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あぁ、これだから私はこの人が好きなんだった——映画『ヤクザと家族』を見て思ったこと

新型コロナウイルスの流行で外出を渋る毎日。先日久々に彼と映画を見に行った。『花束みたいな恋をした』と『ヤクザと家族』で迷った結果、『ヤクザと家族』を見ることで合意。私は当初『花束みたいな恋をした』推しだったが、カップル向きじゃないという噂も聞いていたし(なぜか映画を見る直前に父親からも同じ旨のLINEがきた)たまにはヤクザものでも見るか、と綾野剛の勇姿を見届けることに決めた。

※ここからはネタバレを含みますので、映画『ヤクザと家族』を未視聴の方はご注意ください。

日本アカデミー賞6冠『新聞記者』のスタッフが再び集結し制作した『ヤクザと家族』。監督曰く「変わりゆく時代の中で排除されていく”ヤクザ”という存在を、抗争という目線からではなく、家族の目線から描いた作品」だそうだ。公式HPには以下のように記載がある。

これは、ヤクザという生き方を選んだ男の3つの時代にわたる物語。荒れた少年期に地元の親分から手を差し伸べられ、父子の契りを結んだ男・山本。ヤクザの世界でのし上がる彼は、やがて愛する自分の≪家族≫とも出会う。ところが、暴対法の施行はヤクザのあり方を一変させ、因縁の敵との戦いの中、生き方を貫いていくことは一方でかけがえのないものを失うことになっていくー。 主人公・山本役に今回初のヤクザ役となる綾野剛。山本に“家族“という居場所を与えた柴咲組組長・柴咲を、ヤクザ役は43年ぶりとなる舘ひろし。その他、豪華キャスト共演のほか、主題歌には綾野自らオファーしたという常田大希がmillennium paradeとして加わり、書き下ろし楽曲で本作を彩る。現代ヤクザの実像を描き、今の世に問題を突きつける、全く新しいスタイリッシュ・エンタテインメントがここに誕生!!

まだ予告編しか見ていないが、2月11日公開の『すばらしき世界』に通ずるところがあるのではないかと感じた。

『ヤクザと家族』の感想としては、とにかく舘ひろしが最高にダンディでスマートで格好良かった。木村翼役を演じた磯村勇斗は今回初めて見たのだけれど、顔立ちが美しすぎて食い入るように見てしまった。綾野剛が1999年、2004年、2019年という3つの時代の山本賢治というキャラクターを演じ分けたのには感心させられた。

主題はすごく良かったし、基本的には反社がここ20年で圧倒的に生きづらくなってしまった現代社会を反映した、内容の深い映画だったと思う。義理人情だけでは生きていけなくなってしまった彼ら。映画がラストシーンに近づくにつれて救いのなさに絶望し、暗い気持ちになった。

前時代的な描写にげんなり

工藤由香(尾野真千子)というキャラクターは山本の恋人として描かれるが、二人の馴れ初めは最悪だった。2時代目の2004年の描写だ。

山本属する柴咲組がケツを持っているクラブで、学費を稼ぐためにホステスとして働く由香が来店した山本を接客するのが最初の出会いだ。クラブ内で起きた、柴咲組と抗争を繰り返している侠葉会の若頭補佐である川山礼二(駿河太郎)との小競り合いによって、山本の手に刺さっていたガラスの破片に由香が気づき、そっと取り除く。

その後、山本はクラブのママを通じて由香を自宅に呼び、性行為に及ぼうとするが由香は拒否。その後、山本は由香を車で自宅へ送り届け電話番号を聞く。正直に言うと私は、ここで由香を送る山本を理解できないし、電話番号を渡す由香も理解できない。

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出典:『ヤクザと家族』VoICE UP! entertainment

山本が勤務中の由香の元へ訪れ、強硬手段を使ってドライブに連れ出し、海辺を歩くシーンがある。海に着くまで由香は、走行中の車のドアを開けて降りようとしたりと、山本に恋心を抱いていることを示唆する描写はなかったと私は思うのだが、ひとつだけ。

山本に「お前」と呼ばれたときに由香はふてくされながらも「由香です」と答えている。クラブではママが「ミキ」と呼んでいたことから源氏名ではなく本名を教えたということになるだろう。海辺のシーンでは「こっちに来てから初めて来た」と喜び、ヤクザである山本に怖気づくことなくとめどなく質問を投げかける。ここから二人は恋仲になったように思えた。

いやいや、待ってほしい。最初にママのメンツをつぶさないために山本の家に寄越されレイプされそうになって拒否した由香が、海に無理やり連れて来られただけで山本に対する感情がこれだけ揺れ動くのはおかしくないだろうか。てか勤務中だし。まあ山本は確かに経営者なわけだけど、由香の直属の上司はママだし。そもそも論でママに怒られるよ。後で柴咲組の組長に「女ができたのか」と聞かれたときに「わかんないです、気が強くて」と山本が答えたのも、気が強いとかじゃねえだろってなったわ。

謎のセックス描写で、もはや面倒くささまで感じ出す

映画を見た人ならお分かりだと思うが、山本が14年間刑務所に入る経緯をすべて説明すると長くなるので、簡潔に説明する。山本が由香との出会いのシーンで侠葉会若頭補佐の川山をクラブで暴行したのを引き金に、両組の関係性は悪化。山本は柴咲組を守るために侠葉会へ乗り込み、川山へ銃を発砲しようとするが、背後に控えていた柴咲組若頭の中村努(北村有起哉)が「親父のことを頼んだぞ」と山本の代わりにナイフで川山を刺す。山本は柴咲組の存続のためには中村が必要だとし、罪を被ることを決める。

問題はここからだ。山本は血まみれで由香の部屋を訪れ、恐怖なのか痛みなのか、他人にはわからない感情で震えていた。由香は山本にタオルを差し出すが、山本は由香に抱きつく。100歩譲ってここまではいい。その後なんでキスした?そっからセックスする?情緒とは?てか怖くて震えてたんじゃないの?「人殺しちゃったぴえん🥺」って由香のところきてセックスすんの?は?となったよ。

翌朝、由香の机には札束が置かれていて、山本が川山殺害の罪で逮捕されたことをニュースで知ることになる。金置いていきたい山本の気持ちもわかるけどさ、なんかセックスに金払ったみたいでいやだよね。

共感を得ることを勝手に諦めていた

そんな感じで由香というキャラクターはとことん要らなかったんじゃないかと個人的には思っている。由香を演じた尾野真千子の演技を否定しているわけではない。私が勝手に女性キャラクターの前時代的な描き方にげんなりしたわけだけれど、そこも含めて『ヤクザと家族』という作品で描きたかった部分なのだろうか。時代の変化についていけないヤクザ、山本は前時代的な愛し方しかできなったというメッセージが込められているのかもしれない。

ともかく、由香以外の登場人物は一人残らず本当に良かった。柴咲組の若頭だったという翼の父親についてもっと細かい描写があっても良かったのではないかと思うが、その他はすごく良い映画だったと思う。ただ、由香の存在によってチープな恋愛描写が増えてしまっている点に関しては個人的に不満だった。

その一方で「ヤクザ映画だしこんなものだよね」という思いがあったのも確かだ。鑑賞後に彼と互いに感想を述べたとき、彼が由香について触れなかったので、私も何も話さなかった。だってヤクザ映画だし。男の子だし。義理人情とか憧れるんじゃないかなみたいな。知らんけど。

予想だにしなかった彼の一言

その日、夕食時に再度『ヤクザと家族』の話になったとき、彼の一言で事態が一変した。

「俺さ、山本が由香の家に行って、キスしたとこで萎えたわ」

マジ!?私と同じポイントで引っかかってたの!?と衝撃を受けながらも「あーね」と冷静な対応をする私をよそに彼は続ける。

「川山殺して、しかも自分が罪被って、それで由香のところに行って抱きしめるのは良かったんだけど、そこからキスするのは違うじゃんね。」

それだよ、、!ポイントはそこ!!!私は感激してちょっと声が大きくなっていたかもしれない、ごめんなさい。とにかく、彼が私と同じ点で引っかかってくれていたことがすごく嬉しかった。マジでビッグラブ。

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出典:Renee Fisher/Unsplash

彼は、机の上に私が置いていた助産師であり性教育YouTuberとして活動しているシオリ―ヌさんの著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』を、私が知らぬ間に読破しているタイプ(どんなタイプ?)だし、生理などについても説明したら真剣に理解しようとしてくれる、素敵な人だ。そんな彼にすら、期待していなかった私に驚いた。自分一人で抱えることなんてなかった。彼なら絶対に、由香の描き方について議論することができたのに。

結果として彼から言ってくれたから良かったものの、もし彼が由香の描かれ方について話を振ってくれなかったら、私はきっと勝手にモヤモヤし続けていた。しかし、それについてしっかり言及してくれる彼が好きだと再認識するきっかけにはなった。当たり前のことを当たり前にできる人ってなかなかいない。私も全然できなくて、お風呂入るって決めてから30分くらいグダグダしちゃうし。ごめんなさい(笑)

ともかく、私は彼が当たり前のように女性が人権のある生き物だと認識しているところが好きだ。こうして文字にすると至極当たり前のことのように感じるが、実際は女性パートナーを自分の所有物だと認識している男性はすごく多い。他にも好きなところはいっぱいあるけれど、今回は『ヤクザと家族』を通して彼の好きなポイントを再認識したということについて、どうしても書きたい気持ちになったのでゲームに夢中な彼の隣でnoteを開いた次第だ。

よって、このnoteは決して映画批評ではない。タイトルの通り、彼へのラブレターなのである。


2021年2月15日追記

しっかり彼にnoteのURLを送り付け、「なんか嬉しかった」との感想をいただきました。言わせた感半端ないですが、これからも書いていいよとの許可を頂いたので、ちょこちょこ書いていこうかなと思っております。

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