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介護職一年生①もう会えないかも知れない利用者さんのこと

介護福祉施設のデイサービスの仕事に、無資格未経験で飛び込んだ51歳の私。正直、お下の世話ができるか?という不安もあった。

前職の書店には当然老若男女、いろんな人がお客様として来店する。時には話の通じない人もいて疲弊したり、スタッフがクレーマーに遭い、精神的にやられてヘコんだりするのを嫌と言うほど見てきた。果たして認知症と言われるお年寄りたちと話ができるのか?と、お下の世話だけでなくそちらもおおいに不安ではあった。

でも。思い切って飛び込んでみたら。

認知症とは言ってもその人がこれまで生きて来た道があって、私がその人たちに出会うずっと前、認知症じゃなかった頃のことを知りたいと思った。

最近、施設に入所することが決まりデイサービスの利用が終わった80代の女性がいた。その人は、私の知る限りデイサービスに来ていたほとんどの時間を大声で歌っていた。いくつかのレパートリーがあり、大抵はそれをメドレー形式で歌い、他の利用者に疎んじられたり、実際に「うるさいよ‼︎」と罵声を浴びせられたりしていた。それも認知症であるから、馬耳東風なのだが。

その人、F子さんの自宅に朝迎えに行くと、決まって私と同世代であろう息子のお嫁さんが対応してくれた。夕方送って行くと男子高校生のお孫さんがわざわざ庭に出て待っていて、デイサービスから帰って来た認知症でわけのわからないことを言うおばあちゃんを「おかえりなさい‼︎」と笑顔で迎える。普通、高校生の男の子なんて認知症で常に歌ってるおばあちゃんなんて恥ずかしいんじゃないのか?と訝った。

でも。そのお孫さんのおばあちゃんに対する優しい眼差しは、F子さんがこれまでお孫さんにどんなふうに接して来たかを容易に想像させて涙が出た。確かにF子さんの大きな声で歌うメドレーはうるさいかも知れない。だけど、私はF子さんと過ごした決して長くはない時間を忘れないだろう。実際、私が送迎の車を降りている間に、F子さんの歌に合わせて他の利用者さんも一緒になって歌っていたとドライバーさんに聞いた。F子さんの送迎でお嫁さんに「いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません」と言われた時に「先日車の中で、F子さんの歌に合わせて他の利用者さんも一緒に歌ってたことがあったそうです。そんなにお気になさらなくて大丈夫ですよ」と言ったらお嫁さんも笑顔になった。

もうF子さんに会えないのかも知れない。そう思うと泣けてくる。

数日前に、施設の玄関脇のベンチで

「F子さんは死んだー‼︎」

とか叫んでいたっけ。

いやいやしっかり生きてるよ(笑)。あの可愛いお孫さんが大人の男に成長するまで。あともう少し、大声で歌いながらでいいから死なないで。



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