クリエイターとファンが直接つながり熱狂するSNS時代のコンテンツメイク最前線
ファンに認められた人が活躍する時代になり、熱狂が生まれる過程が変わった
──佐渡島さんは、編集者として『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』といった大人気マンガを手がけたのち、2012年にコルクを創業されました。どのような背景から立ち上げに至ったのでしょうか?
コルクは、「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションにしたクリエイターエージェンシーで、マンガ家や小説家など、現在30名のクリエイターが所属しています。
タレント、アーティスト、作家などを取り巻くビジネスにおいて、「才能ある人が活躍するプラットフォーム」と「才能ある人たちをマネジメントするエージェンシー」という2つの会社が存在し、両者は基本的には協力し合いますが、時と場合によっては利害が一致しないこともあります。プラットフォームが目指すことは、最大瞬間風速を上げること。つまり、今どのようにして話題にするか。それに対して、最大瞬間風速が上がることによって短期間で飽きられてしまう懸念を踏まえて、いかに長期的に活躍できる環境を整備するかがマネジメントにおいては重要になります。
出版業界では、出版社が雑誌や単行本というプラットフォームを持ち、同時にマンガ家や作家のマネジメントやエージェントも行うといった状態がずっと続いています。プラットフォームとエージェンシーを兼ねている場合、どうしても最大瞬間風速が優先されがちです。テレビも同様ですが、長年にわたって素晴らしいコンテンツが蓄積されているにもかかわらず、「新たなヒット作を生み出す人がえらい」という風潮により、過去コンテンツがうまく活用できていない状態にある。それは非常にもったいないことですよね。
世界的には、プラットフォームとエージェンシーは協力関係を築いて、同じ会社にしないのが主流です。日本もそうなったほうがいいのではないか。インターネットの発達によってニーズもより高まるのではないか。僕自身が編集者時代に感じていた業界全体が抱える課題に一石を投じるような形で、よりよい仕組みづくりに参加できたら。そういった思いからコルクを創業しました。
──この10年でクリエイターを取り巻く環境も大きく変化したのではないでしょうか。
そうですね。大きな変化としてはファンに認められた人が活躍する時代になったということですよね。かつて、才能ある人の多くは、編集者やテレビ局のプロデューサーといった権威ある人に見いだされ、用意された大舞台で活躍することでファンを獲得していくのが一般的でした。
今は、YouTuberをはじめとして、ファンと直接つながって認められた人が活躍する時代で、その結びつきもより密接になっています。以前は、ファンと直接結びつくことは、お金に困っているクリエイターがやることというイメージがあって、クラウドファンディングで炎上する事例も数多く見かけましたが、今はそんなことはありませんよね。世間の常識もこの10年で大きく変わったと思います。
熱狂が生まれる過程も変化しました。かつては莫大な宣伝費を投入し、念入りに準備することによってヒット作を生み出していましたが、今は大きくお金をかけるというよりも、小さく、何度もやる。そのトライアルの中で改善を重ねていくという手法が浸透してきています。
Twitterにマンガを毎日アップし続ける、YouTubeで24時間ライブ配信を行うというように、接触時間を増やすことによって人気が広がり、しっかりとしたファンが付き、話題になってきたタイミングでお金をかけて大きく育てていく。ここで重要なことは、飽きずに、毎日地道にやり続けられるかどうかです。成功している人を見ると、ファンがいてもいなくても自発的に続けられる人ばかりで、動画を配信する、マンガを描く、曲を作るといった創作活動の中心となるプロセス自体を楽しんでいて、当たる/当たらないは運だと捉えている。
それと同時にファンも、完成した作品だけではなく、完成に至るまでのプロセスや物語を知りたがっている。クリエイター自身がプロセスを楽しんでいる様子を、“好きのおすそ分け”としてファンも一緒に楽しみ、共感が生まれる。そういう時代になっていると思います。
細かいTIPSにおいて同じものはないのですが、基本的には、毎日公開して、プロセスを共有し、SNSを通してファンコミュニティを大きくしていく。この流れ自体はよりシンプルになってきている印象です。
──クリエイターとファンが直接つながる時代となった今、コルクがエージェンシーとして重視していることは何でしょうか?
マンガ家を例にすると、既存のシステムでは単行本の発行部数に応じて収入が左右されます。そういった状態だと、常に緊張感を強いられることになりますよね。クリエイターがリラックスして創作に向き合うためにも、お金の不安がない/少ない状態が理想だと思っています。コルクは、そういった安定的な支えとなるファンコミュニティづくりを重視し、「10 true client」と「100 true fan」というキーワードを掲げています。クリエイターを支えたいと思ってくれる10社の企業マンガを担当しながら、さらに、そのクリエイターが世に出て活躍することを力強く応援してくれる100人のファンがいるというイメージで、創作活動を支えてくれる企業とファンによって、クリエイターの収入を多角化し、安定した基盤をいかに強固にできるかを常に考えています。
NFTアバターサービスを成功に導く4つのポイント
──コルクは、他社との共同プロジェクトで、新たなサービスを積極的に提供しています。そのひとつに、今年8月に開始した「タレントTwitter漫画メニュー」があります。
新たなターゲットに訴求する、認知を広げるといった際に、有効なのがコラボです。YouTubeの勢いを加速させている要因のひとつがYouTuber同士のコラボですよね。特にジャンルが異なる者同士のコラボは新たなファンの獲得につながる事例として参考にすべき点が多くあります。
では、タレント、マンガ家、企業の3者がTwitterを介してコラボする場合は、どのような形があるのか。今回の「タレントTwitter漫画メニュー」は、その答えのひとつになり得ると思っています。タレントは自分の写真と言葉だけではない新しい何かを発信することで新鮮さを与えられる。マンガ家も新たな着想をもとに創作の幅を広げられる。そして企業も役立つ情報をわかりやすく伝えられる。それぞれの可能性を広げるという点において非常に期待していますし、先ほどお話ししたクリエイターを支えるファンコミュニティの形成にもつながると考えています。
マンガと掛け合わせることによって、タレント活動の幅を広げ、ファンをより楽しませることができる点もメリットです。リアルな表現の場合は、撮影が必要ですし、「このセリフはイメージに合わないよね」といった、さまざまな制限が出てきます。その点、マンガのキャラクターは自由度が高く、個性を際立たせるという特長があり、タレントや企業のブランディングにおいても、マンガのキャラクターは重要な役割を担うことができるのです。
──今年1月に提供を開始したNFTアバターサービス「METABA」についてもお聞かせください。
FIREBUGもアバターNFTサービスを始めましたよね(※FIREBUGがITOCHU Textile Prominent (ASIA) Ltd.と業務提携し、タレントの3Dアバターによる新たなデジタルIPビジネスを共同展開中)。同じ時期に同じような考えで取り組んでいるのは、面白いですよね。
NFTが世間に浸透していないこともあって、METABAはゆっくりと広げている状態です。当然ですが、生きていく上では肉体が中心で、その肉体をケアして、好きな服を着て、それぞれが思い思いに自分らしさを表現していますよね。それと同様に、メタバースが身近な存在になってきたときに、人々はなんらかのキャラクターをまとって生きるようになると僕は考えています。
また、日常において、物語に感動したり、好きなタレントを応援することによって、パワーをもらう瞬間があると思いますが、今後はその方法が、タレントのアバターをまとう、タレントのグッズをアバターが身に付けることに代わり得るかもしれません。
そこで、いかにしてアバターをブランド化できるか。アバター自体がメタバースの中心になるはずで、「物語の力で、一人一人の世界を変える」というコルクのミッションを実現する上でも、アバターについて解像度を上げて細部まで理解したいという思いでMETABAを始めました。メタバース自体ではなく、その中のアバターに特化したサービスであり、やればやるほどNFTアバターサービスの可能性を感じています。
──新日本プロレスとの共同プロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか?
しっかりとしたファンがいなければ、NFTアバターサービスは成り立ちません。同時に、ファンがいるだけでなく、アバターを着るためにはイベントが重要です。その点、プロレスはイベントが中心じゃないですか。リアルなイベントがあるエンタメのアバターを作りたいという思いでオファーし、タッグが実現しました。新日本プロレスの中にもメタバースやアバターにものすごく詳しい人がいて、「ぜひ、やりましょう!」と意気投合して。
・熱烈なファンがいる
・リアルなイベントを開催している
・絶大な人気を誇るキャラクターがいる
・メタバースで展開しても違和感がない
この4つのポイントは、NFTアバターサービスを成功に導くために不可欠ですし、他のエンタメに置き換えても当てはまります。実績を重ねていくことで、いずれはマンガ×メタバースのイベントも実現できるでしょうし、そうなるとコルクが得意とするマンガ事業との親和性もより高められると期待しています。
物語の中の感情や出来事をいかにしてリアライズするか
──ここまでお話を伺う中で、コルクのミッション、そして以下の3つのビジョンをさまざまな事業や取り組みを通して体現しているという印象を受けました。
Createは、これまでも、そしてこれからも変わらないであろう普遍的なこと。Connectは、この10年で着実に浸透してきたこと。そして、Realizeは、今後よりいっそう求められることのように思います。
そうですね。Realize について、2つの具体例を挙げてお話しします。
ひとつは、グッズです。それも単に『宇宙兄弟』のイラストが描かれたものではなく、『宇宙兄弟』に登場するキャラクターの気持ちになれるグッズです。
その重要性に気づいたのは、2015年に『宇宙兄弟』に出てくる北村絵名というキャラクターのグッズ「絵名の惑星ヘアピン」が人気を呼んで完売したことがきっかけでした。絵名のように気持ちが「ピシッ」としたといった声がSNS上にあふれていて、「なるほど、すごいことだな」と。そのヘアピンを付けるたびに「今日、ちょっと頑張ろう」というように、『宇宙兄弟』のシーンを思い出すと。まさに、パワーをもらうということですよね。
この経験を機に、創作する上で“こだわれる環境”を用意するようになりました。僕たち自身も、作家に対して「服にこだわってみよう」と漠然と言うのではなく、より具体的なアドバイスができるようになりましたし、なにより作家自身が自然とこだわるように変わりました。作り手の願いを込めることができ、受け手もグッズの背景にある物語に共感し、愛用できる。とてもなめらかで素晴らしい仕組みだなと思います。
そして、もうひとつは物語の中の出来事を実現させたいというプロジェクトです。
同じく『宇宙兄弟』の中に、伊東せりかというキャラクターが登場します。彼女はALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気で父親を亡くしていて、その治療薬を開発すべく宇宙飛行士を目指し、2029年(物語の中での設定)にALSの治療薬開発に大きく近づく宇宙空間での実験に成功するというエピソードがあります。
ALSは実際には治療方法が見つかっていない難病ですが、どうやって物語のようにリアライズ=実現するかということで、2018年に「せりか基金」を設立し、寄付を募って治療方法の研究開発費を集める活動を続けています。
まさに、「物語に宿っている、世の中を変える力を顕在化する」プロジェクトですし、物語が与える力、世界観を生み出す創作者が持つ可能性の大きさを感じています。
──今後、佐渡島さんが取り組みたいと考えていることはありますか?
やはり、コルクスタジオからヒット作を生み出すことですね。コルクスタジオは、縦スクロールのウェブトゥーン制作に特化したマンガ家集団で、現在20名が所属し、今後も増員していく予定です。ウェブトゥーンはマンガ家1人がアシスタントを雇って作るという規模感ではできないので、チームとして進める必要があるのですが、マンガ家同士が共に教え合い、編集者と協力し合う、そういったポジティブなエネルギーに満ちあふれています。
Netflixでアニメを配信すると一瞬で全世界に広がるように、ウェブトゥーンも一瞬で全世界に広がる可能性を秘めています。安定して制作できる土壌があるだけに、果敢にトライして結果を出したいと思っています。
■本記事のTIPS
・創作プロセス自体を楽しみ、毎日地道に続けることで接触時間が増え、人気が広がる
・NFTアバターサービスを成功に導くには、「熱烈なファン」「リアルなイベント」「絶大な人気を誇るキャラクター」「メタバースで展開しても違和感ない親和性」の4つが不可欠。
・「作り手の願い」と「受け手の共感」が、物語の中の感情や出来事を現実のものにする
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Writer:龍輪剛
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