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日本酒の未来を「データ」でつくる。酒ストリート「SAKE Street Database」に学ぶ業界DX

こんにちは、日本データ取引所です。

私たちは、業界内のデータ流通を促進するサービス「JDEXプライベートステーション」を提供しています。その中で、日本国内の各業界内におけるデータ活用・流通動向をリサーチし、「データの民主化」に向けた課題を探る活動に取り組んでいます。

今回その調査の一環として、日本酒業界のデータ活用に向き合う「酒ストリート株式会社」のコンテンツ事業統括・二戸浩平さんにお話を聞いてきました。

酒ストリートが手掛けるデータプラットフォームサービス「SAKE Street Database」をテーマに、データ流通の促進が私たちの生活を豊かにする様子を探ってみたいと思います。


日本酒業界には「データ」の課題が山積みだった

—— 最初に、酒ストリート株式会社の事業内容について教えてください。

酒ストリート 二戸浩平さん(以下「二戸」):酒ストリートは、日本全国に存在する優れた酒蔵と国内外の消費者をつなぐことを目指し、2018年に創業した会社です。⽇本酒専⾨の⼩売事業、⽇本酒の輸出事業、コンテンツ事業、パートナー事業の4つを事業の柱としています。

小売事業としては、東京の浅草橋にある実店舗とECサイトにて21府県の31酒蔵の日本酒を販売。⽇本酒の輸出事業としては、シンガポールに現地法⼈を構え、アジア・欧州に輸出しています。そして、コンテンツ事業としては、⽇本酒に関する情報や読みものを自社メディア「SAKE Street」で発信しています。

酒ストリートの運営するWebメディア「SAKE Street

実は、僕たち運営メンバーはもともと日本酒業界で働いていたわけではありません。ただ日本酒を好きになって、今こうして日本酒に携わる仕事をしています。そうやって違う業界から日本酒の世界に来て気付いたのが、日本酒に関する詳細で正確な情報を入手するのが難しいことです。たとえばよく知られている製法の具体的な手順など、酒蔵の方に聞いてみないとわからないこともたくさんあります。

そういった状態を改善し、僕たちのように日本酒が好きで仕事にしたい人や、日本酒に関心がある人が、オンラインで好きなときに好きなように日本酒について学べたらいいなと考えました。そこで、情報発信によって⽇本酒コミュニティの知識の体系化に貢献することを目指し、日々の業務に取り組んでいます。

—— 酒ストリートでは、2023年5⽉にデータプラットフォームサービス「SAKE Street Database」をリリースしたそうですね。これはどのようなものでしょうか。

SAKE Street Databaseは、日本酒に関わるさまざまな統計データを利用しやすい形で提供することを目指して開発したデータプラットフォームサービスです。

現在はβ版として、「全国新酒鑑評会」の出品・受賞結果や成分分析に関する過去23年間のデータ検索サービスを提供しています。さまざまなデータについて、検索・加工・グラフ表示などユーザーが利用しやすい形で提供しているので、ぜひ一度触ってみてください!

SAKE Street Database のダッシュボードの一部

—— とても面白いダッシュボードですね! どういったきっかけで開発されたのですか?

先ほどメディア事業について話した内容とも重なりますが、日本酒業界では定量的なデータの活用に大きな課題があるんです。

というのも、日本酒に関するデータはオンラインでの整備・公開が進んでいないものも多く、公的機関が公開しているデータもPDFファイルやいわゆる「神エクセル(※)」によるものが多いんです。

使い慣れていないと欲しいデータがどこに掲載されているのか分かりにくく、利活用が難しいんですよね……。そうした状況を鑑み、まずは公開されているデータを入手・検索・利用しやすくすることを目指しました。

※ 神エクセル:紙への印刷を前提に成形されたExcelファイル。セル結合や罫線などにより、第三者によるデータ抽出・活用がしづらいという欠点が指摘されている。

SAKE Street Database開発秘話。一番苦労したのは?

—— SAKE Street Databaseの利用データについてもう少し詳しく教えてください。

SAKE Street Databaseで扱うのは、官民データやオープンデータ、または企業等から当社が提供を受けたデータです。官民データ、オープンデータといっても、e-Stat(政府統計の総合窓口)には載っていないものを使っていて、PDFからデータ起こしをしてスプレッドシートに入力しました。

—— なかなか大変そうな作業ですね……。

そうですね。一番苦労したのは、酒蔵の名寄せ(様々な形式で分散されている酒蔵の情報を統合し重複や矛盾を解消すること)でした。

データ自体は2001酒造年度からあるのですが、会社名が変わったり、合併したり、同じ名前の別会社が存在したり、一つの会社が複数の醸造所を持ってたり、複数の会社が同じ銘柄をつくってたり、旧字体の名称が混在していたり……。とにかく大変でしたね。

いろいろなピボットテーブルを作り、銘柄から酒蔵を引っ張ったり、酒蔵から銘柄を引っ張ったりして、一つひとつ検証しました。

その作業を通して名寄せの大変さを痛感し、酒蔵データベースを作る必要性を感じました。名寄せも考慮した酒蔵限定のデータベースはおそらく国も持っていないと思います。でも、それを作らないことにはこの先いろいろなデータを扱って活用していくのは難しいと考えているんです。

—— 行政の手が回っていない部分を民間主導で改善していく、そんな取り組みも業界のためには重要だと言えそうですね。

例えば官民オープンデータについても、日本酒に限らず、e-Statにデータが格納されていない分野はそれなりにあるようです。行政の現場にも課題感はあるものの、何から手をつけたらいいのかわからない状況なのかもしれません。

ちなみに先日、韓国の伝統酒「マッコリ」についての記事をつくったのですが、韓国では酒造りのデータをXMLやJSONで公開していて、とても役立ちました。日本でもそんなふうにデータ整備が進めばいいなと思います。今後、デジタル庁に期待したいところですね。

—— ちなみに、このダッシュボードはどのようなしくみで動かしているのでしょうか。

フロントエンドフレームワークにはJavaScript言語を用いた「Next.js」を使い、チャート表示にはJavaScript言語でグラフを描画できる「Chart.js」を使っています。現時点(β版)では、一度JSON形式で読み込んだデータをもとに抽出・描画する形を採っているので、動作がものすごく軽快です。

データの扱いは難しいというイメージがあるかもしれませんが、「感覚的に操作できる」「触っていて楽しい」と思ってもらえるように、動きのなめらかさにはこだわっています。今後酒蔵データベースと連携しても、操作の軽いダッシュボードにしたいですね。

業界にも、自社にもメリットのあるデータビジネス

—— 酒ストリートにとって、SAKE Street Databaseはどのようなビジネス的メリットをもたらす取り組みですか?

まず、メディア運営の業務効率化ができるのがメリットです。コンテンツの制作にあたって、輸出量や流通量の統計データを調べてグラフやインフォグラフィック(情報を視覚的に表現する画像)にして、掲載することがありますが、かなり時間がかかるんです。でも、データベースがあれば、リサーチや制作の工数の大幅な削減ができます。

また、テキストコンテンツに比べるとデータベースは英語に直しやすく、海外事業者に向けた多言語展開がしやすいです。将来的には、ITC(米国際貿易委員会)の貿易統計のように、ユーザー登録や有料サービス提供も視野に入れています。

最近は生成AIに大きな注目が集まっていますよね。僕は、人間が作ったテキストコンテンツだけを配信するのはいずれビジネスモデルとして成り立たなくなるかもしれない、と危機感を抱いているんです。そうなったとき、オリジナルデータとの組み合わせや、別のサービスとの組み合わせができたら、強みになるんじゃないかなと思います。

—— まわりからはどのような反応がありましたか。

日本酒業界の人たちからは「(作ってくれて)ありがたい」という声をたくさんいただきました。「動作が軽いから、いじっているだけで楽しい」という感想もありましたね。

第⼀弾を「全国新酒鑑評会」の受賞歴や成分にしたのは、発表される日時が決まっており、業界関係者が注目しているデータだったからです。「一番金賞が多い県はどこだったのか」や「この酒蔵は何年連続で賞を獲得しているのか」は、みんな知りたいと思っています。

—— 確かに、酒屋さんの店頭POPやECサイトで「◯年連続受賞!」みたいなキャッチコピーをよく見かけますし、一消費者として購入のきっかけになっています。

そうですよね。でも、そういうPOPを書くために、あちこちに散らばっているPDFを探して、そこからデータを見つけてくるのはすごく大変なんです。何しろ、年単位でPDFが分かれているので、「10年連続金賞」を調べようと思ったら10個のファイルを見なくてはなりません。だから、みんな困っていたのでしょうね。

でも、SAKE Street Databaseで検索すれば、そのデータがすぐに手に入ります。つい先日も、「10回連続金賞、20年以上落選ゼロ。「文佳人」・有澤浩輔杜氏の酒造り - 高知県・アリサワ」という記事を公開しましたが、「10回連続金賞、20年以上落選ゼロ」という事実もデータベースなら即座にわかるので便利です。

データの利活用で広がる日本酒の可能性

—— 今後、このダッシュボードにどのようなデータを集めたいと考えていますか。

現時点では全国新酒鑑評会のデータのみですが、今後は酒蔵情報や、公開されている輸出量統計、さらには他の企業・団体との提携を進め、プライベートなデータの提供を受けて掲載していきたいと考えています。

経過簿のような醸造関係のデータ、あるいはアルコール度数や酸度等が書かれたお酒のラベルデータも、フォーマットを定めてプラットフォーム化できれば、プロモーションや流通面で打てる施策も増えていくのではないでしょうか。

—— どのような人たちにそのダッシュボードを見てほしいと思っていますか。

マーケットリサーチをする方やメディア関係の方々に見てもらいたいです。日本酒に関する情報は情緒的に扱われることが多くて、データをもとには語られない傾向にあります。間違った情報が出回ってしまうこともありますし……。

なので、「SAKE Street Databaseにアクセスすれば正しい情報がある」という状態を作っていき、情報を発信していく立場の人たちに見てもらえたらと思っています。もしも、ここに載せたいデータを持っている産業従事者がいたら、いつでもご連絡ください!

—— 二戸さん、興味深いお話をありがとうございました! 日本酒業界の明るい未来が見えてくるインタビューでした。これからも酒ストリートさんの情報発信を楽しみにしています!

■ 今回の記事でご紹介した「SAKE Street Database」はこちら。ぜひデータベースでいろいろなデータを見てみてください!

■ 編集部よりお知らせ:日本データ取引所では、無料でデータ取引を始められるデータマーケットプレイス「JDEX」や、業界内のデータ連携を手軽に円滑化できる「JDEXプライベートステーション」などのデータビジネス支援サービスを提供しています。ご興味を持たれた方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。担当者がお客様に合わせた手法や戦略をご案内いたします。