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事業フェーズと組織文化について

ベン・ホロウィッツのWHO YOU AREを読み終えて事業フェーズと組織文化について色々と思うところがあったので感想がてらに書いてみます。

この本は前作のHARD THINGSに続いて、読むと吐き気がするほど本質的に大切な要素を深く洞察しており、組織文化とは何か、組織文化を考える上で重要な肝は何かということを胎の下にずしりと響かせてくれる良書だと思います。自分の中で心に響いた言葉をいくつか引用しておきます。

・文化は常にアップデートし続けなければいけないこと
・言行一致
・言葉ではなく行動で示し続ける
・誠実であること
・悪い知らせと向き合うこと
・正しいということをインパクトのある表現で示すこと
・人ではなく課題と向き合うこと
・根っこにある土壌を穿り返してみる勇気をもつこと

ということでなんとなくこれを読むだけでもいかに大事なことかというのが伝わると思うのですが、特に印象深かった具体事例がUberの組織文化の設計における組織の瓦解の項についてです。詳細は本書を読んでいただけるとわかると思いますが、組織文化の定め方を間違うと、事業モデルや戦略が素晴らしいものだとしても必ず綻びが生じ、深刻な問題を及ぼすということです。結果は、現在のUberの経営体制の刷新に至る経緯などを見て分かる通りですが、様々な組織においてこの点は胸に止めるべきことと感じます。

事業フェーズによって正しいの基準は変化する

この項や自分のこれまでの経験を通じて感じたのは、何を正しいと定義し、それをどのように示すかということです。新規事業に取り組む中で、その時々の正しいというのは異なってくるというように感じます。まだサービスとして成立していないプロダクトを立ち上げている場合、まず最も優先されるのはいかにして早く顧客にとって必要とされるサービスであるかを証明することです。その際に、長期的な安定性や継続性は大なり小なり前述のことよりは後回しになります。組織でそれを実行するメンバーに対しても綺麗に安定によりも、早く実効性の高いものを求めることになります。また、それによって結果が出てきた場合に早く実効性の高い結果を出した人がもてはやされ、称賛される結果になります。翻って、ある程度サービスモデルを確立し、顧客の数を増やしたり、より安定した仕組みづくりや利益を上げるために効率性を求めるフェーズになるとそのようなことに寄与した人が称賛され、評価されるようになります。当たり前ですが、組織文化の正しいの定義は事業フェーズによって行動として変わっていくということになります。わたしは著書を読んで多くのことが事業フェーズと組織文化のアップデートに微妙な差異が生じた際に大きな歪みが起き、組織やサービスの瓦解につながるのかなと強く感じました。

早く動け、破壊しろの弊害

Facebookのマーク・ザッカーバーグが標榜してきたこの言葉も組織文化を表す象徴となってきました。サービスが世にで始めた頃は、スタートアップのスピード感やディスラプションしていく力が魅力として人々を魅了し、社会を変えていくためにとてもクールなものだともてはやされてきました。しかしながら、ここ数年で彼らが巨大化するに伴い、プライバシーポリシーに関する問題や、大小様々な不祥事が噴出しています。顧客が求めていることと、組織として染み付いた文化が徐々に乖離していった結果起こったことなのではないでしょうか。当然彼らも常に自分たちをアップデートしようと必死に取り組んでいることと思いますが、今起こっていることはその歪みが大きくなっていると感じざるを得ないように見えます。

技術負債と同様に組織文化にも負債が溜まっていく

急速に伸びるプロダクトを担当すると、多くのケースで技術負債の蓄積による守りの負債に悩まされるフェーズに必ず突入します。当初想定していない規模でのサービスの拡張をした場合、様々な構造的課題が噴出し、成長痛とも取れる多くの問題をもたらすことになるためです。技術負債は実際にプロダクトとしての痛みが出ますので、具体的な形(サービス停止や不具合など)となって現れてきます。わたしはこれに似たようなことが組織文化にも起こっているのではないかと感じました。組織文化の負債と表してもいいかもしれません。

組織文化の負債は行動とそれに対する反応で蓄積される

組織文化が正しく機能しないということは、現時点の事業フェーズに対して組織文化がフィットしないことだと捉えます。組織文化がフィットしないまま行動が積み重ねられ、それに対する反応(マネジメントからの評価やフィードバック)が現状にフィットしないまま継続されたとするとどのようなことが起こるでしょうか。この場合起こることは、現場の各メンバーがそれぞれに今起きていることに対して対応しようとする“正しいこと“に対して、文化が反作用し、行動が歪んでくることだと思います。Uberの事例で書かれていた、必ず勝たなければいけないという項目を例にすると分かりやすいですが、短期的には勝つことよりも顧客の反応を大切にして着実に進めていくことが正しそうだと現場が思う場面があったとします。この場合に、文化に即するのか、正しいと思う選択を取るのか(もちろん両方できればいいですがそうじゃないケースも必ずあります)という選択に迫られます。もし、リーダーがこれに対して必ず勝つ決断を評価した場合どのようなことが起こるでしょう。当事者は正しいことができなかったことを腹に残し、それを見た周囲の仲間は何が評価され、正しいことかを書き換えていくでしょう。文化とは行動の積み重ねとその反応(フィードバック)によるものだとすると、組織文化はその現状に即していない反作用する力として英知を結集してしまいます。これが継続されていくと、長期的に考えて正しいことをする人はいなくなり、短期的に文化に即した人が指数関数的に増えていくということは火を見るより明らかです。組織の文化というのはそれほど重要なことですし、よりスケールの大きな組織を率いようとすると、文化を軸にして大きな成長のテコにする必要があります。しかしながら、事業フェーズとして適切でない文化を設定したままにすると、それを疑わずに走るメンバーが増えてしまうので組織ばすごい速度で正しくない速度で違う方向に動いていってしまうということなのだと思います。

組織文化は事業フェーズとともに常に問い続け、アップデートしなければいけない

ということで、冒頭にも記載した通りリーダーを中心として事業フェーズの変化とともに組織文化を常に疑い、アップデートすることが非常に大事であるということを本書で切に感じた次第です。組織をリードするためには、長期的な視点で考えながら、この先どうなっていきたいのか、今どのような状態であるのかを常に見極めながら、正しいこととは何か、それをわかりやすく示すにはどう表現し、伝えていくことが必要なのか、それを体現し、行動に移すためには自分を変化させるということが重要ということかと思います。オエっと吐き気のするような大変さを伴う作業ですが、これだけ本質的なことを克明に書いてくれたベン・ホロウィッツの胆力の凄まじさに敬意を表するとともに、実践していけるよう頑張りたいなと決意を新たにするのでした。本書の話はここに書いたこと以外でも山ほど話したいテーマがあるのですが今日はここまで。

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