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自分に優しくするための手段を持っておくこと

新しい育児本を買った。

子どもへの声がけの言葉をまとめた本で、否定的・批判的になりがちな言い回しを言い換えた例がたくさん載っている。


この本の良いところは、使ってしまいがちな表現を「Before」言い換え後を「After」として列記し、ひとつひとつの言い換えに解説が付されていること。

それから本の構成として、第1章で「親が自分自身にかけている言葉から言い換えていく」という「親の心の片づけ」から話を始めているところだ。


僕は、親から子への毒の連鎖、虐待の連鎖を断ち切るには、親が己の来し方と背負ってきたものを自覚し、背中から下ろす決意と対処をする必要があると考えている。
本の構成はまさに僕の持論を支えてくれるように思え、心強く感じられたのだと思う。


実は、僕が「言い換え」系の本を読もうと思ったのは、これで2度目だ。


最初に思い立ったのは6、7年前。
当時、僕たちは自分で自分にかけている言葉が辛辣であることに気づいた。

「どうしてこんなこともできないんだ」とか「これができない・苦手なお前は駄目だ」とか「これくらいで休むな、貧弱だな」とか。

心からそう思い、自分には欠陥があると信じこみ、自己批判を繰り返していた面も確かにある。
同時に、自分にかける言葉のレパートリーが否定と批判に偏っていたのも一因だったと感じる。

どちらにしろ連日思考の中で投げかけられる言葉により、僕たちのない自己肯定感は削られ続けていた。


もう少しやわらかい表現を知れば語彙が増えて、自分たちに優しくできるようになるのではないか。
そう考えて、1冊目の本を手に取った次第だ。

結論から言おう。半分にも到達しないうちに挫折した。

読み進めることができなかった。
言い換えの「After」として示される言葉は自分たちには不釣り合いなほど優しく見えた。

これは他者にかけるいたわりの言葉であって、自分たちが本に書かれたような優しさや気遣いに浴するほどの価値があるとはとても思えなかった。

「こんなの甘やかしだ」「お前は自分に甘い、自堕落な人間になりたいのか?」

頭の中で響く批判の声ばかりが大きくなり、肝心の本の内容が頭に入ってこない。
虚無と批判の時間を過ごすのが苦痛になって本を閉じてしまった。1冊目の本は図書館に返却したのか、売却してしまったのか。とにかく今は手元に残っていない。

僕は「before」の厳しさから出られない……それが当時思い知った結論だった。


そして今、僕たちは改めて「言い換えの語彙が少ないのではないか」という課題にたどり着くに至った。
よく人の課題は螺旋状で、いくつかのトピックに繰り返し向き合いながら上昇していくという。僕たちが同じ課題に再び到達するまで、一体どれほどの内的変化があったのだろう、今回は上手く成長できるのだろうか。

いいなを目をつけていた本を、半年ほど迷った末に注文した。
実際に届いた本は商品ページから得た印象よりも分厚く、内容もとても充実していそうだ。

実際、この記事の冒頭に書いたようにとても良い本で、購入まで大いに迷ったことも、思い切って購入したことも良い選択だったと感じている。


だが、と言っては何だが、件の本は今、第1章の初めの方にしおりをはさまれ、本棚の中で優しい雰囲気を漂わせている。

実は再び、早々に本を閉じざるを得なくなってしまったのだ。

自己批判の声が大きかったわけではない。
解離の副産物である眠気によって、内容を理解し読み進めることに困難が生じたのである。


パーツの中には眠気を起こして外界をシャットダウンし、自己防衛をはかろうとする者がいる。

また洞察力のある友人によれば、僕たちの読書中に起きる眠気は、「今本から取り入れようとしている情報を必要としていないパーツ」の行動によるものらしい。
知らないでいることによって、何らかの傷つきや衝撃から自分を守ろうとしているのだそうだ。

確かに、と思わされる節もある。

僕が好んで読む子育て本は、より良い子どもとの接し方を教えてくれると同時に、「そのように接されなかった自分たち」を際立たせてしまうから。

僕が知りたいと思ってきた言い換えは、誰かの悲しい記憶を呼び起こしてしまうものなのかもしれない。


その本は今は他にも読みたい本が溜まっており、ひとまず後回しという形で本棚に収まっているのだ。

いつ読める時がやってくるか分からないが、今回はこの本を売ることはしない、と固く心に決めている。

僕にとってあの本は安心材料だ。
もし参照したいと思えばいつでも棚から抜いて開くことができる。
また、自分に優しく在りたいと思って、対策を講じようとした証でもある。

これから読み時がやってきても、あるいは一生やって来なくても。
自分に優しく在ろうとすること、やろうと思えばいつでも手段が手に入ることを大切にしていたい。




直也



サムネイルの画像はPixabayからお借りしています。


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