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いけ好かない主人公なのに、応援せざるを得ない不思議【山田悠介著『俺の残機を投下します』私的感想】

最初に本屋で見かけてからというもの、タイトルと表紙に魅かれて「絶対読みたい!」と思っていた本。

それこそが、山田悠介さん著『俺の残機を投下します』(河出書房出版)です。

面白い話が読みたい人におすすめしたい一冊だったので、私なりの感想や考えたことをまとめておきたいと思います。

微妙にネタバレを含む可能性がありますので、苦手な方はご注意ください。

結末については明記しないつもりです。

本書の感想など
おもしろポイント:主人公にまったく共感できない!(笑)

個人的に面白かったポイントの1点目。

主人公の「一輝」にまったく共感できませんでした!

とくに序盤。

妙にプライドが高く、他人を見下している。

考えることはすべて自分中心。

「うわぁ、ありえない」と感じつつ、「でも、世の中にはこういう人も実際にいるのかな……」などと考えたり。

私とはまったく違うタイプの人間だったので、途中からは「どういう思考回路で動いているのか、ち密に観察してやろう」くらいの気持ちで読みました(笑)。

不思議なねじれ

しかし、「一輝にまったく共感できない!」だけでは終わらないのです。

私は序盤の一輝に共感できず、ともすれば「ひどい目に遭ってくれないかな」とも願ったりしたのですが……。なんだかんだ言って、彼を応援せざるを得なくなります。

理由は、一輝の「残機」たち。

残機と言っても個性は様々で、それぞれが応援したくなるような想いを背負って生きています。

けれど残機たちに幸せに生きつづけてもらうためには、一輝に安全でいてもらわなければなりません。

あまりのクズっぷりに「いっそ不幸に……」と願いたい。

けれど、一輝の残機たちには幸せに生きて欲しい。

結果、一輝をも応援しなければならない。

この一筋縄ではいかない感じ、まっすぐ言い切れるものだけではない感じが、非常に現実的で、物語全体に不思議なリアルさを敷いていると感じました。

考えたことなど
嫌でも付き合っていくしかない――それは自分

残機たちの個性も様々と書きました。

残機だからと言って、一輝に従順に使われるだけではないのです。

泣こうが喚こうが、本体の生き方が嫌だろうが……残機たちの命運は一輝に握られている。

なんだかんだ言っても、離れてまったく無関係に生きることなんてできない。

それは突き詰めれば、自分自身のことだと思います。

物語の中ではそれを、「一輝」と「残機たち」に分けて見せてくれているのではないでしょうか。

自分のことが嫌い。現状を変えたい。

そう思いながらも、「今までと同じ」から抜け出せない……。そう思う人はけっこういると思います。

「変えたい」と思うけど何も変わらない、変えられない。

日々を過ごすうちに、変えられない自分をも嫌いになっていったりして。

負のスパイラルです。

「自分のことなんか嫌い」と思っても、自分から離れることはできません。

まったく違う人生を歩み直したいなら、結局は自分でその機会を作るしかないのです。

テイストの違う服を買うとか、髪型を変えるとか、3日間寝てみるとか。

なんだかんだ言っても、自分についていくしかない。

自分を引っ張って生きていくしかない。

人生を貫く本質的なことが、「一輝」と「残機たち」の対面によって表現されているのかもしれません。

もし、自分に「残機」がいたら……。

私は小説に感情移入しながら読むタイプ。

そこで、今回はこんなことを考えながら読み進めていました。

「もし自分に残機がいたら、どんな個性を持っているのかな?」

もし本当に残機がいたら、私の知らない一面に気づくきっかけになるかも。

あるいは、見たくない特性(おおざっぱなところとか)が受け継がれていて、穴があったら入りたい状態になるかも……?

自分の残機について考えてみることが、ひいては「自分はどういう特性を持っているのか?」を見つめることに繋がると思います。

初めて山田悠介作品を読んで

今回読んだ『俺の残機を投下します』は、私にとって初の山田悠介作品です。

これまで『リアル鬼ごっこ』の作者さん、ということしか知りませんでした(;^_^A

読んでみると、『俺の残機を投下します』の作風が、私の好きなテイストに合致していてとても魅力に思えました。

文明と技術が進んで、今よりもっとハイテクになった世界観とか。

ゲームに没頭するあまり、性格がすさんでいく人の存在とか。

レイ・ブラッドベリの『華氏451°』とか、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』に通ずるものを感じました。

そういうディストピア系統が好きな人が読んでも、面白いかもしれません。


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