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キャット・ストリート

成田がある日、雨模様の渋谷のキャット・ストーリートを歩いている夢をみた。

路上には自分以外は誰も歩いておらず、店は全て閉まっている。

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成田はおかしな夢だと思いながら「CREAM SODA」から「GYRE」までショットガンで店や建物をゲームの様に壊しまくっていた。飛び散るガラスと頭部が吹き飛び、胴体に店の奥まで見通せる大きな穴を開けられたマネキン達。束の間の夢の中で眼に写るものが崩れていくことを本当に楽しんでいた。夢の中では警察は存在しない、やりたい放題だった。

ゲーム仲間の三島も誘ってやりたいが夢の中にはゲーム仲間でも誘えない、「三島は胃潰瘍で入院中だ。今度、見舞いに行ったときに話してみようか?」と呑気に考えていた。スマホがメールの着信を伝えるまでは。

スマホの時刻は午前5時50分。相手は三島だった。

「何かがおかしい!アイツは治療に専念するためににスマホを病室に持ち込んではいない。」

成田はベッドの上に正座して、スマホのロックを解除して、メールをチェックする。何で正座したのか?そんなもの成田にも分からない。なぜかそれが正しい事だと成田は思っていた。

メールの文面はこうだった。

今朝、息子が旅立ちました。あなたに心配を掛けたくない本人の意思を尊重してあなたには息子が余命宣告を受けていた事を黙っていました。最期まで友達でいてくれて本当にありがとう。    感謝します。  

                                 三島の父より

成田は三回メールを読み、四回目の途中でスマホをベッドの上に落とした。手はスマホを持っていることもできなかった。

成田は三島の病気は胃潰瘍で必ず完治すると思っていた。

しかし、少しずつ痩せ衰えていく三島と笑顔が少しずつ減っていく三島の両親。旅立ちの気配を無意識の内で感じながら、それから目を背けていたのかもしれない。無意識の中ではこう考えていたのもしれない。

もう一度、三島とゲームの中で街をメチャクチャに壊したい。

その思いが不思議な夢につながったのかもしれない。

成田には無意識は夢の中か、意識が無意識の抑制を失敗しない限り、自覚することすらできない。

成田は5分後には何もなかった様に朝食を食べ、会社に出勤した。それが友達に心配を掛けたくなかった三島を安心させる方法だと自分に納得させた。

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