与太小説「王手飛車取り」

ここは将棋王国。
「王様!王様!」歩が言った。
「ん?なんじゃ?」振り返る王様。
「今日も勝ちましたね!」
「あぁ、そうじゃな…」
「どうしたんですか?そんなに浮かない顔して。」
「はぁ、勝ったと言っても、活躍しているのはいつも飛車や角、はたまた金か銀か、香車か桂馬か…ワシではないんじゃよ。」王様はため息をつきながら言う。
(私の名前は入ってないんですね…)歩は思った。
「いいじゃないですか、勝てたんですから。第一、王様が活躍したなんて話、聞いたことないですよ。」歩が言う。
「ワシもいつか言ってみたいもんじゃ。」
「?」
「『王手飛車取り』ってな…」
「いや、無理ですよそれは、死にますから。」
「無理じゃないもん!全方向行けるんだから出来るもん!」
「だからやったあと死ぬって言ってんでしょーが!」
「辞世の句にするもん『王手飛車取り』って。それで死ぬんじゃもん!」
「やめてください!」

そして月日は流れ、ついに運命の時はやってきた…
(い、いける、王手飛車取り、いける…)奇跡的に、王は夢を叶えることの出来る位置にいた。
「王様、無茶はやめてくださいよ?」歩は言った。
「分かってるんじゃもん………なんて言うと思うたか!いくぞ!これがワシの生き様じゃい!」
「あぁっ!」
「王手飛車取りぃっ!」
(い、いったーーーー!)仲間全員の心の声。
辞世の句【王手飛車取り】
(我が人生に一片の悔いなし…さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろいっ。)
しかし、場は何も動かなかった。相手はただ盤面を見つめている。
(あれ、おかしいな…)王様は思った。
そのとき、歩があることに気づいた。
「王様!王様!」
「なんじゃ?」
「早く、あれを言ってください。」
「あれ?」
「あれですよ、あれ。」
(あ、あれとは一体…………はっ!そういうことか!)何かに気づく王様。
そして、一瞬間があったが、王様は覚悟を決め、
「ま、参りました…」
と言った。
辞世の句【参りました】(死んでないけど)
「ありがとうございましたー。」そう言って、相手の玉たち一向は帰って行った。
王様の命は助かった。
「よかったですね、王様、夢が叶って。どうでしたか?感想は?」歩が話しかける。
「もう二度とやらんもん!」

おしまい


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