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てのひらに残る透明な黄色【珠川こおり『檸檬先生』読後感想】

共感覚をモチーフにした小説『檸檬先生』

また心に残る話を読んでしまった……。

珠川こおり先生のデビュー作『檸檬先生』(講談社)。

あらすじは以下の通り。

Amazonの商品ページより引用しています。

私立小中一貫校に通う小学三年生の私は、音や数字に色が見えたりする「共感覚」を持ち、クラスメイトから蔑まれていた。ある日、唯一心安らげる場所である音楽室で中学三年生の少女と出会う。檸檬色に映る彼女もまた孤独な共感覚者であった。

「共感覚」という言葉に惹かれて
色が弾ける世界って
私が『檸檬先生』に出会う少し前のこと。

noteで、共感覚を持つ方が書いた記事を読みました。

(当該記事を探そうとしたんですが見つかりませんでした( ;∀;)

その人も音に色がついて見え、特にショパンの音色は綺麗で……と書かれており、色が伴う世界に憧れを抱いたことが印象に残っています。

自分とは違う世界を見ている人がいる。

もちろん大変なこともあるだろうけど、色や数字が別の感覚に伴うって、なんだか素敵。

一説によれば、共感覚は赤ちゃんの時は誰でも持っているものだとか。

私も、どうにかして共感覚を体験できないものだろうか……。

そんな風に考えていた中、偶然手に取った『檸檬先生』。

私にしては珍しく、あらすじも概要も分からないまま開いた小説でした。

だからこそ、主人公の「私」が共感覚の持ち主だと気づいた時にはびっくり。なんてタイムリーなんだ!

本は生モノで、読むべきタイミングがあると言われることがありますが、まさに「読み時」を感じた瞬間でした。

そして灯台下暗しというか、「なんで気づかなかったんだ」というか。

共感覚を体験したいけれど、自分には共感覚がなくなっているんだとしたら。

小説を読むことで、疑似体験するという方法があったじゃないか!

『檸檬先生』を読み進めるうちにそれに思い至り、ますます「私」の見る世界に没入していく自分がいました。

どぎつい色、やわらかい色。「色」の書き分け

『檸檬先生』のすごいところの一つは、言葉の選び方と言葉の書き分けだと思います。

文中に登場する、たくさんの色。

主人公「私」の年齢的な事情もあってか、色そのものの単語は限定的です。

シンプルに赤、青、黄色とか。

それなのに、「赤」が内包する明度と彩度の書き分けが無限大!

暗い赤、明るい赤、赤紫……。

「赤」に含まれるたくさんの色味が、丁寧な描写やたとえによって直感的に分かる言葉で表現されており、わざわざ想像力をたくましくするまでもないくらい。

読み終えてからAmazon画面で書評を読み、思い出したように「そういえば本の紙面ってモノクロだったな」と気づかされました。

「教師」と「先生」の書き分け

「私」の言葉の使い分けも印象的でした。

「私」は檸檬先生のことだけを「先生」と呼び、学校で教職員として働く人のことは総じて「教師」と呼びます。

この書き分けがものすごく巧みで、ちょっと共感も覚えました。

世の中には敬意を表して「先生」と呼びならわされる職業がいくつかありますが、役職にあぐらをかいているだけの、人格が伴わない人も大勢います。

そういう人たちのことも、本当に「先生」と呼ぶべきなのか。

義務的に呼ぶ「先生」を尊敬することはできるのか。しなければならないのか。

感じることの多い違和。

「私」はきちんと「尊敬できる人」と「そうでない人」の線引きができていて、私にとってはうらやましいかぎりです。

境界線と自分軸は大事だ、どうかそのまま大人になってくれ。

読み終えた後に残るもの(結末には触れません)
最後の一行までを丁寧に読み終わり、そっと本を閉じる。

余韻を味わって感想を整理して、気持ちを落ち着かせて「現実」に戻ってくる時間。

少しずつ研ぎ澄まされて行って、それでも私の手に残る印象がありました。

「檸檬先生」の綺麗さです。

本編の随所に描かれる、「私」から見た檸檬先生の美しさ。

実は私もその綺麗さを疑似的に見たくなって、何度も読書の手を止めて本を閉じ、表紙を眺めまわしたりしていました。

「実物を見たら、もっと綺麗なんだろうなあ」

「こんな感じかな」

描写をもとに塗り重ねられていく先生の美しさが、どんどん美への期待感を高めて止まりません。

作者の狙いに上手くハマっているのかもしれない……。これは嬉しいハマり方。

タイトルの通り「檸檬先生」が作品を引っ張っているわけですから、檸檬先生の印象が、そのまま作品の印象になっていくイメージ。

つまり『檸檬先生』は、美しい話なのです。

果物の入った名前は大体良い(偏見)

最後に私の偏見を少し。

名前に果物が入ったものや人、大抵良くないですか!?

着物姿が美しい椎名林檎さんも、

スピリチュアリティ感じる小説を書くよしもとばななさんも(高校の時に読んだ『鳥たち』がお気に入り)

今回の『檸檬先生』も、みんな名前に果物が入っています。

果物ってスーパーにも並ぶ身近な存在なのに、それが名前になると急に高尚な感じになって、文学性を帯びてくるから不思議。

「葡萄」って名前にしようかしら(笑)。

……とまぁ、それは冗談ですが、無条件に「良い!」と叫びたくなる美しさと色彩が、『檸檬先生』には詰まっていました。

未読の方、共感覚を疑似体験したい方に、特におすすめしたいです!

プラスα:本当に悪かったのは?【ふせったー】

ネタバレに触れる内容になるので、ふせったーに思うことをまとめてみました。

読後、考察したい! 誰かと語りたい! という方。

考察の一助になれば幸いです。

これから本編を読むよという方は、ぜひ読後の閲覧をおすすめします。面白味が減っちゃうと思うので……(;´∀`)


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