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プロジェクト奮闘記~エネルギー問題と農業問題を同時に解決する「ソーラーシェアリング」〜

ー JDSCはAIやデータサイエンスを活用し、さまざまな社会課題の解決に努めています。皆さまに当社の最新の取り組みや課題解決の現場をもっとお伝えするために、今回から個別のプロジェクト紹介を始めさせていただきます!

初回は、今注目の「ソーラーシェアリング」に関する取り組みです。プロジェクト担当の板橋さんに話を聞きます。板橋さん、宜しくお願いします。

板橋です。みなさんは「ソーラーシェアリング」をご存じでしょうか?少し聞き慣れない言葉かも知れませんが、畑や農地の上に太陽光パネルを設置して、農業と発電の両方を行う取り組みで、「営農型太陽光発電」とも言われます。農地を立体的に土地を活用することで、営農家は農業による収入と発電による収入を得ることができます。

2013年に、農林水産省から「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」という通達が出されて以来、全国に取り組みが広がっています。

この取り組みは、エネルギー問題と農業問題の解決に資するものです。
・エネルギー問題
 再生可能エネルギーの拡大によって、温室効果ガス削減に貢献
・農業問題
 発電による安定的な収益により、就農人口不足を解決

※画像は農林水産省 HPより引用(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/einou.html)

ー エネルギーと農業の問題を同時に解決するというのは社会課題の大きな解決につながりますね。でも、一見するとAIやデータサイエンスを生業とするJDSCと農業って距離が遠い気もします。JDSCはどう関わったんですか?

そうなんです。今までJDSCでは取り扱ってこなかったテーマですよね。実際に社内でも「あー、あのプロジェクトね!」と、少し特異だからこそ、全社員に知られているプロジェクトでした。

ー たしかに、営農と言われて最初はなかなかイメージが沸きませんでした。最初にプロジェクトの概要を教えていただけますか?

JDSCは東急不動産様を中心とした12社と共に実証実験を進めてきました。様々な企業が実証に参画していますが、JDSCはソーラーシェアリングにおけるデータ活用の実現に向けて、データ取得/データ分析/次期計画の策定支援に取り組みました。

東急不動産様とのプレスリリースは以下のリンクをご覧ください。

ー JDSCらしい「データ活用」という言葉が出てきましたね。具体的にはどのように進めたのでしょうか?

まずはデータを取得するところから始めました。
取得するデータは「環境データ」と「作物の生育データ」です。

最初は、取得すべきデータ項目やその粒度は?というデータ取得の計画から始まり、必要なハードウェアの選定から調達、圃場(ほじょう)への設置までJDSCが行いました。

環境データを取得するためのハードウェアの設置については少し難航したこともあり、プロジェクトには直接関係のない社内のメンバーからもたくさん意見をもらいながら進めました。圃場に行かないと原因の分からない不具合もあり、この時期は週に2回くらい圃場に通っていました。

データ活用というと、分析の手法ばかりに目が行きがちですが、必要なデータを取得することの難しさと重要さを改めて噛み締めた期間でした。

ー データ取得って本当に大変ですよね。農業系のプロジェクトだと、よりハードルがありそうです。作物の生育データはどのように取得したのですか?

生育データについては営農家の方に毎週圃場での作業をするタイミングと合わせて計測していただきました。

葉の長さや茎径など作物ごとに必要なデータ項目が異なるため、計測も時間のかかる作業だったと思うのですが、営農家の方がこういった新しい取り組みに非常に理解があり、快く引き受けてくださいました。

ー なるほど。生育データだと手で計測する部分も出てくるのですね。

そうですね。収穫時のデータは計測する項目も数量も多かったので、JDSCメンバーも圃場に行って計測しました。

4人がかりでエダマメの粒の数を数えたり、大量のニンジンの長さと幅と重量を計測していたら日が暮れてしまって極寒の中でデータ集計したり、、
あらためて毎週生育データを取得してくださった営農家さんに頭が上がらないなと思いました。

極寒の東松山でのニンジン計測(本当に寒かった、、)

ー この時期、社内のSlackにたびたび野菜や計測作業の写真が投稿されていましたよね。見ていてうらやましく思っていました。

半分はログを残すという意味であげていたのですが、半分は純粋にワクワクしてしまって、、

東急不動産様が開催された収穫イベントがあったのですが、子供たちが畑で嬉しそうにニンジンを収穫している姿を見て「わかるわかる!楽しいよね!」とすごく共感して嬉しくなったのを覚えています。

※ちなみにイベントの様子は、https://solrfarm.jp/blogs/NA8MsYPl に記載されています。

あとは、畑で実際に収穫して計測した野菜のデータが、予測モデルのInputデータとなっていく過程にも非常にワクワクしました。

畑で獲れたニンジン(私は実はニンジンが苦手なので少しつらかった)

ー データサイエンスの会社で畑に行けるのは、かなり貴重な体験ですよね。収穫時のデータが揃ったということは、次は分析ですか?

今回のプロジェクトはソーラーパネルの配置があらかじめ決まっていたため、まずは太陽光の角度やその減衰シミュレーションを行いました。NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のオープンデータなどから予測値を算出し、短期間・長期間と複数のスケールでの日射光シミュレーションを行って可視化しました。

シミュレーションの後は、実際の生育データ・収穫データとシミュレーションの理論値の照らし合わせを行いました。農業は非常に複合的で、日射量などの環境データが生育に対して100%支配的とは言えません。土壌の状態や前作の傾向、隣接する建物も影響しますし、作物の特性も考慮する必要があります。

ソーラーシェアリングでよく議論されるテーマの一つに作物の光飽和点というものがあります。光飽和点とは、植物の光合成においてその値以上の光を当てても光合成の量が増えなくなる点のことをいいます。ただ光飽和点の高い低いだけでは作物のソーラーシェアリングの向き不向きを語ることはできません。このため、「これは取得したデータから言える」「これは言えない」という点を明確にし、「どの圃場で」「どの年度に」「どんな品種を植えるなら」と細かな条件に絞った議論を進めていきました。

最後に次期作付期間におけるシミュレーションを実施した上で、地域性などさまざまな情報を考慮して計画を策定していきました。例えば「圃場の中でもこの区画であれば、これくらいの日射量が確保できそうなので、この作物を植えよう」といったようなディスカッションです。どのあたりにどの程度の畝(うね)を立てれば、今の太陽光パネル配置の中で収穫を最大化できるかという議論を行いました。作付けから収穫までの期間の積算気温と積算日射光を見ることはもちろん、季節による最低気温の変化などにも気を使う必要があります。

ー データを使って、そこまでディスカッションできるのですね。

はい。ただ、ディスカッションの中では営農家の方の知見をたくさんいただき、本当に奥の深い領域だとあらためて感じました。

ですので、データ活用の領域で貢献するためにJDSCができることは出し切る!という気持ちを持ちつつ、東急不動産様や営農家の方のこれまでのご知見をとにかく吸収させていただこうと思って臨みました。

実際に東急不動産様や営農家の方からのミーティング内でのインプットを基に、シミュレーションの内容を都度アップデートしながらディスカッションできたことが、とても良かったと思います。

ー 今後の展望を教えてください!

ソーラーシェアリングはまだまだ先行研究も少なく、データ活用の余地がたくさんあると考えています。エネルギー問題、農業問題の解決と日本にとっても重要なテーマですので、「UPGRADE JAPAN」を掲げるJDSCとしても取り組みを拡大していきたいです。

ー ありがとうございました。

JDSCはさまざまな社会課題の解決に取り組んでいます。
次回も最前線の様子をお伝えしますので、ご期待ください!

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