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『凍結』

ーーーなんて情けないんだろう。僕は未だ、僕をこんなにも理解出来ていないなんて。

ベッドの中、踞る。外では世界が色付き始めている。心なんてものがあるから、こんなにも掻き乱されて、苦しくて、今にも死んでしまいたいような、どうしようもない衝動に身を焼かれるのだ。どうして僕は、こんな。何が不満か、言葉に出来ない。満足なんてしていない。きっと、僕はとても恵まれている。寝床も、服も、食事も、お風呂だって、何だって当たり前にある。僕は自由な筈だ。けれど心だけが不出来で、どうしようもなく嫌いで、愛おしいのだ。大嫌いだ。自分を傷付ける事には飽きてしまった。あの女がヒステリーを起こして、男に慰めて貰っている光景を思い出す。吐き気がする。何もかも。

ーーー凍結されたい。

僕は願わずにはいられない。凍結されたい。存在ごと。僕は凍結されたい。この躰は時と共に腐っていく。僕は綺麗なまま、凍結されてしまいたい。湖の底に、そっと隠されてしまいたい。瞳は開けたままでいい。水の底は、きっと綺麗だ。純粋な魂たちが行き交い、邪魔な足枷もなく、どこまでも泳いで行ける。そうだ、僕は、此処から出たい。この躰から。浄化されたい。生まれ変わりたい。僕ではない、誰か。もっともっと、うつくしいものにーーーーー。



「いい加減ッ、起きなさい!」

蹴り飛ばす勢いで、ドアが開けられた、様な音がする。僕は出口に背を向けているから分からない。

「な、何やってるのォ!もおぉ!お母さん、困らせてッ、そんなに、楽しい?!」

この声は…あの女だ。女は、何やら喚き散らしている。気付けば部屋は明るくなっていた。今、何時なんだろう。あれからどれくらい経ったんだろう。どんなに考えを巡らせても、僕は自身への理解を深める事が出来ないまま、布団を剥がされ、乱暴に服を脱がされ、着替え、強制的に、引きずるように、部屋を出される。ぐっと掴まれた手首に、じんわりと痛みが灯る。ああ、生きている証。けれど僕は、



「れいとう、されたい」


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