シンガポール母子単身赴任を支えるメイドさんは…トランスジェンダーだった
私がシンガポール赴任時代、一番長くメイドさんとしてお世話になった方はLGBTの方でした。体は女性なのだけど、心は男性、というトランスジェンダー。
海外で母子単身赴任という状況を切り抜けるには、メイドさんは必要不可欠な存在です。バリバリキャリアを目指すような働き方をしながら、お弁当作って、子どもの送り迎えをして、宿題をみて、遊ばせて、習い事をさせて…なんて絶対に無理でした。
シンガポールに移住したばかりの当時、もう既に10人以上と面接をしていた時のこと。
誰と面接をしても「料理は得意です」「子どもも好きです」「真面目です」とみんな同じようなことばかりで、どう見分ければよいか分からなくなってきて、疲れていた時、急に現れたのがその方でした。
息子も横に座らせながら面接を始めようとすると、おもむろに息子に話しかけました。
「何歳?サッカー好き?」と。
息子が年齢を言った後に「サッカー好きだよ!」と答えると、嬉しそうに「つい最近サッカーのスパイク買ったから一緒にサッカーしたいな!」
と。
「スパイク?随分本格的だな〜」と思いつつ、そのやりとりをみて、もう彼女に心を決めていました。
髪は短く刈り込んでいて、服装もまるで男性。
通常メイドさんの多くはOFF DAYの日曜日はみんなありったけのお化粧品でバッチリメイク、ボディコンな洋服を着てお出かけするのですが、
彼女はというと、金のチェーンネックレスに、刈り込んだ髪の前髪を立たせ、ダブダブのTシャツとダブダブのハーフパンツ。まさにラッパーのようでした。
もしかしたら、トランスジェンダーなのかな?と薄々感じてはいましたが、ある日、「実は今、メイドコミュニティの中で、LGBT向けのミスコンをやっているんだけど、出てもいいですか?」という相談をされました。
彼女的には、相談するていで、さらりとカミングアウトしてくれたのだと思います。
「あ、やっぱりトランスジェンダーだったのね。なんとなくそんな気はしてたけど!」と返すと、少し照れながら昔付き合っていた彼女の話などを始めました。
通常、あまりプライベートな話をすると、「雇う側&雇われる側」という、ある程度適正な距離を保った関係ではなく「友達同士」みたいな関係になってしまい、その後マネジメントが難しくなる、という話を聞いたことがあったので、今まであまりそうした話をしてきませんでした。
ですが、雇い始めて(つまり住み込みなので同じ家に住み始めて)半年、仕事は真面目にこなし、料理もどんどん新しいレパートリーを増やしてくれる、息子とも目一杯遊んで可愛がってくれるその方なら、きっとそんなことはないだろう、と思い色々話をしました。
その方のプライバシーの話もあるし、詳しいことは割愛しますがジェンダーについては、とても根が深い話だと思いました。
普通に接する限り、明るくて優しくて、何も悩みなどなさそうに見えるその方だけれど、フィリピンでは家族からの理解も得られず、ものすごく傷つきながら生きてきたことがよくわかりました。
もちろん、仕事の面においては変わらずに質の高さを求めますが、ジェンダーに関しては、最大限理解を示していきたい、そして困ったことがあれば支えられたら、と思った日でした。