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敵を包囲せよ 愛国者学園物語42

 盛んに話していたルイーズは、自分の周りに学園生たちが集まってきたことに気がついた。それくらいなら、「アグリー・ルイーズ」はビクともしなかっただろうが、学園生たちが、自分の相棒であるサヨコに絡み始めたので不機嫌になり、話すのを止めた。

「ちょっと何しているのよ、やめなさいよ。サヨコ、その子たちを止めて。あっち行けったら」
「サヨコ、その子なんて言っているの?」
「勝手に撮影するな、だって」
「なにさ、禁止の看板なんてないじゃないの。ガキどもを追い払ってよ」
「無理よ、しつこいんだから」

 そして、これは生中継されたままだった。通信会社の記録によると、この時点で中継の視聴者が急増した。ルイーズとサヨコがフランス語で会話をしているのを理解できない視聴者が大半だったが、それでも彼らは雰囲気でその内容を「つかんだ」。

彼ら、熱心なファンはルイーズのアカウントに、
「やっちまえ」
「(学園生は)なんて言ってる?」
「追い払え」
「怖いよ、囲まれてるじゃん」
「薙ぎ払え(なぎはらえ)by クシャナ」
「(記号の羅列)」
「神よ、ルイーズを守り給え」
「@@@ども、失せろ」
「怖い怖い怖い」
「逃げてええ」
「ルイーズ、脱出だ!」
「あああああああああ」
「だめええええええええ」
「特殊部隊GIGN出動せよ」
「加油!加油!」
「non non non non non」
「f@@@」
「ターミネーター助けて」
「核ミサイル発射」
「fiiiiigggggghhhhhtttttttt!」
「(意味不明)」
などとコメントをネット社会にばらまいた。

 子供たちは大人二人が外国語でやり合うのを聞いてはいたが、それは彼らには理解できないフランス語だった。しかし、それを発する大人たちの態度は、明らかに怒りと侮蔑の入り混じったものであったから、子供心にも、彼女らが自分たちをバカにしているらしい、くらいはつかめたのだ。

 子供たちは純粋な好奇心から、この二人組が誰で、どこから来たのか、そして、なぜ学園を撮影しているのか、口々に質問した。それに某学園生は、子供らしい率直さから、

「誰、この黒人? アフリカ人?」

という言葉を発してしまい、それがサヨコの怒りに火を注いだ。友人の怒りに気がついたルイーズはサヨコに問いかけ、その答えを得ると、早口のフランス語で、馬鹿にするな、などとまくし立てた。

 少年の一人はルイーズの言葉など分からなかったが、その怒りが自分に向けられたものであることぐらいは把握していた。そこで、悪ガキらしく、中指を立てて彼女に見せたところ、ルイーズは怒りを爆発させて、

「失せろ、この@@@@! サヨコ、あいつを何とかしてよ。このヤロー、@@@@@@@@@@」


「あー、怒ってる。ウッセーよ、日本語でしゃべれ」
その言葉にサヨコも怒り、その少年に摑みかかろうとした。すると、少年と仲間たちは、ほとんど同時に

「誰か!」「やめろ! やめろ!」「助けて! 助けて!」

という、学園の防犯講座で学んだ言葉を連呼した。

 その恐ろしいほどのハーモニーに、二人組はやっと悟った。自分たちが包囲されていたことを。子供たちは怒りの表情と氷の微笑を浮かべ、ある者たちはiPhoneで二人の様子を撮影していた。ルイーズとサヨコの怒りは困惑に姿を変え、そして冷たい恐怖に変化した。

 子供たちは防犯講座で教えられた通り、自分たちを非難するような「敵」に出会ったら、集合して塊になり相手に立ちむかう、という戦術をそのまま実行した。しかも、敵がいるのは彼らの総本山である学園の前なのだ。人垣に加わる子供たちの数は次々に増え、その心理的パワーはルイーズとサヨコの怒りを瞬時にして消しとばした。


続く

大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。