人との縁、家族とともに醸すワイン
インタビュー相手 111VINEYARD 川島和叔さん
ーーーーー
ワインを買うとき、どんなことを思うのでしょう。
味?値段?それとも生産地?
ワイン初心者にとっては、何を選んでいいのか。
手に取って購入するまで、とてもハードルが高いイメージがある。
でも、この人(造り手)の、この土地(産地)のワインが飲みたいと思えるものを見つけると、選ぶことが楽しくなってくる。
今回紹介する方は、ぶどうを育て、ワインを造っている111VINEYARD 川島和叔さん。あたたかな笑顔がとても印象的な方です。
川島さんがワイン造りをするようになったのは、2014年の塩尻ワイン大学1期生になったことから(塩尻ワイン大学の詳細はこちら)。
「もともと農業に関わりがあったわけでも、ワインに特別興味があったわけでもなかったんだよね」
え?では、なぜワインづくりを?
「かみさんの仕事仲間から「旦那さん、農業向いてるんじゃないの?」って言われて塩尻ワイン大学のお話をもらったのがきっかけなんです」
「ただ経験も知識も資金もないから、応募はすごく迷いました。フォーマットがあったんですけど、それに全部記入してからメール送信するのをすごく迷って。締め切り日の日付が変わる1秒前に送信しました。とりあえず挑戦して、やってみないと分からないかなと、応募はしてみた感じですね」
やろうと決めたのは何だったのか。
「結構人気があるって話だったので、自分が選ばれるか分からない、もし選ばれたら真剣にやってみようと思ったんです」
「あとは6次産業ってことかな。作って販売まですることにすごく魅力を感じていたので。出身は塩尻ではないんだけど、塩尻に住んで20年になるので、なにか貢献できたら良いなと思って」
塩尻ワイン大学に興味を持ったのは?
「もともと年を取ってからでもできる仕事を見つけたいなとは思っていて、40も超えているし、子どももいるし、時間の制限もある中で何をしたらいいのかなって思ってはいたんです。特段技術のある仕事をしていたわけではなかったですし、ほんとに悩んでいたんですよ。そんな時に身近な場所で知識や技術を学べるっていうのは大きかったですね」
お子さんもいて、40代で、というのはすごい決断だと思います。
「やれるかやれないかはやってみないとわからないですし、なにか困難があってもどうにかなるだろって思ってるので(笑)」
「こどもが3人いて、一番上が22歳で今年就職の娘。次が、今年就職3年目の21歳の息子、一番下が今度高校生の娘なんだけど。長女が高校に入った年かな、、、その年に畑を始めたの。だから同じタイミングで1年生みたいな感じで。そんな娘が学業や部活を頑張っている姿を見ると父ちゃんも頑張んないとなっていう気持ちになってタイミング的には良かったですね」
近くに同じように頑張っている人がいると、勇気づけられますよね。
「そうだよね。娘が書道パフォーマンスの全国大会に出場したんだけど、本番までの頑張る姿を見て来たから、大会当日は尚更、心に来るものがあって。そういう風に人を感動させたり、勇気づけることって、そうそうできないなって思うんですよ。それで自分も感動を与えられるようなワインを造っていきたいと思って、その時書いた文字を顧問の先生にお願いしてワインのラベルにしました」
娘さんもお父さんが頑張ってるの見てきたからこそ、頑張れたのではないですかね、きっと。
「あとは、二番目の息子は身体的な障がいを持っているんだけど一切弱音を吐かない。自分の子どもながらすごいなって思っている。普通に考えたら『あれができないんじゃないか?』『これ困るんじゃないか?』って思うんだけど、何も言わずに全部やって行く」
「彼はずっと飛行機が好きで、松本空港にもよく行ったし、旅行に行けば近くの空港によって飛行機を見に行くほどで。何でもいいから飛行機に関わる、飛行機の側で仕事がしたいって言ってきて、結局本当に飛行機に関わる仕事に就きましたからね。それを見たときに、こいつ凄いなって思って。夢かなえちゃったよって」
「ぶどう栽培が初めてだから怖いっていう気持ちもあるんですよ。ワインを造ってる方たちは大学とかで専門的に勉強してきてる方たちだから、そこに入っていていいのかなって。でも、子どもたちを見ていたら、勇気づけられているんですよね」
「くじけそうな時もあるけど、みんな頑張ってるから簡単にはくじけられないよね」
下のお子さんは、次高校生なんですね。
「彼女は我が家の中で特別な感じなんですよ。一人だけ帝王切開で生まれて、血液型も一人だけみんなと違って(笑)性格も一番明るくて、人見知りも全くなくて。でも兄妹の中で一番意思が強く、ちょっと難しいと思っていた志望校にもちゃんと受かって。芯を曲げずに頑張っている。だから自分も負けずに頑張らないとじゃないですか(笑)」
家族の形として、深いところでかかわりあってるんだなと感じました。
お子さんたちにもお話聞いてみたいですね。
「3人の子から、いろいろ学ばせてもらってます。心配はしつつも、子どもたちはちゃんと自分で生きていく。そんな子供たちを見ながらお父さんはそれ以上のものを見せないといけないっていう心境です(笑)」
すごく、色々な人からご縁をいただいていると感じました。
「そうですね。ワインを始めるきっかけも、畑を借りるきっかけもかみさんの仕事仲間から始まった縁ですし、苗木もなかなか今手に入りづらいけど、たまたま人伝いで譲ってもらって。その譲ってもらう話も、畑を借りて1か月後くらいで。もし借りてなかったら、『買います!』って言えなかっただろうし。そういう人との出会い、タイミングがすごく良かった」
「2015年に苗木を植えて、初めて収獲をしたのが2017年。それでいきなりその年のブドウでワインも作れましたから、本当に良いご縁ですね」
「うまくいきすぎて怖い部分もありますが…でも、タイミングはその時しかないものなので、掴む判断を自分で納得できるように努力しています。だから、若いときより、良い判断ができてるかもしれない。というか見方を変えて納得してるのかも」
若い時よりということは、昔はそうではなかったのですか?
「昔は失敗したときに『もっとああすればよかった、こうすれば良かった』って結構執着したところあって。でも年を重ねることで、次がくるってことを知ったんですよ。そればっかりじゃないって」
「執着するよりも、離れてみたほうがもっといいものが見れたっていうこともある。そういうのは若いうちでは分からなかったかな。でも若いうちは若いうちで、その場所でもがくっていう経験も良かったと思う。もがかないと次があるってことも分からなかったしね」
タイミングはその時、掴むもの。
自分の周りに目を配り、今あることに全力で向き合うしかない。
そんな人生で大切なことを教えてもらう取材でした。
造り手の思いや人間性、土地、風景を知ると、
遠く感じたワインとの距離がどんどんと近づいてくる。
人との出会いと同じく、
一つ一つの個性を持ったワインとの出会いが
楽しめるようになってくると思います。
(取材・編集 九里美綺)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?