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「必要になったら電話をかけて」の読書感想文

レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳「必要になったら電話をかけて」を読みました。
彼の死後に出版された未発表の短編集です。
はじめの数行で語り手や登場人物が置かれた状況を説明します。読者は山稜が見えて、川の音が聞こえるマイヤーズが間借りしている家や、海風が吹いてくる太平洋を見下ろすレストランから100mの借家に連れて行かれます。
物語に登場する人物たちも片腕が無い、夫婦揃って愛人がいる、親しき仲の友人にもにも少しの遠慮があったり、とても複雑な人物たちでカーヴァーらしい作品です。
村上春樹訳のこのシリーズには翻訳者による解題が必ず付属しています。そちらも非常に面白い。テス・ギャラガーの序文のあとに収録された「薪割り」には山稜の景色と川の音の描写が出てきます。それは余分で削った方が好いのではないか?確かに云われてみるとその通りだと思います。
テス・ギャラガーの序文には他の短編との関連も説明されています。そこで名前が挙げられた「ブラックバード・パイ」、「シェフの家」、「ささやかだけれど、役にたつこと」の内容も容易に思い出されます。カーバーの作品はそれだけ印象的です。「必要になったら電話をかけて」で逃げにかかった馬は「ブラックバード・パイ」では大人しく牧場主に従った。その差はどこから生じたのか?興味は尽きません。序文で触れられている詩「夜遅く、霧と馬とともに」も読んでみました。これらの作品の兄弟のような関係性も気になります。
その理解しやすい序文と解題の中にある「文学的」との言葉はやはり難しい。いつもこの言葉で足止めされます。とりあえずの手がかりはカーバーの作品から探すしかないので、彼が晩年に愛したチェーホフを読んでみようと思います。文学の森に迷い込む、岩だらけの道を進む。そこで大海に出逢う。寄り道、廻り道、迷い道の先には岩波文庫に辿り着く。しっかりと沼にハマっています。
#読書感想文
#村上春樹
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