【不動産DX】ユーザー・企業の目線から土地建物を管理する――「不動産ID」の社会実装でスマートシティへ
近頃「不動産ID」という言葉をよく耳にしませんか? 不動産IDとは、不動産を一意に管理することのできるあたらしい管理の仕組みです。
日本の住所表記はややこしい
「住所」は、不動産物件の所在を特定するものですが、そのデータ化においてしばしば問題になるのが「表記ゆれ」です。これは、日本において同じ住所に複数の表記方法があるために生じる問題です。
たとえば「1丁目1番1号」と書くか「1-1-1」と書くか。郵便はどちらの書き方でも同じ場所に届きますが、データとして登録する場合、どちらかに統一しなければ別々のデータだと認識されてしまいます。
この丁目番地問題はシステマティックに置換して解決できたとしても、まだ「ややこしい住所」の問題があります。
たとえば石川県金沢市には「〇〇町イ」「〇〇町ロ」のように、イロハで表される住所がたくさんあるのですが、この「イロハ」にカタカナとひらがな、旧仮名の3種が共存する地域があります。
「金沢市 四十万町 い」「金沢市 四十万町 イ」「金沢市 四十万町 ヰ」
地元の人なら、上の3つはすべて全く違う住所だとわかりますが、イロハ表記を知らない人がうっかりひらがなとカタカナを間違えて入力してしまうと、それは完全に誤ったデータになってしまいます。
こういった住所表記のややこしさは、土地や建物といった不動産の同定の難しさに直結します。たとえば表記ゆれにより、複数の物件が同一のものか否かが直ちにはわからない……という場面がひんぱんに生じるのです。
過去に開発された不動産の「番号」たち
このように、住所だけでは管理しづらい不動産。この問題に対処するために、日本では不動産用にいろいろな「番号」が開発されてきました。
地番・家屋番号
日本の不動産には一筆(一区画)の土地又は一個の建物ごとに作成される地番・家屋番号というものがあります。これは「住所」に用いられる「住居表示」とは異なるものです。
地番と家屋番号は従来同じ番号が割り振られていましたが、地番は分筆(区画を分けること)等で変更されることがあり、また家屋番号も建て替えや建て増し等で更新されるため、番号の整理が非常に難しくなっています。(参考)
不動産番号
また個々の不動産には、13桁のランダムな数字からなる不動産番号というものが存在しています。不動産登記法及び不動産登記規則に則って、一筆(一区画)の土地又は一個の建物ごと(アパート等の区分所有建物においては専有部分のそれぞれ)に設定されています。表示に関する登記事項の一部として、登記事項証明書等の表題部に記載されています。
不動産番号が出来たのは平成16年度の不動産登記法改正(新不動産登記法)です。「一意でゆらぎのない番号であること」「紛れなく不動産を識別可能な文字列であること」「全国の不動産を対象に広く付番されており、各事業者等が統一的に利用できること」「紐付いている所在情報等の真正性があること」を満たすものです(国土交通省「不動産IDルールガイドライン」)。
これは、当時の登記のオンライン化を進める流れの一環として、コンピュータによる物件の検索の効率化や入力の省力化を計るものでした(社団法人全国宅地建物取引業保証協会「Real Partner 紙上研修編 第45号」)。
不動産の番号管理にはいまだ課題あり
ここまで沢山の番号が存在しているにもかかわらず、番号による建物・土地の管理は完璧にできていたとは言えない状況でした。
賃貸マンションには「部屋ごとの番号」がない!?
区分所有でない共同住宅等には部屋ごとの番号が付いておらず、一棟単位で番号が付与されています。これまでは賃貸マンションを部屋ごとに特定するような番号が存在していなかったのです。
なぜなら地番や不動産番号は登記簿に記載するための番号、つまり不動産を所有する人=オーナーに結びつく番号だからです。各部屋のユーザーがその所有者と異なる賃貸マンションでは、部屋ごとに固有の番号が割り振られていません。
そもそも、みんなが使える「共通のID」がない!
不動産管理やデータを利用した輸送の効率化等において、「建物や土地を一意に特定する」ことに対する需要は高まっている一方で、最初に申し上げたとおり、住所は「表記ゆれ」などにより「一意に特定する」という要件を満たしていません。
民間企業を含む多様なプレイヤーが利用できる共通のIDは存在しておらず、仲介・開発の業者たちはさまざまなところに点在する不動産にまつわる情報を独力でしなければいけない状況でした。
そこで新登場!「不動産ID」
この現況を変え、不動産の流通や資産を活用を活発化するために整備されようとしているのが、不動産IDです。
不動産IDとは
不動産IDは、不動産を一意に特定することのできる、17桁の番号です。そのうち最初の13桁は不動産番号から出来ています。これは、不動産番号がもともとIDとしての要件(番号から対象=建物・土地が一意に定まる)を満たしているためです。そして、残りの4桁は「部屋の番号」「階数」等を示すために使われます。
不動産IDのメリット
不動産IDが整備されることにより、物件の情報収集や名寄せが容易になり、不動産関連業界全体の作業コストを削減することができます。
例)不動産情報サイト
複数の不動産業者から寄せられた同一物件の情報を同定して不動産情報サイト上でわかりやすく表示
→一般消費者への正確な情報提供
また、官民の間での情報の連携や蓄積が容易になることによって、新たな不動産関連データ活用の道を切り拓こうとしています。
利活用の構想
国土交通省では、「不動産ID」(令和4年3月「不動産IDルールガイドライン」策定)の社会実装のために「不動産ID官民連携協議会」を設置し、不動産IDのユースケース開発に向けたモデル事業を実施しています。民間企業が主体となるものや官民連携による18事業が採択され、現在「物件管理」「不動産手続きの簡略化」「まちづくり・スマートシティ」「防災」等さまざまな分野で実証実験が行われています。(参考)国土交通省「不動産IDモデル事業 採択一覧」
採択されたものの中から、綜合警備保障株式会社(ALSOK)と埼玉県行田市が連携して行っているモデル事業をご紹介します。
はやく駆けつけるためのデータ連携:ALSOKと埼玉県行田市
警備や消防・救急などの一分一秒を争う現場では、発報や通報を受けたあとナビを使って現地に駆けつけます。しかし、ナビだけでは「近くまで行ってもどの建物か特定できない」という状況が生じるため、ALSOKでは「契約建物に足を運び、詳細な地図を事前に作成する」「警察への通報の際には目印を伝える」等を徹底しているそうです。しかし、不動産IDを活用すれば、そういった建物の特定にかかる手間を削減することができるかもしれません。
警備から清掃・家事代行まで幅広いハウスサポートを実施するALSOK。警備のおしごとに加えて「水道管が壊れた」「電気設備の調子が悪い」等様々なリクエストに応えるためには、さまざまな業者と連携しながら仕事を進める必要があります。
ALSOKは埼玉県行田市にある特定エリアの家屋・建物について、顧客情報と不動産IDを紐づけたデータを作成することにより、他の事業者との間でのデータの連携を実現しようとしています。キーとなるIDが共通していれば、異なるシステムの間でも顧客を特定することが可能となるのです。顧客情報の特定の作業が簡略化されることで駆けつける速度を向上することができるかもしれません。(不動産ID官民連携協議会 第一回総会資料「不動産IDを活用したALSOKの取り組みについて」)
おわりに
ユーザーの視点から不動産を管理する「不動産ID」。いま実証実験がはじまった段階ではありますが、民間企業が不動産にまつわる情報を活用するのになくてはならない存在になるでしょう。不動産業界の業務コストの削減のみならず、輸送や防災などまちづくり・スマートシティ構想を実現する一手になりうるかもしれません。
日本データ取引所が運営するデータマーケットプレイス「JDEX」には、現在様々なデータが出品されています。「不動産ID」と組み合わせることで、あたらしいビジネスがはじまるかもしれません。あなたもデータを使ったあたらしいビジネスをはじめてみませんか?