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シャイなフランス人との出会いの話。

1年半くらい前の話。


納品するレシピ写真の撮り直しを、なんとか終えた日の夜、
ぐったり疲れていて
「何か美味しいものを食べなければ!」という思いで
何度かランチで訪れたことのあるレストランへ行った。

ワインにこだわりのある そのレストランは
グラスやカトラリーがキラキラと光っていて、昼間とは違った艶やかな雰囲気だった。

席に着いたら
好きなハイボールを注文。(ワインが有名なのに)

アンチョビを詰めたオリーブのフライはびっくりするくらい美味しかったし、
ブルーチーズとアイスクリームのソースがかかったチキンも絶品。

お酒が入ったことで緊張もほぐれ、

最近好きになった人が
残念ながら既婚者で子持ちだと発覚したことをメソメソとオーナーに報告していた私。

そのとき、長身の男性が入店してきた。
それが今の彼氏である。

彼はここの常連だが、今日は久しぶりに来たらしい。

「この男、フランス人なのにシャイで静かなんだよね!」

と、オーナーに紹介される。

「フランス人ってシャイなイメージないけどな…。」と思いながら、カウンターで隣に座った彼をチラリと横目で見る。
おっとりした眠そうな顔、くるくるの髪。たしかに静かそう。

「せっかくだし、話してみなよ」というオーナーの計らいもあって、
私は中学英語の記憶を引きずり出しながら会話を試みる。

私はフランス語を話せないし
彼も日本語を話せなかった。

たしか、
「What's your job?」とか
「What's your favorite Japanese Food?」とか

日本に住む外国人なら100回くらい聞かれているであろう質問をした。
私の脳みそにかろうじて残っていた、中学英語の丸暗記フレーズである。
英語の授業は嫌いだったけど、先生、助かりました。ありがとう。

彼は、いちいち膝に両手をおいて
私の拙い英語を聞いている。

好きな食べ物は「sushi」らしい。
こちらも中学の英語の教科書に書いていそうな答えを頂く。

さらに
「How old are you?」と聞いたら
「アナタノ opinion ナニ?」と言われた。

「何歳?」という質問に対し、
「何歳に見える?」という、まさかの質問返し。

「それ、日本だとオカンしか言わんやつやで…。」
と思ったが、それには触れないでおく。

緊張するとよく喋るタイプの私が
とうとう手持ちの質問も尽きた。

特に会話を繋げてこないフランス人。
なんか、水槽の魚を見るような目でこちらを見ている。
顔のまるっこい生き物が珍しいのだろうか。

そろそろ帰るというときに
彼と私の住まいが近いらしく、一緒の電車に乗る事になった。

正直、緊張で飲みすぎたし、喋りすぎた気もして恥ずかしいので
さっさと帰りたい気持ちで頭がいっぱいだった。

帰り道も、喋らないフランス人。
眠すぎて半目になっている丸顔の魚を不思議そうに見ている。

駅から少し歩いたところで
彼は、なにやら建物を指差しているので、
私は「あぁ、この辺りに住んでるのね、バイバーイ」と早口で言った。
この時には、英語を話す余力は完全に無くなっていた。

手を振る私に、彼はスマホを突き出して
「exchange LINE」と言った。
正直、このときに聞き取れたのは「LINE」だけだったけど
「あぁ、LINEの交換ね。」意外と伝わる伝わる。

LINEのQRコードを読み込むときの沈黙は
いつになっても気まずいものだなぁ…。と考えながら
無事に連絡先を交換。

LINEを交換して別れた後、通知音。

「来週、キッシュを作る、家に来るか?」というカタコトメッセージ。
(これだけで突っ込みどころが多い)

「いきなり家かよ!」と思いながら
来週の予定を確認してしまった帰り道。

サポートして頂けると嬉しいです!皆さんにとって素敵な時間になりますように!