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住宅化するスマートシティ、都市化するスマートホーム――試される日本の都市計画の「想像力」
※本記事は、2017年8月に当社オウンドメディア「データ流通市場の歩き方」に掲載された内容を一部改変の上転載しています。記事内の情報は初出の時点におけるものであり、現在の状況とはそぐわない部分がございますので、ご了承ください。
地球が「都市化」を始めています。先進国では海外への渡航者数が右肩上がりし、東アジアや中東、アフリカで都市開発が急速に進む見通し。かたや日本では、少子高齢化に伴う地方郊外の人口減少・過疎化が確実視され、「住みやすい都市」の在り方が根底から揺らいでいます。スマートシティ、シェアリングシティ、レジリエンスマネジメントなどの関連用語を紐解きながら、都市・住宅分野のデータ活用の最近を概観します。
(清水響子・本誌編集部)
1. 地球が丸ごと都市化する?
世界的な人口増による「都市」の拡大
21世紀は、地球のあちこちで「都市」が増殖する時代となるでしょう。簡単にいえば、20世紀に先進国で起きた「都市化(Urbanization)」を、他の国々が続々と経験するようになるということです。
国際連合(経済社会局)の調査によると、2030年には世界人口77億人(推定)の60.0%が、1年の半分以上を都市部で暮らすと予測されています(都市人口率)。 [United Nations, 2014]同局Webサイトの予想地図をみると(図表1)、アジア圏は中国、インドなどを中心に、人口1,000万人を超える都市(赤丸)が増えます。北米、ヨーロッパ、アメリカ、中東にも100~500万人都市(青丸)が点在。都市人口率60%以下の国家(黄色、緑色、水色)は、東部-中央アフリカ、南西アジアなどに集中するとの推計です。
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2030年には世界の6割が都市化する。
低所得国、発展途上国ほど急速な都市化が見込まれる
さかのぼれば、1950年代には29.6%だった世界全体の都市人口率は、2010年にはすでに51.6%に達しました。さらに今後は中上位所得国の増加が見込まれているのです(中国、ブラジル、ハンガリー、南アフリカ、タイ王国など56ヶ国。2010年と比べ13.4%増の73.2%)。都市自体の成長率では、下位所得国の成長も著しいと推計されます(図表2)。私たちは人類史上で初めて、「都市に暮らすひとのほうが、そうでないひとよりも多い世界」で暮らすことになるのかもしれません。
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世界的な「観光客」の増加
都市に増えるのは「住む人」だけではありません。2017年4月の訪日観光客数は約258万人と、単月で過去最高をマーク。外国人観光客が増えていると、日々の暮らしで実感される方も少なくないでしょう。
これは国際的な現象です。国際観光客数は、2009年の世界経済危機以降、6年連続で長期予測における年間平均を上回る成長を記録しています。2015年の国際観光客到着数(1泊以上の訪問客)は世界全体で4.6%増加、前年比5,200万人増の11億8,600万人に達しました。 [UNWTO, 2016]
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旅行目的も多様化しています。観光庁では「ニューツーリズム」政策を掲げ、エコツーリズム(自然保護)、グリーンツーリズム(農村民泊)、ヘルスツーリズム(医療)、産業観光など、都市の特性と旅行者のニーズに即した観光の振興を図ります。 [観光庁, 2016] 2020年東京オリンピック開催に照準を合わせ、政府や自治体、交通各社、周辺の教育機関など、産官学で「おもてなし」品質の向上を図る動きはご承知の通りです。
例えば星野リゾートは、ビジネスホテルの観光利用の増加を受け、2017年4月に都市観光ホテルへの注力を発表。大阪・新今宮エリアに都市観光ホテルを開業予定です。 [伏見学, 2017] 7月には日本政策投資銀行らと設立した宿泊業向け投資ファンドの運用規模を、従来比7倍の141億円規模に増やすと発表しました。 [日本経済新聞, 2017]また、東横インがプノンペン、三井不動産が台北、西鉄グループがバンコク、ソウル、釜山、スーパーホテルがバンコクと、ビジネスホテル各社は続々と東アジアの新興都市へ進出を決めています。このように各国の都市には、「居住地として」だけでなく「訪問先として」の機能も充実されるでしょう。
20世紀に「都市化」を経験した日本
都市化は世界で否応なく進展します。各国政府はさまざまな公共事業や投資誘致、助成活動に取り組んでおり、日本もその例外ではありません。国連経済社会局の推計によれば、日本は今や、都市人口率が93.9%を占める都市化国家 [The World Bank, 2017](国連経済社会局, 2013)。香港、シンガポール、モナコなど都市人口率100%の国・地域に続いて、世界19位です(※人口5,000人以上の地域を「都市(urban)」と見なしており、日本の都市化要件とは異なることに注意)。 [国際統計格付センター, 2013]
そして幸か不幸か、日本では戦後の都市開発史のなかで、「都市化」の利点、難点の双方がいくらか明らかになっています。近現代日本史における「都市化」の軌跡を、駆け足でふり返ってみましょう。
2.近現代日本史における「都市化」とは?
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日本の都市化は、都市政策と産業構造の転換によって進んだと言われます。1950年、戦後復興期の都市人口は53.4%でした。それが1970年までにかけて85.7%に急増します(20年で22.3%増) (図表5 日本における都市/地方別人口比率 [United Nations, 2014])。いわゆる三大工業地帯への政策投資が、農村部から都市部への人口流入を促したためです(重化学工業化)。
やがて、大企業の地方進出(企業城下町)と行政の再分配政策(Uターン推進)により、1980~90年代には都市化率は横ばいになります。国連経済社会局の統計では2000年代にかけて再上昇しますが(15年で14.8%増(推計含む))、これはどうやら「平成の大合併」で見かけの都市あたり人口が増えたため。日本銀行のワーキングペーパーでは、若者の数が減り、お年寄りが住み替えに消極的であることで、国内の人口増加率は大都市圏と郊外圏のどちらも鈍化または減退していると見ます。「都市が地方を搾取している」のではなく、「都市も地方も痩せ衰えつつある」のです。[日本銀行「わが国の「都市化率」に関する事実整理と考察」, 2009]
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事態を重く見る内閣府は、「コンパクトシティ」を掲げ、次のような指針を打ち出しています。
公共サービスにおいては、人口減少によりサービス提供の効率性が悪化し、結果として、住民負担はより重くなる可能性がある。人口規模に応じて市域をコンパクト化し、人口密度を一定程度に維持することは、地域の持続性を維持するために欠かせない。 [内閣府, 2016]
このように、日本国内の主要都市を「課題先進地域」と見なす考えも浸透してきました。課題解決のコンセプトは様々な用語で形容されます。スマートシティ、コンパクトシティ、シェアリングシティ、都市ビッグデータ、インフラレジシエンスなどが用いられます。いずれも共通して、都市化に伴うメリットの最大化、デメリットの最小化を、新しい情報技術を用いて実現しようとする試みです。しかし如何せん、「都市を丸ごと情報化する」という構想が巨大だからか、関連する概念が節操なく関係づけられ、個々の用語の定義もいたずらに拡張されてしまいがちです。
そもそも、住まいとはどういうことか
ここでは原点に立ち戻って考えましょう。記事冒頭では国際動向をにらみながら、「都市」とは「多くの人が住み、暮らし、訪ねる場」であり、地球規模で「増殖」していると考えてきました。そのより小さい単位が「住まい」と呼ばれます。もちろん「住むこと」とは、周囲の環境(気候、外敵、他人の視線や侵入など)から身を守り、ひとつの共同体として生活を営むことに他なりません。
これらを行政から見ると、「都市」とは(課税対象として)資産が登記されている「用地の集合体」であり、行政サービスを受ける市民が居住する「人口動態の全体」でもあります。マンションデベロッパーにとって「住まい」は入居者を受け入れる「受け皿」であり、住宅メーカーにとっては「生活空間」であって、建築哲学の視点では住人の日々の暮らしを生み出す「装置」でしょう。 [柳澤 田実] それでは、データ活用の視点から見たとき、「都市(または住まい)」が変化することの利点・難点は、どのように整理できるでしょうか。
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概要やキーワードを整理してみると(図表6)、どの用語でも、新しい「都市」の「再設計」を目指す概念として提唱されています。
例えば「スマートシティ」とは、都市をひとつの単位として「ITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市」であって、「家庭同士やオフィスビル同士と発電所などを双方向で通信できる情報網と送電網でつなぎ、ある家庭で余剰な電力を不足している家庭に送電するなどして需給バランスを最適に保つスマートグリッド(次世代送電網)などが中核技術」だと説明されています。 [コトバンク, 2013]他方で行政データのオープン化とその活用が進むにつれ、「市民のパーソナルデータや自治体が保有するオープンデータの収集・活用によって都市を活性化する取組み」 [多田 和市, 2017]といった側面でも語られるようにもなりました。
世の中で関心が高まるのは歓迎すべきですが、その実状をより良く知るには、ありきたりな固定観念から離れて、新しい概念が何を意味しようとしているかを捉えなおさなければなりません。
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「都市化」は地域の暮らしに「便利」をもたらす
前向きに考えると、都市機能を一定の地域へ集積させることで、道路交通網や上下水道、電気・ガス配管、物流網などの生活インフラをきめ細かく配備できます。買いものや食事、余暇・娯楽も身近で済ませられますし、職場や役所、郵便局、学校、病院などにも通いやすくなります。
生産-流通-消費の拠点ができ、諸面で手間と負担が抑えられれば、誰もが一定の品質で均一なサービスが受けられます。これは否定しがたい利点です。事業者間の競争が加速する一方で、人口の少ない地域では成り立たない、専門に特化したニッチ・ビジネスが生き残る余地も生まれます。住民同士が地理的に身近になれば、新しい交流のきっかけも作りやすいでしょう。出自のちがう人々が集まれば、互いの能力・資産を「分け合う」「持ち寄る」ことも気軽に行えます(シェアリングシティの論点)。総じて、経済効率性が高まると言えます。
「負荷集中」が起き、危機・事故に弱くなる
しかしその反面、特定地域やその管理主体に負荷/資源が集中しやすくなります。人口過密による街路や鉄道の混雑、交通渋滞、建築物の高層化-深層化、エネルギー供給網や情報通信ネットワークの複雑化などが起きるのです(スマートシティの論点)。
それらは都市の脆弱性となって、資源の浪費や思わぬ事故、住民間の紛争・騒動、環境汚染、突発犯罪の温床にもなりかねません。緊急時や災害時、祝祭時にその危機が現れやすいのも困ったもの。防犯・防災のためのシステム維持にも手間がかかります(インフラレジリエンスの論点)。
そうした一切を嫌って、裕福な人々が都市の周縁に移住していき、「郊外」が商業都市として成長した一方、中心都市で居住人口の空洞化が進んだ歴史は周知の通りです(郊外、田園都市、ニュータウンなど)。これは先進各国に共通する国際課題で、2030年には世界のスラム人口が20億人に達するとの推計さえあります。
過疎エリアとの「格差」が生じる
加えて、人やお金、エネルギーなどの資源が一極集中すると、都市化「できなかった」地域との経済格差が開くと非難されることもしばしば。人口減少や、それに伴う空き家増、施設・交通の老朽化、医療・生活インフラの劣化など、廃れて行く都市の維持も課題です。「平成の大合併」を経たあとでも、居住域の縮小や廃村の進め方を現実問題として継続審議しなければならない自治体は少なくないでしょう(コンパクトシティの論点)。都心回帰や地方移住が脚光を浴び、ゴーストタウンや廃墟を観光資源にするアイデアが注目されるのは、都市政策の舵取りが難しいことを象徴しているのかもしれません。
居住者の孤独や不安が膨らむ
住民の顔ぶれが多彩になるからこそ、生い立ちや考え、言語のちがう他人への配慮も求められます。軋轢を産まない関係のための心理的ストレスは増えるでしょう。かえって住民間の没交渉や無関心、棲み分けも生じかねません。ふり返れば、都市の孤独、不安、閉塞感などは、20世紀のポップカルチャーがこぞって扱う人気の題材のひとつでした。職住分離やゾーニング、入居規制、不審者の取り締まり強化はたしかに合理的ですが、「ご近所付き合い」や「うるおい・刺激のある生活」を邪魔してしまうとはよく言われるところ。不寛容が行き過ぎて、人種や身分、思想、貧富を理由とした社会的差別につながった史実は世界中で枚挙に暇がありません。
「都市」そのものが「仮想化」する
また、遠くない将来には、都市活動のいくらかはデジタル化され、仮想空間で行われるでしょう。すでに建築設計の分野では、業務従事者の多国籍化と空間情報処理技術の進歩を背景に、3次元CADツールを用いたBIM(Building Information Modeling)が諸外国で利用されており、日本語圏でも大手・準大手企業を中心に導入が進んでいます。VR/AR/MR(Mixed Reality)の産業応用も盛んで、2017年4月には小柳建設が、MR端末「HoloLens」(マイクロソフト)を用いて、工事現場で工程管理や3D設計図面をホログラム投影する企画を進めています。 [小柳建設, 2017]
人々の生活意識をみても、内閣府「平成29年版 子供・若者白書」が、日本の若者(15歳から29歳)は「学校」「職場」よりも、「自分の部屋」「インターネット空間」を「自分の居場所」と思う割合が高いとの調査結果を公表しています(インターネット調査、n=6,000)。ソーシャルメディアや位置情報ゲームの国際的な普及はすでに自明のこと。VR/AR/MRの技術革新が進むなか、現実の都市空間にもその影響がないとは言えません。
不動産取引の分野でも、米国で起きたイノベーションが研究・紹介され、いよいよデジタル化が始まりました。不動産テック(リアルエステートテック、Real Estate tech, Retech)と総称されますが、商取引の複雑なステップにそれぞれ最適なICT環境を導入して、伝統的な商慣習を変革しようとの目論見です。仲介業務の簡素化や物件購入者の情報格差低減、売り手と買い手のマッチング効率化などを支援するスタートアップ企業も脚光を浴びています。利害関係者に高齢者が多い業界とされ、ITリテラシーの遅れから難航を噂する声があるものの、国内市場へ外貨を流入させたい国交省内の意向も手伝ってか、外国人への不動産取引サービス提供に際する留意点・課題点の洗い出しとその対応は進んでいるようです。
多様化するニッポンの住宅すごろく
住宅業界では課題認識を共有する見解が出ています。住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会(主宰:株式会社タナベ経営)は、1970年代は量の充足が求められた「住まいの時代」。全国の平均世帯人数が初めて3人割れした1990年代は「住まいと暮らしの時代」。そして2010年代は「社会課題解決時代」だと区分します。
その背景には言わずもがな、日本国内の人口動態と生活スタイルの変化があります。高齢者のいる世帯は4割を超え、バリアフリー化のための室内リフォーム経験者も増えています。団塊の世代が後期高齢者となる2025年ごろには、日本版CRCC構想の実行による住み替え需要の高まりも予想されるでしょう。加えて、老後の海外移住やルームシェア、シェアハウス、二拠点生活、お試し移住など新しい「住み方」が草の根で広がります。つまり、いわゆる「住宅すごろく」の選択肢が多彩化・多軸化するのでしょう。
そうしたなか、住宅寿命平均30年とも言われる日本型「スクラップ&ビルド」方式が再び問題視され、Life Cycle Cost低減といった新概念も登場。現に空き家率は13.5%を超え、「駅から1km圏内の空き家は48万戸」(国土交通省「空き家等の現状について」)に達する環境下で、住宅リフォーム市場も成熟期を迎えます。
500~1,000万円帯の工事が減って300万円以下が増え、施行目的も「老後の備え」(60代で最多)、「子供の成長」(40代で最多)、「中古住宅の購入に合わせて」(30代で最多)など多様化しているのです。[一般社団法人住宅リフォーム推進協議会, 2016]
少子高齢化を見越し、行政も若年層(とりわけ低所得層)が(結婚・出産を見越した)生活資力を養えるよう、住宅政策を強化する姿勢を見せています。例えば、取引トラブルや非効率な手続きを増やさないよう、インスペクションデータ(住宅状況調査情報)や住宅履歴情報、中古マンション売買価格データなどの整備、公開、利用が模索されています。空き家データを活用したオンラインサービスも開設されています。
かたや新築市場の先端トレンドをみても、多様さや偶然性に価値を見出すフレーズが語られています。つまり、日本の住まいは「成熟」に直面しているのだとも言えるでしょうか。
希望のある家、多様性、コモンズの感覚、ポストモダン建築の失速、自然さ、入れ子、破天荒な設計、計画的な破綻、低予算短期間住宅という社会課題、施主との協調、多様な平面計画、集合住宅の市場的画一性、こまやかでローカルな微調整の積上げ、開放感、世の中に開かれた計画、量産型住宅のオルタナティブ
「エネルギー効率化」の導入コストを削減するには
もちろん「成熟」とは、かつての成長ペースが鈍化し、やがて活力が失われていくことも意味します。都市化を経験した日本が「成熟」に直面しているとすれば、エネルギー消費の効率化も重要な課題です。
福島第一原発事故後、低リスク・省エネ意識が高まるなか、資源エネルギー輸入費の高騰を解消すべく、経済産業省の肝いりで、2011年から300億円をかけたEMS(Energy Management System)の実証実験が行われてきました(2015年に終了) [経済産業省資源エネルギー庁, 2017]。その後も対象4都市(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市(京都府)、北九州市)は、関連技術・設備の社会実装に向けて、補助金制度を設けるなど共同プロジェクトを続けています。さしずめ、産学官連携による21世紀の「国土強靭化計画」とでも呼ぶべきでしょうか。
けれどもEMS等の取組みは、導入コストの高さや収益モデル設計の難しさが依然として課題です。その普及率も現状1%ほどとまだ低いのが現状。FIT法改正に伴う太陽光バブルの終了後、さらなる逆風として、若年層の雇用劣化と所得低下に伴って、物件・土地所有意向が落ち込み、新築一戸建ての人気に陰りが見えています。2016年にはついに、成約件数で中古住宅が新築住宅を上回りました。太陽光発電など新技術の導入経験は30歳代に多く、これから住宅ローンを組む世代の感覚になじむ住宅商品の開発は、避けて通れない課題です。
こうした市況に対応しようと、スタートアップ企業が既存住宅に「後付け」できる端末、機器、アプリを開発・販売します。レトロフィット、改修型供給といった用語と合わせて注目されています(スマートハウスの論点)。
3.スマートシティ関連市場で流通するデータと、期待される経済効果
このように都市に関わる全業界を巻き込みながら、スマートシティ関連市場は2016年の121億米ドルから2023年には275億米ドル(約3兆円)に拡大するとの見通しです。 [Navigant Research , 2016]「Frost & Sullivan」はさらに強気で、2020年に1.565兆米ドルと1国家のGDP並みの市場規模に膨らむと予測します。 [Frost & Sullivan, 2014]ソリューション種別ごとの経済効果も整理されています。
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どんなデータを使うと、何が起きる?
「都市」の情報化といえば、気候、インフラ、パーソナルデータ、交通量などのデータを収集して、資源の最適配分とその自動化を指します。エネルギーや不動産関連に限らず、「政治とお金 行政オープンデータの歴史に学ぶ、データ公開の制度と実践」の図 17(図9として以下に再掲)で紹介したようなデータも、有望な活用の候補でしょう。
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適用分野別の事例
「都市」は生活圏の全体を指しますから、適用が期待される分野も幅広く、多種類のデータを複数の事業者が連携させ、組み合わせ、融通し合うことも頻繁に起きるでしょう。図表10に分野別の事例をまとめてみました。
[野村総合研究所,2016]、[US Ignite] 、[NIST,2015]、 [NICT 小山泰弘,2016]、[KPMG,2017]、[ReadWrite[日本版]編集部, 2016]などをもとに作成しています。
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図中[2]KPMG「変化し続ける破壊的テクノロジー」より
ベンダー動向 [NAVIGANT CONSULTING, INC]
関連市場には大手ICTベンダーも続々と参入しています。大規模データがあるところにはクラウド関連サービスの需要が必ずあるわけで、逃してはならない商機と捉えているのでしょう。 [Navigant Research , 2016]ではIBMとCiscoの2社が「Leaders」に位置づけられ、各地で積極的にプロジェクトを推進中。日本勢では日立製作所、パナソニック、東芝の3社が挙げられています。GE(米, 製造・工業)、Intel(米, 半導体)、AT&T(米, 通信・電話網)、華為技術(中, 通信機器)、SAP(独, ソフトウェア)なども本腰を据えています。
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国際標準の策定と日本展開
通信プロトコル等の標準規格作りも着々と進みます。機器や建物、施設間を行き交うデータをタイムリーに流通する環境が不可欠だからです。米国では「OpenADR」と「SEP」、欧州では「EEBus」と「KNX」が標準規格に決まりました。OpenADRとEEBusは電力供給者から住宅への通信規格、SEPとKNXは家電通信の規格です。日本ではエコーネットが「ECHONET Lite」を推進し、2017年4月現在約200社が参加します。 [エコーネット, 2017]
KNX Associationが推進するKNXは、建物内で使用する電子機器の分散管理システムの標準規格です。すでにISO/IEC 14543-3として承認され、2017年現在41カ国の405事業者、159カ国の約7万のパートナーが対応中。 [KNX Association]2014年には日本KNX協会も設立されています。
EUでは開発ツールの提供も始まりました。2011年から官民連携でオープンソースのスマートシティプラットフォーム「FIWARE」(Future Internet WARE)を開発し、2014年にリリース。FIWAREには南米やオーストラリアを含む75都市が参加しており [FIWARE Foundation]、日本からは2017年3月にNECがプラチナメンバーとして参加を決めています。 [大谷イビサ, 2017]
日本の政府・企業による予算投下
政府も予算を投下します。ICT街づくり推進会議は「IoT共通基盤技術の確立・実証」事業として2016年度3.5億円、2017年度3.1億円の予算を組み、共通基盤技術の確立、「スマートIoT推進フォーラム」との連携に加え、「欧米のスマートシティ等に係る実証プロジェクト等と協調して、国際標準化に向けた取組を強化」するとしています。 [総務省]
日本の基幹産業のひとつである自動車業界では、次世代自動車(電気自動車、コネクテッドカー、自動運転車)の国際競争に遅れをとらないよう、産学官民が総出で技術開発、実証実験に取り組んでいます。NEDOと日立製作所がハワイ州マウイ島で行った、街ぐるみの日米共同実証実験が好例です。
セキュリティ対策も進みます。2017年5月に経済産業省が「スマートホームに関するデータ活用環境整備推進事業」に係る事業環境構築検討会を発足。 [経済産業省, 2017]また、情報処理推進機構では2016年に「つながる世界の開発指針」を発表。2017年5月にはIoT機器・システム開発時におけるセーフティ要件とセキュリティ要件、実現するための機能の解説「『つながる世界の開発指針』の実践に向けた手引き[IoT高信頼化機能編]」を公開し、注意を喚起しています。 [情報処理推進機構, 2017]
衰退する地方を「このままでは」終わらせないために
1980年代半ば以降、日本の地方自治体は、バブル崩壊後の数年を例外として、若年層の人口流出と少子化に伴う高齢化に長らく直面してきました。近年では民間シンクタンク「日本創生会議」のいわゆる「増田レポート」(2014年)が、「20-39歳の女性人口が概ね30-40年後まで流出し続けた場合、全国1,800自治体のうち896は、このままでは消滅可能性が高い」と指摘しました。
予想減少率が驚きをもって受け止められ、その数値が独り歩きしたものの、特別区内で唯一候補になった豊島区が(まずは統計上で)待機児童ゼロを達成しました。他地域でも、大学研究室から社会課題に取り組む学生の訪問が増えたり、海外留学帰りの若者が地場で町おこしや農業を始めたりと、「このままでは」済ませない取り組みが進んでいます。
こうした動きのうち、都市の魅力を国内外にPRして交流・定住人口を増やそうとする試みは、「シティ・プロモーション」と総称されます。ふるさと納税、ゆるキャラ、ご当地グルメ、聖地巡礼などは、すでによく知られた施策です。「父(母)になるなら、流山市」「日本一のおんせん県おおいた」「ようこそ。うどん県へ」など挑戦的な広告表現の舞台としても活況です。
反対に、都市が持つ資源を住民が効率よく分け合う試みは、「シェアリングシティ」とも呼ばれ、「資源の有効活用による収入確保や節約/産業創出」「無駄の抑制による環境効果」「信頼性の再構築とコミュニティの再生」が期待されています。 [庄司昌彦, 2016]
2016年には、自治体としてシェアリングエコノミーを推進する「シェアリングシティ宣言」に、千葉市、浜松市、長崎県島原市、佐賀県多久市、秋田県湯沢市が名乗りを上げました。 [毎日新聞, 2016] 仕掛け人はシェアリングエコノミー協会。ガイアックスとスペースマーケットが代表理事を務める会費制の啓発団体です(月会費1~10万円)。Airbnb、Asmama、Uber Japan、エニタイム、クラウドワークスなど新興のシェアサービス事業者のほか、パソナ、三井住友海上火災保険、KDDI、DeNAなど120社超が参加しています(2017年現在)。 [シェアリングエコノミー協会, 2017]
都市の機能を「節約する」には?
スマートシティ構想には、収益モデル構築の困難、事業の自己目的化、曖昧な課題、自治体と企業の認識ギャップ、市民参加・理解の醸成、プロデューサー・インテグレーター・推進主体の不在、コスト削減、標準化・共通化、取引市場の活性化、人材育成、すそ野産業の育成、規制緩和といった課題があると指摘されます。[2014年5月EY総研 スマートシティ報告書]いずれも、関係者の人数や立場が増えると生じやすいものです。
逆にいえば、消滅可能性を指摘されたような自治体はむしろ、スケールが小さい分、「個」が「都市」に与えられる影響が大きく、普遍的な課題を縮約しつつ、メリットを作り出しやすいのではないでしょうか。内閣府は「地域の困りごとに対して、地域住民が自ら立ち上がり、解決のための取組(活動)を行うことにより、暮らし続けられる地域を作る」ことを掲げ、「小さな拠点」政策の推進に着手します。 [内閣府, 2017]国道交通省も「重層的かつ強靭なコンパクト+ネットワーク」と称し、立地適正化計画や地域公共交通との連携を行います。
自治体と市民の協働は、地域差こそあれ、進み始めています。例えば「チャレンジ中野!Grow Happy Family&Community」は、様々な理由で親元から離れた子どもの里親制度と、地域会員が子育てや介護を助けるファミリーサポート制度の結びつけを進める市民活動です。 [オープンガバナンス総合賞「チャレンジ中野!Grow Happy Family & Community」と中野区関係者発表, 2017]
この活動に携わる平田祐子氏(中野区役所)は、活動に関する自治体職員の業務負担は「ない」と断言。必要な情報が使えるようコーディネイトし、時には議論するなど、市民の協働をプラットフォームとして支えることが行政の役割だと述べます。活動主催者の齋藤直巨氏(中野区在住)も、平田氏を「仲間」だと呼びます。行政とNPOのスタンスこそ違えど、「できない遠くではなく、いまできることのひとつ」だと前向きです。都市機能の進化は、その地域に住み働く人々の小さな力の積み重ねが、ドライブさせていくのかもしれません。
地域の「箱モノ」を再活用する
山形県高畑町の廃校を利用した「熱中小学校」には、現在21~78歳の147名が生徒として入学。起業家に音楽家、大学教授や料理家など、さまざまな分野のスペシャリスト約100名が授業を行い、「大人の社会塾」「里山体験」などのプログラムを展開。3Dプリンターやレーザー加工機が体験できる「理科ファブ」にも注目です。
他にも長野県小布施町が主催する「小布施若者会議」は、地元の町づくりに資する35歳以下の若者のプロジェクトを支援する組織です。一般社団法人HLABの手がける「小布施に世界最先端の「学び舎」を!」など、地域インフラを活かした企画が応募されています。
すでに米国ではオバマ政権下で公立学校に3Dプリンターを配布し、IoT時代のものづくりを担う人材の早期育成に取り組みます。ドイツでは、中小企業向けにマスカスタマイゼーションのインフラ整備を進めます。 [清水響子, 2017]こうした国際潮流のなかで、日本が大きく遅れを取っているきらいはあります。とはいえ学校は、誰もが集いやすい「箱物」です。地域の「産業ハブ」として活用できれば、地元に根ざした濃密なネットワーク形成ができそうです。「内閣府NPOホームページ」や「非営利法人データベースシステムNOPODAS」などの検索サービスで関連情報が得られます。
4.究極のスマートシティは「自分の家」?
「暮らし」を支えるオフィスビル
建物をコミュニティと捉え、活性化を目指す動きも見られます。大手デベロッパーが自社運営するオフィスビルで、入居企業向けにビルコンや交流会を企画する事例も目にします。三井不動産は、専門誌「月刊総務」と提携した勉強会、ABCクッキングの協力による料理交流会、フットサル大会などを開催し、入居企業間の交流を促します。 [三井不動産株式会社, 2017]イトーキ「SYNQA」のように、異業種交流型のサテライトオフィスを運営する企業もあります。
高級マンションや大手企業の自社オフィス、先端医療施設などは、もはや「小さな都市」だと言えるほど、敷地内インフラを洗練させています。トヨタの自動車工場には、交通違反を取り締まるパトロールカーが巡回しているとはよく言われる話です(私道内で担当課が運用)。2016年秋に電力事業へ参入した清水建設は、スマートBEMS(Building Energy Management System)を販売するだけでなく、茨城営業所では空調・照明クラウドで施設全域の省エネに成功しています。
社内保育園を設ける企業も一部上場企業を中心に増えていますし、福利厚生のひとつとして、転職求人募集に記載する例も珍しくありません。仮眠室を完備するITベンチャーが数年おきに話題になるなど、「職場で眠れる環境」のニーズも鉄道会社や消防署、医療機関、製造工場、新聞・出版社などに限らないようです。
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「ご近所つきあい」「外出」が減っている
自治体も「交流の場づくり」には前向きです。例えば品川区では2016年4月に「町会および自治会の活動活性化の推進に関する条例」を施行し、町会等への加入促進に乗り出しました。 [小川裕夫, 2016]条例を紹介するリーフレットには「町会・自治会はまちの元気の素」とする区長メッセージが添えられ、地域内コミュニケーションのインフラ整備に取り組む姿勢を示します。 [品川区, 2016]
しかし悲しいかな、その意気込みは、若者が「住まい」に対して持つ意識とすれ違っているようにも見えます。「国民生活選好度調査」(2007年)によれば、町内会・自治会への参加頻度は「年に数回程度」「参加していない」が89.3%を占める多数派。「深い近隣関係を望まない人が増えている」「多くの人は困ったときに助け合う関係を望んでいる」と指摘します。
2016年にはマンション内での挨拶禁止のルール化に関する投書記事が賛否を呼び、多数のWebサイトやSNSで議論が白熱しました。「しらべぇ」のアンケート調査によると、なんと1割強が挨拶禁止に「賛成」と回答。特に20代女性と30代男性では、2割程度が「賛成」と答えました。育児世代にとって、マンション住民に対する意識が「ご近所の集まり」から「知らない他人の集団」に変わっているとしたら、ずいぶんとせちがらい結果です。 [小河貴洋, 2016]
現に日本人のうち、都市生活者はこの四半世紀で、「家から外出すること」をしなくなっています。国土交通省「平成27年度全国都市交通特性調査」によると、「外出率」は1987年から2015年で約10%減少、「私的目的の一日の移動回数(休日)」は1992年から2015年で約20%減少しました。産学官が「都市」の「まちづくり」に精力を注ぐ一方で、生活者の肌感覚では、じぶんの「住まい」こそが、「小さな都市」だということでしょうか。
住宅設備は、モニタリングからマネジメントへ
企業・自治体が「場づくり」に腐心する一方で、ホームセキュリティやスマート家電など「自宅」のセキュリティ商品開発は盛んです。例えば、セコムの「一戸建て向けサービス」は、侵入関知センサー、煙感知センサー、非常ボタン、フラッシュライトが揃えられます。駆けつけ警備も引き受けてくれ、機器買い取りで初期費用約30万円、月額費用4,500円。レンタルなら初期費用約69,000円、月額費用5,900円です。
スマホアプリとIoT機器を併用して、マイホームを買えない方でも手の届くサービスを開発するベンチャーも登場しています。
Secual社のセキュリティシステムはボタン電池によるセンサーとスマホを使ったもので、初期費用3万円、月額980円から。「leafee Premium」は1つ2,138円の窓センサー「leafee mag(リーフィー・マグ)」を取りつければ、LINEのチャットボット機能を利用して、同じく月額980円で部屋の戸締まりをどこでも確認できます。 [藤井涼, 2017] 取り付けも設定も自分で行えますから、一人暮らしのアパートや空き家管理にも使えそう。月額払いは大変だという方は、貴重品に取り付ける超小型タグが便利です。[鍵や財布に付けておきたい紛失防止タグおすすめ7選, 2017]
ちなみに「侵入窃盗」の手口で多いのは「一戸建て」の「無締り(閉め忘れ)」と「(窓の)ガラス破り」ですから(警察庁「平成26, 27年の犯罪情勢(平成28年)」より)、こうしたIoT防犯サービスは理にかなっています。
また「平成26, 27年の犯罪情勢(平成28年)」によれば、「住宅強盗」は10年前と比べて72%減の190件/年。「侵入窃盗」は68.0%減の10万8,558件/年でした(いずれも2015年の認知件数)。増加を続ける「特殊詐欺」(14,151件(前年比+2.4%))や標的型メール(4,046件(前年比+5.6%))、攻撃活動等とみられるセンサー端末へのアクセス(1IPあたり1692.0件(前年比+232.0%))とは対照的(いずれも2016年の認知件数)。
つまるところ日本国内では、リアル空間の治安が着実に改善される一方で、コミュニケーション空間での事故・犯罪が増えているのでしょう。
だれが「安心・安全」のためのデータを作るべきか
もうひとつ厄介なのは、防犯分野は加害者・被害者の双方に配慮を要する事案が多く、統計データを整備しづらい点です。例えば、刑法犯の認知件数全体では「男性:女性=2:1」と男性が多いものの、すり・ひったくりや特殊詐欺、性犯罪では女性被害の認知件数の多い状況が続いています。被害申告率も、「性的事件(18.5%)」は「インターネットオークション詐欺(5.0%)」「消費者詐欺(9.0%)」「不法侵入未遂(18.3%)」に次いで少なく(『平成24年犯罪白書』から)、いわゆる「暗数」の多寡がしばしば問題にあがります。
「暗数」には1.被害者が犯罪だと気づけない、2.警察に届け出ない、3.届け出たが告訴はしない、4.警察が届出を受理しないの4類型があると言われます。 [高島智世, 2009]2000年前後からストーカー規制法の制定や全国的な痴漢防止キャンペーンなどで相談件数、届出率とも改善しているものの、警察の捜査網で検知しきれない事案は生じえますし、個々人の防犯意識を高めたほうがいいことは言うまでもありません。
例えばコーデセブンは、「世界が安全になるために」をコンセプトに、女性向けお守りアプリ「MOLY」を提供するスタートアップ企業です。警察や自治体などの協力で提供された犯罪データ、2ちゃんねるやSNSで収集した関連情報をマッシュアップし、これから通ろうとするエリアの危険度をマップで表示したり、危険な場所に近づくとアラートしてくれます。
「つきまとい」など微妙な迷惑行為を含め、警察にはいいたくない、あるいは面倒だけれど、ユーザーが体験した「イヤな思い」を投稿する機能もあり、徐々に利用が増えているそう。今後はカウンセラーや警察等へ直接に連絡する機能も搭載予定。警察当局も、女性被害の実態把握が進むのではと期待しているようです。
同社CEO河合成樹氏によると、犯罪情報の提供に関する警察側の対応は地域差が非常に大きいとか。管理対象とするデータ項目やフォーマットが管轄ごとに異なる、県警ではなく基礎自治体がデータを管理している場合もあるなど、情報流通が地域で閉ざされやすいそうです。「犯罪」は官民データ活用推進基本計画で掲げられた重点8分野には含まれていませんが、身近な「安全・安心」に直結するだけに、関連データのオープン化、標準化が望まれる分野でしょう。
「家事」と「買いもの」が直結する「住まい」
スマート家電も、暮らしに身近なデータ活用を象徴するサービスです。自宅の家電をインターネットに接続させて、機械と機械にデータ通信させることで、まるで「対話」するように「家事」がこなせる仕組みです。
今年4月には、すべての家電をiPhoneで操作できる住宅が、米国カリフォルニア州のサンノゼで売り出されて話題になりました。お値段は約1億円とハードルが高いですが、「Siriに「ベッドルームの電気消して」や「2階の暖房をつけて」と話しかけると、いちいちリモコンやスイッチを探したりすることなく様々な操作ができる」のは魅力的です。 [kimi, 2017]
好みに応じて連携する家電を選べるところがポイントで、Appleのホームアプリケーション「HomeKit」には、テレビ、照明、スイッチ、センサー、コンセント、加湿器など、2017年5月現在14ジャンル・約120の製品が対応。 [Apple Inc.]日本のApple Storeサイトでは、Philips, Nanoleafなどが提供する15種類のアクセサリが購入できます。
ショッピングをリードするのはAmazonです。先ごろ日本上陸した「Amazon Dash Button」は、実質無料・使い捨ての専用ボタンを壁に貼りつければ、「家事」をしながら「買いもの」ができる端末です。2017年5月現在、洗剤、カミソリや歯ブラシ、シャンプー、ペット用品、食品・飲料とベビー用紙おむつの42ブランド700品目をラインナップ。1プッシュでボタンに登録した消耗品が発注でき、ミネラルウオーターや炭酸水、洗濯用洗剤などかさばる商品は人気が高いようです。 [日経トレンディ, 2017]
「持ち家」がなくても、スマートに
さらに、Amazonのスマートスピーカー「Amazon Echo」は、Amazonやスターバックス、Uberなどへの口頭注文ができるほか、音楽を再生したり、質問に応じた検索結果を音声で回答してくれます。 [日経トレンディ, 2017]サービスプラットフォームである「Alexa」は、自社端末だけでなくFord、BMW、GE、華為技術などが手がける700のデバイスに搭載されており、APIエコノミー形成の王道をひた走っています。 [Miyata, 2017]
対する「Google Home」は、検索サービスや多言語翻訳で培った音声認識、自然言語処理の技術を投じて、話者ごとの関係(娘「ママ」と父「ママ」を聞き分ける)を考慮した質問応答ができると話題です。
アジア勢では、LINE「WAVE」が日本向けに2017年内の発売を決定。「LINE Music」を筆頭に、トヨタ自動車やファミリーマート、出前館や内閣府(マイナンバー)との連携を発表しました。すでにLINE本体とYahoo!ジャパン「My Things」との連携は可能で、 [日本経済新聞, 2017] 「APIエコノミーとはなぜそう呼ばれたか ―用法と事例―」で取り上げたころから、提供チャンネルも53に増えています。同社では開発者向けIoTプラットフォーム「myThings Developers」正式版も提供を始めました。
国際プラットフォームの勢力図も変わるのか
もちろん期待と現実にはギャップがあり、「スイッチは使わなくなった」「スマートホームって、バカなの?」「この技術は万能ではない」「ルンバが一転「お客様のデータは売りません!」ただし無償共有の可能性は否定せず」と賛否両論がにぎやか。端末も、音声認識も、背後にあるデータ処理も、プライバシーへの配慮も、企業ごとに得手・不得手があり、技術開発の途上です。
けれども、少なくとも今後に起きるのは、テレビリモコン、照明スイッチ、家庭用ラジオ、室内電話などの「手で動かす道具(コントローラー)」が、「声で操る家具(アシスタント)」に集約される流れ。そしてもうひとつは、端末につながる「世帯」のデータが、普及率の高いIDで本人認証されたうえで、途絶えることなく収集-記録される流れです。日本企業がプライバシー保護の意見調整で苦労しているうちに、国際プラットフォーマーが事実上の「情報銀行」の機能と役割を担ってしまう。そんな悲観的な見通しも成り立ちます。
「住まい」のあらゆる「モノ」が情報化しうる
そう遠くない将来、一般生活者の主流デバイスがスマートフォンから次の端末へと移行するとき、現在の国際プラットフォーマー間の勢力図も塗り替わるのでしょう。IoTがバズワードとなり、ユビキタスコンピューティングがいよいよ夢物語でなくなったいま、「住まい」を取り巻くあらゆる「モノ」が、情報化による付加価値を得る可能性を秘めているのです。
例えば衣類。ZOZOTOWNやUNITED ARROWSなどファッションECサイトはサイズ違いなどの返品ができますし、洋服の青山やGAP、三越伊勢丹などがバーチャル試着を展開していますが、さらにもしも自宅のクローゼットがスマート化されたら……と想像するのは楽しいもの。天候、今日のラッキーカラーや見込まれる移動量、食事や仕事の相手と前回会ったとき着ていた服といったデータに基づいて、最適なコーディネイトを提案してくれたり、不足アイテムを自動で取り寄せてくれたりする日が来るかもしれません。
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5.あなたの「街」のユーザー・ペルソナは?――「日本人の高齢者」以外にも目を向けて
最後に、忘れがちな視点があります。「その街に暮らすのは誰か?」ということです。よくある論点は、少子高齢化と都市の再開発が対になって語られるばかりに、シルバー民主主義の弊害が起きるのでは、というもの。
若年層・単身者や(晩婚化する)子育て世代の生活意識との溝が指摘されるほか、SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity)への配慮、外国人観光客・労働者の生活環境、移民2世・3世の政治参加などが論題に挙げられます。行政担当者が、多岐に渡る当事者ニーズを集めきれていない実状もあるようです。
象徴的な例をとりあげましょう。2020年(予定)の東京五輪に向けて、都心部ではあちこちでホームドアやエスカレーター、エレベーターなどの設置・改修工事が進みます。国土交通省も「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」を公表しています。このWebサイトがアクセシブルでないのが残念ですが……、「腰掛便座、手すり等が適切に配置されているか」といった詳細なバリアフリー基準を定めます。 [国土交通省, 2016]ただ、車椅子ユーザーにとっては「トイレに手すりがある」だけでは不十分。「何センチの高さにあるか」まで分からないと、「自分が使える」と判断できないそうです。
他にも、毎日新聞と社会福祉法人日本盲人会連合(日盲連)の共同アンケート調査(2016年)によると、回答者(n=222)の31.5%が駅ホームからの転落経験があり、そのうち51名は「いつも利用している駅」で、11名は「最近~5年以内」に事故に遭っています。 [社会福祉法人日本盲人会連合, 2017] ホームドアの設置が強く要望されていますが、課題は数億~数十億円といわれる設置コスト。関係企業が低コストで設置できるホームドアの実証実験を進めるものの、2017年3月時点の設置数は665駅/1,0495駅と普及途上。人身事故や飛び込み自殺を防ぐためにも、技術革新が期待される分野です。
アクセシブルな都市はどこにあるのでしょう? EU圏内の先進都市を評価する「Access City Award 2017」(2010年~) [European Commission, 2017]によると、英国北イングランドの古都・チェスター(英)が最高評価。中世の町並みを車椅子で楽しめる「The Rows」、ホームページやマップ [Cheshire West & Chester Council]を通じたバリアフリー情報の提供などが評価されています。ほかにはロッテルダム(蘭)、ユールマラ(ラトビア)といった都市名が上がっています。
日本の都市はどうでしょうか。車椅子の観光客向け情報サイト「wheelchairtraveling.com」によると、トイレや浴室、エレベーターの優先ボタン、交通機関などは比較的高評価ながら、「(病院式の)手動の車椅子を多くの人が使っている」ので、「(ホテルの室内やレストランなどでは)大型の車椅子は操縦しづらいか、まったく身動きが取れなくなることもある」とのこと。
他には、NPO法人が運営する、障害を持つ外国人旅行者向け観光情報サイト「Japan Accessible Tourism Center」(2011年~)も参考になるでしょう。 [特定非営利活動法人 Japan Accessible Tourism Center, 日付不明]また、国連のITアクセシビリティに関する国際組織G3ictが、普及啓発を進める一環として、都市政策立案のためのツールキット「Smart Cities for All Toolkit」を提供します。Microsoft、World Enabledとの協同プロジェクトで、次のように幅広いテーマの標準、ポリシー、事例を参照できます。 [SC4A., 2017]
Guide to Implementing Priority ICT Accessibility Standards
Guide to Adopting an ICT Accessibility Procurement Policy
Communicating the Case for Stronger Commitment to Digital Inclusion in Cities
Database of Solutions for Digital Inclusion in Cities
なかでも「Smart Cities & Digital Inclusion」は、機械判読性の高いコンテンツ提供や遠隔地への配慮、個人の障害に合った支援技術(Assistive Technology)など、具体的な施策に言及があります。 [Dr. Victor Santiago Pneda, 2016]
2008年に国連総会で発効した「障害者の権利に関する条約」には、「他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会」と明記されています。
(遅ればせながら)2014年に批准した日本でも、ドイツのNPOによる「Wheelmap.org」や三鷹市が運営する「みたかバリアフリーガイドおでかけ情報」、G3ictとの提携で注目されたスマホアプリ「Bmaps」など、障害者の外出を支援する試みが着実に進んでいます。全国各地の都市政策が、世界に誇れる水準に達することを願うばかりです。 [外務省資料より, 2014]
6.あなたの「住まい」はどんな街?――「都市化」の未来とその類型
ここまでみてきたように、「住む人」の暮らし方によって、「都市」の将来は無数に変わります。今後はどういった展望がありうるでしょうか。大まかな見通しを得るために、考え方の枠組みを作ってみましょう。
都市政策を立案するとき、その方針には「集積化/分散化」「特化/汎化」の2軸があると考えます。すると図表14のように、4類型で整理できます。
例えば「(A)集積化and特化」は、ある性質に特化した施設・敷地を集積する動き。学術都市や経済特区など、得意分野に重点を置く都市計画はこの類型でしょう。左下の「(D)分散化and汎化」は、個人の「住まい」を「都市化」する動き。スマートホームやスマート家電は、この方針に与する潮流だと理解できます。
続いて、4類型それぞれの都市でどのように「情報化」が進展しうるかを考えます(図表15)。例えば、ショッピングモールやサテライトオフィスのように、「(B)機能特化した設備を都市圏外にも分散」させるとすれば、各拠点間の移動効率が重要であることは言うまでもありません。自動運転やテレマティクス・サービス、次世代燃料自動車などの「モビリティ」が、注力すべき技術分野だと目されるでしょう。
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より詳細に都市の機能を考えることも有益です。例えば、都市には一般に、居住エリア(暮らす)/就業エリア(働く)/歓楽エリア(憩う)/研究エリア(学ぶ・調べる)があるとしましょう。この4機能を都市政策の4類型(図表14)と掛け合わせると、それぞれに都市開発のキーワードが見通しよく整理できます(図表16)。
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さらに踏み込んで「その街に暮らすのは誰か?」と考えると、ようやく住民の具体的な人物像や関心・意向を分析の俎上に乗せられます(図表17)。例えば、「二拠点生活」を送りたい「30-40代」の「住まい」への関心は、個々人の社会的属性や、住居に求める機能によって差があるでしょう。
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ここまで概観したように、「住まい」という語は、多様な人々が幅広い期待と現実を語るときに用いられます。関係者や論点も様々でありながら、あらゆる分野がデータを生み出し、また情報化される可能性があります。他のテーマと比べても、より壮大で、より綿密な「想像力」が求められます。実は不足しがちなのは、「都市が生み出す新たなデータ」だけではなく、「都市とはどうあるべきかを考えるデータ」なのかもしれません。あなたの「住まい」はどうでしょうか。別の場所で暮らす誰かにとって、将来そこを訪れる誰かにとって、住んでみたいと思えるでしょうか。
参考文献リスト
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