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イラストで見る江戸の園芸

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▪️約200年前、江戸のまち、花と草木のある暮らし。ささやかで華やかな世界をイラストで覗きます。毎月更新予定です。 ▪️執筆者:笹井さゆり/Sayuri Sasai 昔の暮らしや文化… もっと読む
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記事一覧

第11回 海を渡る花

幕末、横浜港を窓口として外国と交易が本格化する中、意外な花が海を渡り、人気を博しました。 「プラントハンター」とは有用植物・観賞用植物を収集するべく、当時のヨーロッパから世界中に派遣された人々のことです。そんな彼らが日本から持ち帰った植物の中で、圧倒的に受け入れられたのがユリの花でした。 はじめは、当時のヨーロッパのユリより大輪・華麗なヤマユリ・カノコユリが注目を集めたようです。しかし、のちにテッポウユリの需要がぐんと伸びていきます。これは、前者に比べて大量栽培に向いてお

第10回 海の見える山紅葉

葉が色づく季節。「春の桜、秋の紅葉」は江戸時代から変わりません。人々はこぞって紅葉狩りに出かけます。今回はその一端のご紹介です。 犬とおまわりさん(同心)がいるのは、名所のひとつ、海晏寺(かいあんじ)の一角です。高台にあるため、海を見晴らしながら紅葉を楽しむことができました。散策するもよし、茶店で休憩するもよし、各々が思い思いに過ごしました。 一点、現代ではあまり見ないのは「紅葉の下で短歌を詠み、その色紙を紅葉の枝にくくりつけておく」という楽しみ方でしょうか。絵の奥の方に、

第9回 菊細工

江戸の人にとって9月は菊の月です。現代の10月頃にあたり、まさに菊の花が咲きはじめる季節のため「菊月」や「菊咲月」とも呼ばれます。 ちなみに、この菊人形は実際に浮世絵にも描かれているものです。ピンチになると「しばらく~」という掛け声とともに現れる、歌舞伎の人気演目『暫(しばらく)』のヒーローの見せ場の再現です。 『暫(しばらく)』には主人公を女性に変えた派生作品『女暫(おんなしばらく)』もあり、庶民のニーズに応えて男女両方の主人公が菊人形化されています。今に例えると、大ブー

第8回 釣りしのぶ

夏の軒下に吊るすものといえば風鈴。ですがもうひとつ、江戸っ子に人気の “吊るす観葉植物“があります。今回は「釣りしのぶ」のご紹介です。 ざっくりと釣りしのぶの作り方を書きましたが、材料となる山苔やしのぶを探すのも、山苔が崩れないよう成形するのも、葉が出てくる場所を予測しながらしのぶを巻き付けるのも一筋縄ではいきません。各工程で職人の観察眼や技術が大変に問われるものでした。 釣りしのぶは、江戸の庭師が趣味で作ってみたものを出入りしていた屋敷へ、お中元として贈るようになったの

第7回 夏の風物詩、ほおずき市

本格的に日差しが強くなるこの時期、江戸の浅草寺には年に一度のご利益を求めて人々が参拝に押し寄せます。今回はそこで開催される「ほおずき市」のご紹介です。 浅草寺の四万六千日は7月10日ですが、我先にと、ご利益を得るため前日から駆けつける人が多かったようです。そのうち7月9日もご利益の対象となり、いつからか7月9日・10日の両日が四万六千日とされるようになりました。 現在も毎年7月9日・10日の四万六千日には浅草寺で「ほおずき市」が開催され、露店が立ち並びます。 ほおずきは観

第6回 植木を育てる人、売る人

植木や草花を愛でる園芸文化が庶民まで広く浸透するようになると、そうした人々を対象にした仕事も増えていきます。今回はその一部のご紹介です。 一口に植木屋といっても、「地植え」を中心に扱う人、「鉢植え」を中心に扱う人、特定の品種だけを栽培する人、新たな品種を開発する人など多岐にわたりました。 規模の大きな植木屋になると、広大な敷地内でさまざまな植木や草花を育てていたようです。お客さんはその植木屋の敷地へ自由に入り、見物をすることができました(気に入ったものがあれば購入もできます

第5回 夏を告げる藤の花

桜の季節の後、江戸っ子が次に夢中になるのは藤の花。 藤の花が咲くと、人々は春の終わりと夏の訪れを実感しました。 また、藤の花にとどまらず、日が長くなると共に多種多様な花が見頃を迎え、あちこちの花見スポットが観光客で賑わいます。 桜だけではない江戸の花の名所の数々、今回はその一部のご紹介です。 これらの名所は『江戸名所花暦(えどめいしょはなごよみ)』など、当時のガイドブックにも記載されています。名所になったきっかけは様々ですが、現代も変わらず花見スポットとして名を残している

第4回 おみやげは桜餅

春を代表するイベントである桜の花見は、江戸時代に庶民に広まりました。 お洒落をして郊外へと足を伸ばし、桜並木の下で散歩や弁当を楽しむ1日がかりのイベントです。そんな江戸の花見の成り立ちや、当時の名所を調べてみました。 音曲の師匠と弟子たちが身につけているおそろいの着物は、浮世絵に描かれているものを参考にしています。桜色と格子柄がかわいいですね。 桜並木が生まれて花見のスポットが拡大するにつれ、こうした「お花見ご一行」といった団体行動が多く見られるようになります。また、周辺に

第3回 薬にならずともよい植物たちの書

植物に関する書物といえば、長らく中国由来の薬用植物の研究書がメインでした。 しかし、戦乱の世を脱した江戸時代になって初めて、薬などの実用性を持たない園芸植物にも光が当たり始めます。そして時代を通して、競うように多くの「園芸書」が刊行されました。今回はその一端のご紹介です。 ご覧のとおり、園芸書にも「育て方について」「斑入り植物について」など、それぞれ特色があります。また、「朝顔の花」「万年青(オモト)の葉」など、時代によって人々の関心を集める草花も変わっていきました。園芸家

第2回 お気に入りの鉢はどれ?

さて、自分の家でも何か草花を育ててみようかな‥と思い立ったとき、おすすめなのが縁日の露店です。ずらりと並んだ鉢植えの中から、ピンと来るものを選びましょう。 如雨露(じょうろ)の資料はあまり見つけられませんでしたが、園芸アイテムとして、縁日の露店で一緒に売られることもあったかもしれません。 こうした園芸アイテムの豊富さからも、当時、江戸の人々に園芸の趣味が広く浸透していたことが伺い知れます。 【参考文献】 監修・竹内誠『ビジュアル・ワイド江戸時代館第2版』小学館 日野原健司

第1回 江戸っ子に人気の花の名は・・

江戸のまちでは、子どもから大人まで、武士から町人まで、さまざまな人が草花を育て愛でる趣味を持っていました。時には特定の花が人気を集め、大ブームに発展することも。そんな江戸園芸文化の一端をイラストと手書き解説でご紹介します。 江戸時代を通して流行した花には、椿・菊・牡丹などがありました。 朝顔のブームは2回訪れており、いずれも江戸時代後期、庶民の生活も安定して文化が成熟した頃のことです。幕末には、約1200系統もの朝顔が生まれたとも言われています。 さまざまな色や形の朝顔が、