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漆器のまち平沢で、伝統を受け継ぐ職人の、いま。

インタビュー相手 白木屋漆器店 宮原義宗さん

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江戸時代から、中山道を通る旅人に求められてきた木曽漆器。
変化する時代に、漆器のかたちもまた、変わってきています。現代を生きる職人のすがたを追いかけました。

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白木屋漆器店の宮原義宗さん。代々、木曾で塗師をしているそうだ。
宮原さんって何代目なんですか?尋ねてみたところ、笑いながら教えてくれた。

「親父は7代目だって言うけど、本当にそうかは知らない。でも、ずっとやってはいるみたいですね」

宮原さんは普段、一般的な漆器の製造と、神社などの建造物の修復をしている。

漆というと小物のイメージがあります。建造物の修理ですか?

「そうですね、県内でいうと、松本の深志神社の舞台っていうかな。その山車を、平成の大改修から平沢でずっとやってきたので、それを15基。塩尻市だと小野家の住宅。県外でいうと、上野東照宮とか、最近は名古屋城の復元をやってきました」

遠くにも行っているんですね。

「そうですね。県外へも、最近は多いです。だから今年はほぼ地元にいなかった」

大きなものはどうやって塗るんですか?

「埃がつかないようにシートをかけて、お湯を沸かしたりして湿度を調整して塗ります。お神輿とかは分解できるので、分解してここで塗りますね」

お願いして、工房を見せてもらった。

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屋内の広い空間に、大きな机がいくつか置かれている。
かなり大きいですね。

「そうですね。やっぱり大きいものとか、山車のものとか、4メートル5メートルあるようなものを乾かさなきゃいけないので。ここはだいぶ広いです。昔、漆の資料館だったところを借りて使っています」

宮原さんは、いつから漆器の職人になろうと思っていたのだろうか。

「そうですね。親もだし、同級生の親も漆器関係の仕事をしていたりして、勤めに出るっていう感覚はなかった」

「一度東京に出てみたときに、やっぱり地元に帰って仕事したいなと思ったので、戻ってきて継いだ感じかな」

代々漆器を作っているそうですが、お父さんとはどんな関係なんですか?

「今は僕と親父でやってますけど、基本的に僕は僕の仕事、親父は親父の仕事でやってますね。けんかになるので(笑)」

仕事は、お父さんに教えてもらったというわけではないんですか?

「うーん、……地区の職人さん全員に教えてもらったって言う感覚が大きいかな。なんにもわからない状態で入ってきて、とにかく仕事をしなくちゃと思って」

宮原さんの白木屋漆器店のある木曽平沢は、古くからの木曽漆器の産地だ。漆器店も多い。

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地区の職人さん全員ですか。

「他の職人さんと一緒に仕事をするって、なかなかないですよ。僕はなにもわからない状態で入ってきたので、他の職人さんと仕事をすることになんの抵抗もなかった。親に教わるというよりは、いろんな職人さんを見て、仕事を覚えました」

「職人さんってそれぞれ仕事のやり方があったりするんだけど、それでも基礎になる技術って言うのがやっぱりあると思ってて。共通する、ベースになる部分があって、職人さんは見て覚えろって言うでしょ」

僕が思ってるのはそれって、「技術と技能は違う」ってことなんです。

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『技術』と『技能』。どちらも同じものに思える。

「技術ってのは基礎になるぶぶん、共通する部分、言葉としても伝えられるし、説明書を作れるようなもの。それに対して技能ってのは、その人の感覚的な部分で、同じ技術で塗ってても、なかなか言葉にして教えられない部分です。微妙な伝わってくる感覚とか、自分が何回もやっているうちに、感覚的にわかってくるもの」

「見て覚えろ」っていうのは感覚的な部分を表していて、技術は言葉にして伝えられるんです。僕が思うには腕のいい職人さんほど教えるのが上手いし、理にかなってる。

普段は学生とか若い方との関わりはあったりするんですか?

「東京の昭和女子大さんと、プロダクトのデザインを勉強をしてる子たちのアクセサリーとか、ちょっとした小物を僕たちが塗ったり、、そういう形で交流はずっと続けています」

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「僕らがなにか考えるときに、これはちょっと難しいかなとか、これはあんまり漆塗っても意味ないかなぁとかで、止まってしまうところってあるんだけど。学生さんたちはいい意味で常識がないから、『やってみたい』とか『おもしろそう』をばっと出してくれて、そうするとなんとか形にしてみようと思います」

そうするとお客さんの反応も見られるし、そういったところで勉強にもなりますね。

漆の常識を破るというと、宮原さんは、漆を塗ったやワインクーラーやボールペンなども作っているそうですが。

「いろんな人と仕事をする中で、ワインクーラーは、塩尻のデザイナーさんが『こんなものを作りたいから』って言うことで、その塗を引き受けたりだとか。ボールペンも、木の軸のボールペンに漆を塗ったりとかしています」

それは、一般的にイメージする漆器とはすこし違うように思います。

「漆塗りのもの、一般的にいうとお椀だとか座卓だとか、そういったものをイメージすると思うんだけど。今はどの問屋さんもどの漆器屋さんも、いろいろなものにチャレンジしていますね」

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やっぱりお椀とか座卓とか、そういったものの需要が減っているんでしょうか。

「やっぱり減ってます。減ってきているし、まず、入り口として、どうやって漆のものを手に取ってもらおうっていうところが。どうしても器なんかでは、100均に安いものがいくらでもある」

もうちょっといいものと思っても、漆は管理とか大変そうっていうイメージがあったりして、敬遠されがちなので。

「そういうところじゃないところで漆に興味を持ってもらえるようにということで、いろいろなことをしています」

ずいぶんいろんなことをしているんですね。昔からのお客さんとかもいたりするんのだろうか。

「漆のものは修理がきくから、個人的に修理をお願いされることもあります。かなりぼろぼろになっていて、直すより新しく買った方が安かったりとかする。僕らも新しく作ったりするほうが楽だったりするから」

「でもやっぱりそこには思い入れがあって。例えば、『おばあちゃんがずっと使っていたものだから、どうしても使いたい』とか。修理する人はなにかしらの思い入れがあって、持ってくる人が多いです」

おばあちゃんの代から使えるほど長持ちするんですか。

「使えます。普通に使っていてくれれば、孫の代まで使えるくらい持ちます」

それをさらに修理して、使っていけるのだという。

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長く続く漆器の産地。

新しいことに挑戦しつつも、ものと共に受け継がれる思いを繋いでいく。
そんな営みがそこにあります。

(取材・編集:塩原知紗)

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