の人間的魅力なのかなと思います。


<やりがい・苦労した点>

これまでは「弁護士ってドラブルが起きたときした相談出来ないんじゃないの?」と思われたところ,「トラブルの前,契約の前にきてくれたらいろんな選択肢がありますよ」と啓蒙していくことを注力されているとのこと。

ここは私ももっと発信していかなければならないかなと思っています。

海老澤先生はSNSなどを駆使して発信をし続けていらっしゃいます。
(イギリスにスタイリストとして留学したときは調べる方法が何もなくて手紙送りまくったことを振り替えられていました。そのマインドがあるからSNSを使ったときにより伝わるんだろうなと思いました。)

専門学校などが技術面を重視しあまりビジネス(それに伴う契約や法律知識など)について教えてこなかったことで若手作家が自営のための法的感覚が身についていないでトラブルに巻き込まれることがあるという話はまさにジュエリーも似ていて,(クリエイター自身が法律に精通する必要まではないが)「なんかこれ弁護士に相談したほうが良いやつじゃない?」とひっかかるくらいの基礎知識はあったほうが良い,というお話もそのとおりだと思いました。

現在は最初の就職先の事務所から小松弁護士が独立されるタイミングでジョインし,現在はファッションロー案件が業務のほぼ100%とのこと。

<業界の中に足を踏み入れてみること>

今回あらためて心に残ったのが,海老澤先生の「できるだけ業界の中に足を踏み入れてみる」というお話でした。「そうでなければ適切な法律用語に通訳することができない」ということは,ジュエリーの訴訟において「裁判官にわかるように法的に整理して説明する」作業はたしかに翻訳・通訳に近い感覚のように思います。

海老澤先生曰く,「一度は当事者に立ってみると自分事として理解できる」とのことでした。
私が催事で販売の現場に立ってみてはじめて理解できたことも,いずれ役立てられる日が来るのかなと思います。

とりあえずあまり考えずに行動してみたらいい(何か反応があるから)」という海老澤先生のお言葉にはとても勇気を頂戴しました。

<まとめ>

そういえば最近ジュエリーや宝石のセミナーを受講することが多く,今回ひさびさに弁護士のセミナーを受講しましたが,概ね方向性としては「よし」と指さし確認をすることができました。

これからもファッションローやアートローの弁護士の皆さんの背中を横目に見ながら,ジュエリー業界の脇道のジャングルを進んでいきたいと思います。

海老澤先生ありがとうございました。

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