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書店であった嘘のような本当の話③社員はつらいよ

お店で働く方々から、レジ袋にまつわる話を聞き取りしたならば、恐らくいろいろな話が聞けるだろう。

2020年の7月から、一斉にレジ袋が有料化された。書店で使われていたビニールの手提げ袋は、たいていどの店のものもマチがなく、コミック単行本や文庫、新書にちょうど良いSサイズ、薄い雑誌なら5冊程度入るMサイズ、あまり出番はないがMより一回り大きいLサイズ、の種類があった。

それ以外だと、しっかりとマチのある紙袋の用意がある。これも大きさの種類があり、紙袋に入れるほどのお買い上げになるとかなりの重さになることが多く、二重にするか提案したり、お客様自ら「二重にしてほしい」と言われることも多かった。

袋が有料化になる以前でも、カバーも袋も不要、と言われたらレシートを購入した本や雑誌に挟み「店内ではこのままお持ちください」とひとこと添えて渡す、というのがルールになっていた。また、小さいお子さんが、買ってもらう絵本をしっかり抱きしめて離してくれない場合。なんとか親御さんと協力してバーコードのスキャンだけを強行突破し、お店のロゴの入ったセロテープをバーコードの上に貼らせてもらう、というシチュエーションもよくあることだった。

レジ袋有料化に伴い、私が勤務していた書店では、お店のロゴ入りセロテープがマスキングテープに変更になった。

私が遅番で勤務していたある日。

大学生女子のアルバイトのレジで会計していた男性客が何やら騒ぎ出した。ことの発端はそのマスキングテープだ。レジ袋は要らない、と言われたバイトちゃんが、カバーをしていない文芸雑誌にマニュアル通り、

「テープ貼らせていただきます」

と言ったところ、そのお客様が

「それ貼らないでよ」

と言った際、あろうことか「決まりなので」と無理やりテープを貼ってしまったというのだ。

若い子は目も耳も良く、物わかりも良い。が、たまに融通がきかないことがある。「レジ袋は不要」と言われたら、カバーをしていない書籍や雑誌購入の場合はレシートを挟んでお渡しする、有料化以前のスタイルで問題ないはずなのに。店長や社員から、新しいルールを聞きそれがすべてのように意識が入れ替わってしまったのかもしれない。

お客様の怒りは止まらない。

「この店は、客の買った大事な本を傷つけるようなことを指導しているのか!え⁉」

そんなわけあるかい、と内心毒づきつつ、私のクレーム対応の心得は、相手に思う存分喋らせることだ。「仰る通りでございます」「大変申し訳ございません」と適度にはさみつつ、耐える。が、緊急事態宣言も解かれた時期ではあったものの、短縮営業のさなか、閉店時間が迫っていた。もう閉店準備をしないと、アルバイトの学生たちに残業をさせるわけにはいかない。焦り始めたその時、

とんとん、

と、そのクレームのお客様の肩を叩いた男性がいた。

「おい、いつまで同じこと言ってんだ?
迷惑だよ。金払ってとっとと帰れ!」

見れば、ちょいとくせのあるロン毛で、プロレスラーと見紛うガタイのいいお兄さま。年齢は30代後半?40代前半?もっと若かったらごめんなさ~い!でも頼もしく見えたから!

お客様の言い分は、厳密にはクレームではなくて正当な意見だと思えます。うちのバイトちゃん美人だし明るくて素直で良い子なんだけど、ちょっとだけ融通がきかないの、と内心残念に思いつつ、目の前に現れたプロレスラー風のヒーローに目をぱちくりさせていたら、クレームのお客様はさすがにばつが悪くなり「ほら怒られたじゃないか」などど言い出す始末。

プロレスラー風ヒーローはすかさず、

「怒られた、じゃねぇ!早く帰れ!」

と一蹴してくれた。クレームのお客様は、ぶつぶつ言いながらも会計し、店を出て行った。

レジの精算をかける準備をしようとした時、まだ売り場にプロレスラー風ヒーローがいることに気づき、そっと近づいてお礼を言った。

「あの、先ほどはありがとうございました。申し訳ありませんでした」

「いやいや、いいんだよ。本屋さんが好きだからさ」

「本当に助かりました。ありがとうございました」

声をかけるのも勇気が必要だったかも知れない、と思うとありがたかった。

若い子は、クレームを受けるとダメージがことのほか大きくて美人のバイトちゃんがヘコんでいないか心配だったが、閉店後、帰って行く時

「〇〇さん(私)大丈夫ですか?なんかすみません。私のせいで…私は全然気にしてないんですけど!」

いや、ちょっとは気にしてくれ…。

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