母を探す、自分を見つける【尾崎世界観『母影』ネタバレあり感想&考察】
尾崎世界観さん著『母影』(新潮社)を拝読しました。
「芥川賞候補作に選ばれた!」という報道を見た瞬間、気になって予約したもの。
届いて、わくわくしながらページを開きました。
以下、感想や考えたことなどを書いていきます。
直接的なネタバレはしませんが、核心に触れることもあるかと思います。
苦手な方はご注意ください。
こんな人におすすめです!
今の自分とは違う視点(女子小学生の視点)で世界を見てみたい
流行りの小説を読みたい
自分を見つめ直したい
女子小学生の視点で見る世界
尾崎さんのこだわりがすごい
『母影』の主人公は、女子小学生の少女です。
作品を通じて名前は出てこず、ずっと一人称視点であるため、「私」とだけ書かれています。
「私」は、漢字を読むことが得意。
書ける漢字も多いけれど、それより読める漢字の方が多いそうです(分かる)。
本を開いて最初に感じたのは、尾崎さんの文章に対するこだわり。
徹底的に「私」の目線になりきっているのです。
最初にこだわりを感じられるのは、地の文の漢字。
このお店はせまいから、探けんしてもつまらない。
「探険」の「探」は漢字で書けるけど、「けん」は書けない。
ちなみに調べたところ、「探」は小6、「険」は小5で習う漢字のようです。
作中に出てくる様々な描写・場面から、私は主人公の「私」が小学校低~中学年(2か3年生)くらいではないかと感じています。
そんな「私」の視点、書ける漢字、読める漢字で徹底的に構成された本文からは、著者のこだわり、突き詰めた世界観が読み取れる気がするのです。
私たちに、世界がどう見えていたか?
「私」目線が貫かれた『母影』。
読んでいるうちに、不思議な共感が湧いてきました。
「私」を通して、幼い頃の自分を思い出す感覚です。
背が低い頃、世界はどんなふうに見えていたか。
こういうこと言われて嫌だったのに、上手い言葉が見つからなかった。
今なら「こう言い返してやる」って思えるのに。
そう思わされる描写が随所に登場し、「ああ、そうだった」と気付かされました。
子どもの頃に感じたことを、普段から忘れないようにしたいと思っています。
感じたことは覚えていられても、背が低かった頃の視点は忘れがち。
背が伸びた「大人の視界」に慣れてしまっているからです。
世界は大人の背丈に合わせて構築されています。
そこを小柄な人間が歩いた時の、見通しの悪さ、物が迫ってくる感じ。
本を通じて思い出した時に、「あっ」と思わされました。
「影」から見出す世界とは
母親を見出す
『母影』と書いて「おもかげ」と読みます。
最後まで読んで改めて気づかされましたが、この作品全体に敷かれたテーマは「影」でした。
「影」というと「日陰」とか言うので、暗いこと、というイメージがつきまといますが、私は暗さをあまり感じませんでした。
むしろ、どちらかというと明るい感じ。
影が生まれるには、その後ろから光が射していなければならないから――かもしれません。
カーテンに映るお母さんの影を見つめる「私」。
最初、「お母さんの影」から「母影」というタイトルになったのかと思っていました。
それはまだ浅い認識でした。
それはただの「ははかげ」であり、「おもかげ」ではなかったのです。
「おもかげ(面影)」とは
1 記憶によって思い浮かべる顔や姿。
2 あるものを思い起こさせるような顔つき・ようす。
3 実際には存在しないのに見えるように思えるもの。
4 歌論用語で、作品から浮かび上がってくる心象。
(デジタル大辞泉より)
という意味を持つ言葉です。
タイトル『母影』には、これらすべての意味が少しずつ含まれているのではないかと感じました。
「私」を見出す
作品を通して、「私」は現実に生きている意識が希薄なように感じました。
まあ私も小学生の頃そういう傾向があったので、人のことは言えませんが。
「私」は当時の私以上に現実感がなくて、ただただお母さんを見ている感じ。
クラスでは肩身が狭そうですが、「肩身が狭い」とすら感じておらず、単に「あの中には入れない」と傍観している印象です。
そんな「私」が自分を発見することにも、影が大きな役割を果たしました。
自分を見つけた「私」なら、これからもっと能動的に生きていけるのかな……などと、作品が終わったあとの世界に思いを馳せてしまいます。
クリープハイプが聴きたくなって
私、尾崎世界観さんのバンド「クリープハイプ」を全く聴いたことがありません。
今回『母影』で尾崎さんの感性に触れる機会を得て、クリープハイプの音楽も聞いてみたいなと思いました。
尾崎さんが所属している、意外の知識が全くないので……(;´∀`)
おすすめの曲とかアルバムとかあったら、誰か教えてくれると嬉しいです。
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