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【分野別】自治体のDX・データ活用事例10選!官民連携の取り組みとデータ流通促進施策

近年、DX・データ活用が官民を問わずあらゆる組織の重要課題となっています。日本の地方自治体でも、住民の暮らしをさらに便利で豊かにしていくため、デジタル技術やデータを活用したさまざまな取り組みが進められています。

この記事では、そういった自治体のDX・データ活用事例を分野別に紹介したあと、未来のさらなるDXに向けたデータ流通促進の取り組みも解説します。

【分野別】自治体のDX・データ活用事例集

自治体が主導するデジタル化プロジェクトやデータ活用プロジェクトの事例を、分野別に紹介します。

ヘルスケア

 少子高齢化の進む日本の医療は、「病床の減少」「患者数に対する医師不足」等さまざまな困難に直面しています。住民や医師の高齢化が進む福島県会津若松市も例外ではありませんでした。

 そんななか同市は、「スマートシティ会津若松」を合言葉に推進してきたDX施策のひとつとして、デジタル技術を活用したヘルスケア基盤の構築に挑戦しています。「バーチャルホスピタル会津若松」構想は、IoTデバイス等を利用した自宅での健康モニタリングや薬を自宅まで届ける薬局DXサービス等、健康管理・受診・服薬・介護のすべてをワンストップ・サービスにするものです。

 社会実装も異例のスピードで進められており、昨年度にはインターネットを介して血圧を医師とシェアし、必要があれば携帯での通話により医師の診察を受けられるシステムが動き出しました。説明会に参加した住民からは「自宅でできるというのが良い」という声が寄せられています。

(出典)
スマートシティ会津若松で目指すイメージや将来像を紹介します
スマートシティ会津若松にみるヘルスケア分野の新サービス【第14回】

地域産業の活性化

 地方での人口減少が進む日本では、農業の担い手不足が深刻な問題となっています。りんごで有名な青森県も例外ではなく、新規就農者を確保するためのPRを続けているものの、新規就農者よりも高齢等を理由とした離農者のほうが多いようです。

 この状況に対応するため、青森県はドローン等を活用したスマート農業に取り組んでいます。2020年から始まった「青森県中南地域におけるりんごスマート農業技術の経営改善効果の実証」プロジェクトでは、「農作業日誌アプリによる工数管理」「ロボット草刈機」「自動選果機」を導入してりんご農園の生産効率を改善しました。

 それまで手作業で選果をしていたため、収穫したりんごのうち半分しか選別ができず、残りは全て加工用として安価に売り払っていたそうです。自動選果機の導入によって全ての果実に対して選別を行うことができるようになり、また除草に割く工数も大幅に減少しました。このことにより、農園は質のよいりんごを梱包・発送することにリソースを注ぐことができるようになりました。

(出典)
リンゴ経営において最も効果的なスマート農業とは
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/r2/files/r2_kaju-B01.pdf

住宅

全国で空き家の利活用が問題となっていますが、空き家の調査は容易ではありません。時間と手間が掛かる上に調査対象の絞り込みも難しく、実地検査をしたところ住民がいた、という結果も多々生じてしまいます。

和歌山県ではこの問題に対処するため、機械学習の力を使って空き家リスクを判定できるようなシステムを生み出しました。結果的に93%の精度で空き家を予測できるようになり、調査にかかる工数の削減に貢献すると考えられます。

また同県では今後このシステムを簡単に使えるようなツールを作成し、データ活用を推進する取り組みを継続するようです。

(出典)
Data StaRtデータ・スタート|和歌山県における空き家分布の推定

交通

近年大型商業施設の建設や宅地造成が進んだ宮城県利府町では、住環境の大きな変化に伴い、公共交通環境の改善を求める声が多くあがっていました。

そこで利府町では、公共交通バスの乗車データから町民のバス利用傾向を把握し、ニーズに応じた路線の最適化を図るプロジェクトを始動。バス運用会社と連携して取得した乗車データと、町が実施した住民アンケートの結果を組み合わせて分析をおこないました。

この分析の結果、休日と平日の利用傾向や、エリアや時間帯ごとの利用状況、人が集中しやすい場所が可視化され、町民のライフスタイルに合わせた運行の見直しにつながりました。また、今回取得できた通勤利用者のデータを活用し、エコ通勤の推奨など新たな施策も検討していくとのことです。

(出典)
Data StaRtデータ・スタート|公共交通機関の最適化

物流

長野県伊那市では、市街から離れた中山間地域における「買い物の便」が課題でした。少子高齢化が進み、市街地まで買い物に出かけるのが難しい住民が多くなっていたのです。

そこで伊那市は、ドローンによる配送サービスを始めました。自宅のケーブルテレビのリモコンで商品を注文すると、その日のうちに自宅もしくは最寄りの公民館で商品を受け取れるというもので、ケーブルテレビ普及率がほぼ100%であるという地域の特徴にフィットしたサービスです。ケーブルテレビに登録されたデータを利用するため、住所や支払い方法を毎回入力する必要もなく、簡単に買い物が完了します。

この施策により、遠方への外出が難しい方やインターネット通販に慣れていない方でも、いつでも便利に買い物ができるようになりました。さらに、ドローンに搭載したカメラの映像が災害対策に役立てられるなど、シナジー効果も生まれています。

(出典)
ドローン物流 自治体事例「ゆうあいマーケット」(長野県伊那市) | 活用事例 | KDDIスマートドローン株式会社

教育

富山県氷見市には、児童・生徒の人数が通常よりも少ない「小規模校」が多く存在します。クラス替えを一度も体験せずに卒業する子どももおり、多様な意見に触れたり、さまざまな人との関わりによってコミュニケーション力を鍛えたりする機会がどうしても少なくなるという課題がありました。

氷見市では、各地域の特性を活かしながら上記の課題を解決するために、ICTを活用しています。特に注目される施策は、複数の小学校をオンラインでつなぐ「遠隔合同授業」です。電子黒板にリアルタイムで他校のクラス風景を投影することで、いろいろな学校の児童と意見を交換・共有しながら学びを進める環境が実現しました。

この遠隔合同授業がきっかけで、合同の校外学習や宿泊学習など、オフラインでの交流も活性化しました。こうした氷見市のハイブリッド型ICT教育は、人口減少が進むエリアで学校を統廃合せず地域に学びの場を残すための取り組みとして、全国の教育現場からも注目されています。

(出典)
令和3年度 氷見市教育総合センターだより 第5報 ICTを活用した授業づくり研修会
東京都渋谷区・富山県氷見市・奈良県生駒市の首長がICT教育の実践を発表「第5回 日本ICT教育アワード」 (2/3)|EdTechZine(エドテックジン)

次世代DXに向けた自治体の新たなデータ活用施策

ここまで取り上げた事例からもわかるように、DXでは「データの利活用」が鍵となるケースがよくあります。地域にあるデータを安全な形で流通させ、さらにデータ活用を促進させるために、オープンデータの公開やデータマーケットプレイスの設置を進める自治体も出てきました。

オープンデータの公開

オープンデータの定義は、以下の通りです。

国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう、次のいずれの項目にも該当する形で公開されたデータをオープンデータと定義する。
営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの
機械判読に適したもの
無償で利用できるもの

オープンデータ基本指針(平成29年5月30日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定)


オープンデータの公開には様々な意義があります。京都府京都市の例を見てみましょう。

同市が運営するオープンデータポータルサイトでは、「観光・産業」「文化・芸術」「安心安全・防災」を中心に様々なオープンデータを公開しています。これにより「官民協働で地域の課題を解決する取り組みの活性化」「窓口への問い合わせ数の減少」等、様々な効果が実証されています。

また兵庫県神戸市では、中高生向けのデータサイエンスコンテスト向けにオープンデータを提供するなど、次世代の技術発展も見据えた取り組みも実施しています。このコンテストに使われた架空都市のデータセットは、同市のオープンデータポータルサイトでダウンロードできます。

(参考)
地方公共団体のオープンデータの推進 - ICT利活用の促進
地方公共団体がオープンデータを利活用する際に参考となる事例

データマーケットプレイス

近年、いくつかの自治体で「データマーケットプレイス」を設置しようとする動きがあります。オープンデータプラットフォームは官公庁が保有するデータを無償で公開するものですが、これに対して「データマーケットプレイス」は民間企業等が保有するデータの有償売買も含めたデータ取引の場です。

札幌市:さっぽろ圏データ取引市場

札幌市では従来からオープンデータプラットフォーム「札幌市ICTプラットフォーム」を運用しています。しかし民間企業へのヒアリングの結果、産業振興や市民の生活利便性を高めるには、行政が提要するオープンデータだけでなく、民間が保有する有償データやリアルタイムデータの必要性が高いことがわかりました。

そこで2022年12月14日、利活用ニーズの高い官民データが集積する場として、データマーケットプレイス「さっぽろ圏データ取引市場」が開設されました。

さっぽろ圏データ取引市場には、自治体オープンデータサイト「CKAN」に登録されているオープンデータをAPIに変換するサービスと、民間企業などが保有するデータをAPI形式で有償・無償提供できるAPIマーケットサービスの機能が実装されています。

この2つの機能によって官民データの一体的利活用が進み、地域のビジネスが活性化するとともに、市民がより暮らしやすい街となることが期待されます。

(参考)
官民データ利活用の推進に寄与する データ取引所のあり方・ニーズ調査研究 報告書

京都府:KYOTO DATA MARKETPLACE

京都府はこれまでビックデータを用いた官民協働を促進することを目的とし、「ビックデータ活用プラットフォーム」を運営してきました。

そして、「ビッグデータ活用プラットフォーム」のもつ産学公連携スキームを更に強化し、官民データの流通を加速させるため、2023年2月14日には「KYOTO DATA MARKETPLACE」を開設しました。
京都府ではつくばと並ぶ学研都市であるけいはんな地域に「サステナブルスマートシティ」を構築することを目指し、ヘルスケア分野において産学官連携によるアプリ開発などをおこない、地域課題を解決することを目標にしています。府によるデータマーケットプレイスの設置は、そういった目標の達成に近づくための大きな一歩となるでしょう。

(参考)
【自治体DX】京都府のデータ活用、IT推進の取り組みを紹介!

まとめ

全国各地の自治体で、さまざまなDXの取り組みが進んでいます。今後、自治体主導のオープンデータプラットフォームやデータマーケットプレイスの設置が進み、データ活用の幅が広がれば、さらに市民の暮らしを豊かにする新たな取り組みが生まれてくるでしょう。

日本データ取引所は、民間組織のみならず、自治体や行政のDX・データ活用プロジェクトのサポートにも取り組んでおります。データ活用の専門家として、課題の整理からデータを活用した課題解決、目的の実現までしっかりと伴走してまいります。以下のフォームより、ぜひお気軽にお問い合わせください。